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かみてん。  作者: あゆみのり
風の大陸。
30/89

失意の者。

 私たちは北西を目指し、大地を駆ける。

 今度はちゃんと一頭ずつ、馬にまたがって。


 黄昏時たそがれどき、広い広い草原を走っていると、まるで神話の世界に迷い込んだ気分になる。

 私神だけど。


「やはり雲行きがおかしいです。早めだが野営の準備をしましょう」

 先行し雨風をしのげる場所を探し出してくれたストレ。

 私の横に戻るなり、急かすようなしぐさを見せる。


「一応役にたってるな。えらいぞ」

 どこでも一番偉そうにしてるタチが、ストレにねぎらいの言葉をかけた。


「私の主人はチビ様だ。お前に褒められても嬉しくない」

 「様」をつけてもチビ呼びなのは彼女の意地なのだろうか……?

 別にいいけど。


 ストレとはテッドの街でお別れ予定だったのだけど、泣きすがる姿と、青い友人が抜け、寂しくなった旅仲間の埋め合わせで道案内として雇ったのだ。


 私が個人的に。


「ご苦労様。風読みができて凄く助かってる」

「ありがとうございます。チビ様」

 元は王室近衛兵。胸に手をあて、頭を下げる姿に凛々しさを感じる。


 泣き顔だけが彼女のお似合いじゃないようだ。

 一番あっているのは泣き顔だけど。


「ナナは私の女だ。だからお前は、私の下僕でもあるということだぞ」

 強引な理論で上下関係を強要するタチ。

 基本、主従でしか人間関係を認識できてない、残念な脳みそをお持ちのようで。


「チビ様を手に入れてから言うのだな」

 馬移動の最中交わした会話で、私とタチの関係を正確に把握してくれたようで助かる。

 そう、私はまだタチの女じゃない。


「唇は頂いた。あと少し全て頂くさ。だろう?ナナ」

 そんなこと当人に聞かないで欲しい。

「しーらない」

 空がゴロゴロと不穏な音を立てる中、ストレの見つけた場所へと馬を急がせた。

 湿った重い足音が、地面を削り取りながら、前へ――前へ、――と


 走り出したその先、進行方向に黒衣の人がいた。

 こんなただっぴろい野っぱらに、たった一人、深緑の絨毯にできたホクロのように。


 ――いつの間に?突然現れたように見える。


挿絵(By みてみん)


「全て……お前が原因なんだろう?」

 黒マントの下から見える、全身真っ黒の鎧。

 一目見ただけで背筋の凍る感覚。

 

 見たことのある深い黒だ……。


 神殺し。


「ナナ。下がっていろ」

 横並びで馬に乗っていたタチが、真面目な声で私に話す。

 いや、話しかけたのじゃない「指示」を出した。



「神様がいってたぜ?……お前が悪いって」

 黒衣の者が右腕をのばす。広げた手の平から火の玉が3つ飛び出した。


 私に向けて。


バシュ!バシュ!

 馬を飛び降りながら、タチが火の玉を水の剣で撃ち落とす。

 しかし、一つが落としきれずに、私の馬に当たった。


「わっ――!」

 馬の首元が焼けこげる。

 悲鳴と共に馬はあばれ、私を振り落して逃げ出した。


「チビ様!」

 ストレも馬を降り、野原に転げた私を助け起こす。

 突然なんで……!?わかることは明確な敵意と、それが私に向かってだという事。


「ストレ!ナナを守れ!!」

 タチが振り向かずに叫び、黒衣の者に斬りかかった。

 明確な殺意のある攻撃に、敵だと認識したのだろう、行動が素早い。


「邪魔だ」


ズラリ。

 黒衣の者も剣を抜き、二人が打ち合う。

 二合、三合――次々重なる斬撃と二つの黒い剣。


「タチと――斬り合ってる……!」

 黒衣の者は私に見えない速さで、タチと攻防を繰り広げていた。 


「馬鹿な……」

 戦闘力の無い私なんかより、実感が強いのだろう。

 ストレは開いた口も閉じず、頬に冷や汗を流す。


「お前のせいなんだろう…?なぁ――!!!」

 男が叫ぶ。

 私に向かって。


 その声に含まれた、黒い感情に体がすくむ。


「ないがしろにするほど余裕があるのか?」

 男が私に言葉をぶつけ、打ち合いの手が止まった瞬間。

 タチが重なる刃先をずらし、男の腹部に蹴りを入れた。


グラリ。

 

 強烈な打撃に体勢を崩す黒衣の者。

 その隙を逃さず、追い打つようにタチが神殺しで男の胸を突き刺す。


ブシュ!


 赤い血が。黒い刃をつたって地面に落ちた。

 黒い男から流れ出す赤。

 

 それは彼がまぼろしではなく、まぎれもなくヒトだと証明している。


「間抜けめ」 

「……それでも勝てるもんでね」  

 人間なら致命傷。完全に貫通した刃に膝をついたものの、男はニヤリとタチを見上げた。


ザシュ。


 男の振るった剣が、タチのわき腹を裂く。


「タチ!!!」

 そんなわけない。

「ダメだチビ様!」


 腹から血しぶきを上げ、崩れ落ちるタチ。

 駆け寄ろうとした私の体は、ストレに止められた。


「ただの女にしか見えないが……」

 男は私を見つめたまま、ムクリと立ち上がり胸に刺さった剣を抜く。

 

「どうでもいい。とりあえず殺してみるまでだ」

 ゆっくりと、こちらに歩いてくる。

 タチを斬った血に濡れる剣を手にして。


「時間を稼ぎます……そのうちに、私の馬で――」

 男に聞こえぬように、私に耳打ちをするストレ。

 こんな状況でも、冷静な判断で主人を逃がそうとする。

 

 きっと、立派な近衛兵だったのだろう。


「やだ…やだ!タチを助けなきゃ!」

「無理です――私たちの敵う相手ではない……わかるでしょう?」

 嫌だ。嫌だ。横たわったタチから目が離せない。

 あんなに血が流れてる……。


 大丈夫。タチがこの程度で負けちゃうわけなんてない。

 私が助けてあげなきゃ。



 ポツリ、ポツリと温かい雨が降り始めた。

 きっとこれから雨脚はもっと上げしくなるのだろう。


風情ふぜいだな」

 そう口にし天を見上げる黒衣の男を、私は全力で睨みつけた。

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