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かみてん。  作者: あゆみのり
風の大陸。
39/89

体の把握。

 風の大陸端から、聖地パンテオンに向かうため北へ北へ――馬を進め続ける毎日。


「力自体は馴染んでいるようだな」

「うん。すっごくしっくりきてる」

 夕食の煮込み上がり待ち中。

 黒衣の男の話になり「私も戦力になりたい!」と言ったら、タチが指南を始めてくれた。


 両の手を水玉に包み、軽く拳を振る。

 ズーミちゃんがくれた「源」の力は、思った以上に自在に扱えている。

 元は自分のモノなのだから当然なんだけど……


「問題は体の方だな…。どうにも動きが硬い。抱かれている時はフニャフニャなのにな」

「一言よけい」

 タチの方に拳を伸ばし、小さな水の玉を飛ばす。鼻先を濡らしてやる……!


 そんな私のちょっぴりした反抗心は、顔を傾けるだけなんなく躱されてしまった。

 わかっているが、身体能力も反射神経も比べ物にならない。


「まずは目を閉じて、力を抜け」

「……脱力」

 大人しく、言われた通りにダラリと立ち尽くす。


「いいぞ。肩幅まで足を広げろ。……あと私は先生と呼べ」

「タチ。そういうの好きだよね」

 今、思いつきで足されたであろう呼び方。

 三日前は、馬上で突然「おねーさま」と呼ばされた。


「色々味わいたいのだ…!ナナの姉にも!主人にも!先生にも!全ての関係あらゆる角度でお前を楽しみたい……!」

「わかりました。せんせー。だからそんなにコーフンしないでください、せんせー」

「あぁ…!いいぞナナ!私が先生だぞ!!」

 言い合いじゃ勝てないし、いや、肉体的にも勝てないんだけど、何より嫌でも無いので乗っておく。

 タチが楽しそうなの見てると、私も元気が出るし。


「このぐらいでいい?」

 目を閉じたまま、タチの声がする方に顔を向けて、広げた足幅を確認ねがう。

「もう少し、開きなさい。あと「いいですか?」だぞ」

 タチが私の内ももをペチペチ叩く。

 言われるがまま、もう少し足を広げる。


「これぐらいでいいですか、せんせー?」


チュ。


 馴れっこになってきた感覚を唇に覚え、目を開く。


「いま。キスしたでしょ?」

「ナナが言いなりで可愛いのがイケナイ」

「いけないの?」

「いや。とっても良い子だ!……だが目は閉じてないとだめだぞ」

 フル族の所を出てから、日に五回ぐらいはキスをしてる。

 いや嘘だ。たぶん十回ぐらい。


 朝と寝る前は確定で、隙あるごと暇あるごとに「されてる」成分強めのヤツもある。


「ん……。次は?」

 もう一度目を閉じて、次の指示を待つ。

「上半身を左右に軽くねじれ。肉と骨を意識しながらな」

「うん」

 手をぶらぶらさせたまま、右に左に、体をひねる。

 腕やお腹の筋がひっぱられ伸びるのを感じつつ。


「いいぞ。ちゃんと体を把握しろ。押しのける空気や、血液の流れも感じられるように」

 難しい注文だけど、とりあえず言われた通りに、体をふる。


「タチは、いつも意識しながら戦ってるの?」

 目を閉じ体を動かしながら、先生に質問。

「戦闘中は考えん。意識せずとも、それこそ「手足の様に」動かせなければ話にならない」

 要するに、私は自分の手足すらまともに動かせてなく、見えるというわけだ。


「お手数かけます」

「一から仕込んでやるからな。…しかしつくづく不思議な女だ」

「そんなに変?」

「あぁ。なんと言うか――肉体がしたしんでない。次は軽く腕を回せ」

 生まれ落ちた時から、自分の肉体と共にある人間はもっと違う感覚なのだろうか?

 私には知る由もないが、こう……もっとぴったりするものなのかも。


「体を把握…体を把握……」

 小さく、自分に言い聞かせるように呟く。

 今一番しっくりきてるのは、ズーミちゃんに返してもらった源の力。

 それと、さっきチューされた唇。

 

 そういえば、タチに抱かれている時は、ふわふわしてるけど、強烈に自分の体を感じていた。

 普通の人は、常にあんな感度なのだろうか?

 いや、さすがにそれはないよね…?それじゃその――えっちすぎるし。


 暗闇の中、意識が思いをさぐり始め、胸がキュッと締まる。

 今でも、タチの優しい温かさが私の中でうごめく。


「ナナ。肉と骨を意識して体を動かすんだぞ?」

 自分の中に潜り初めていた私は、タチの言葉でハッと目覚めた。

「…意識してるもん」

「私に嘘をつくな。ほんのり頬まで染めて……これ以上可愛い感じになったら抱くぞ?」

 戦力になりたいと言ったのは私、指導の最中だという事を忘れて何を思い出してたのか……。


「……ごめんなさい」

「先生とつけろ」

 …まぁ。タチにとっては、遊び半分のお勉強な気もするけど。

 それでも、私にはいくらでも学ぶことがある。

 足しにはならないまでも、足を引っ張らない程度に体を動かしたい。


 なのに、色ボケかました私が悪い。


「……ごめんなさい先生」

「だめだ!!!たまらん!!!」

 わかっていたような、いないような。

 集中できてなかったことを反省する、私の気持ちは本当だけど、それがまた彼女には「美味しかった」ようで。


「可愛い!撫でまわしたくなる!!」 

「せんせー…もう、撫でまわしてます」

「すべすべの背中だな!!!」

 ギュッと、きつく抱き締められ、露出した背中を触られる。

 やっぱりわかるのは、自分で体を動かしている時より、肉体を確かめられるという事。


「ナナは悪い子だ…!私をこんなにも興奮させ――」

「まてまてまて!!!」

 タチが私を地面に押し倒し、上の服をめくりあげようとした瞬間。

 お鍋の煮込みあがりを、じーっと見ていたストレの声が挟まった。


挿絵(By みてみん)


「襲撃者のタメの訓練なはずだろう!?」

「そうだが?」

「黒衣の男はそんな襲い方しない!!なんの訓練にもならん!」

 いっつも忘れられるストレの、いっつもまっとうなご指摘。

 ごめん。今回は気付いていたんだよ?私たちのやりとりにかかわらないよう、お鍋だけを見つめてたこと…。


「まだ基礎の基礎を体に教え込む段階だ!個別対策など先の先!!」

「ならその手はなんだ!!どんな基礎だ!!!」

 私の服をまくりあげるタチの腕を、ビシリと指さすストレ。

「…だから教え込んでるのだ」

「なにを!?」

「性を!!!」

「ほらな!!!」

 とりあえず。とりあえず言い合いするのはいいのだけど、服まくり上げたままはやめて欲しい。

 さりげなく引き下げようとするも、タチの手はまんじりとも動かない。


 ごめんなさい。ストレさんに見えてます。恥ずかしいです。


「チビ様もちゃんと怒らないとダメです…!こいつはいくらでも調子に乗る種族です!!」

 うん。知ってる。

 グイっとこっちを見た以上、今更目を反らせないんだろうけど、顔を真っ赤にしながら訴えかけるストレ。

 恥ずかしいのは見ちゃったあなたより、丸見えの私だからね?


「ごめん。。。でも先生のこと嫌いじゃないから」

 恥ずかしさ増し増しで、乗ったまま行く私。

「たまらん!!!それに減るもんでもない…いや、増している!!キズナ的なものが!だろうナナよ!?」

「……はい。先生」

 恥ずかしくて死にそうだから、このままつっぱしる。

 だってもう……上脱がされてるし。

 今更冷静につっこんだ所で、客観視があぶりだす間抜けな姿が、自身を殺すだけだし…。


「毒されてる!!!」

 一番まともで、まっとうなご指摘。

 でもそれが、あられもない姿の私を串刺しにして、抵抗力を奪う……。


 今日一番の脱力である。

 まさか――これがタチ先生の教え……!



「フル族の元を離れてからというもの…!ちゅっちゅ、ちゅっちゅちゅと!見境もなく唇を重ねて……!!いけません!!!」

 悲しい現実逃避に浸るしかない私を置いて、ストレは激しく責め立てた。

 だって……求められるの嫌じゃないんだもん――一緒にいると安心するし。


「気持ちが良いのだ!!なにを自制する必要がある!」

 ちょっと私と違う感想で、反論するタチ。

「王子のみならず、私の新たな主までたぶらかすとは……!ゆるせん!」

 

 ブン!ストレの槍が、タチのいた場所で空を切る。


「おい。ナナに当たったらどうする!」

「私の腕は、そんななまくらではない……!っというか!避けるついでに揉みしだくな!!」

 槍の一薙ぎを避けるため、私を抱きかかえ転がったタチのお手ては、いつもの位置。


「なつかしいな…ナナ。出会いはズーミの攻撃を避けるついでに触れた時だ」

「ズーミちゃん……元気にしてるかな?せんせー」

 もうここまで来たら、最後まで乗っかり切る。

 私はタチの生徒。


「今頃、もちもちでも頬ぼってるさ」

「いいな……私も食べたい」

 言われるとあの甘くもっちりとした触感が口に広がる。

 だめだ、お腹がなりそう。夕飯前だし。


「これで我慢しろ」


チュ。

 軽く、優しく、唇で挨拶。


「きえぇえええええええ!!!!!主をかえせぇええええええ!!!」

 銀髪の追跡者が奇声を上げて槍をつく。全力で、命を取りに来るヤツを。

 とっても楽しそうに私を抱えて、逃げ回るタチ。


(もう…とっくに煮れただろうな……)


 きゅぅ~。

 

 上半身裸で抱きかかえられ、仲間に追い回されてお腹を鳴らす私。

 もう意味が分からないが、受け入れるしかない。

 きっとこれも人生なのだろう。

 

 でも本当は、みっともなくて、はしたなくても、今を楽しめている自分にびっくりしている。


 これは間違いなく、タチと出会ったせいだ。  

 こういうのでも、いいのかもしれない。


 ――神としては、致命的にダメな気はするけど。

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