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かみてん。  作者: あゆみのり
出会い。
3/89

ぎゅっとね!

(私の眷属が――!私のために――!私を殺そうとする女を倒そうとしている……!)

 主語は全部「私」なのに、何が何やらわからないこの状況、それでも「私」の体は行動していた。


 ズーミの中にズップと入った両の手でギュッっと核を握りこむ。


「なっ!!」



挿絵(By みてみん)



 私の突然の行動への驚き――というより、的確に急所をつかまれたことの方にびっくりしたのだろう、大きなお目目が見開かれている。


「タチさん倒してほしいとかっ……!そもそも頼んでないし!!」

 

 ズーミちゃんの中で核となる部分を、強く強く握りしめる。

 昔々、私のモノだったはずの源の輝きを。


「ひゃうぅう!」


ビクン!

 ズーミの体全体が波打ち、ぶるぶると震える。もどかしそうに、むずがゆそうに。

 

「にゃっ――!?にゃぜ!わらわの……源のいちぉ…!」

「ホントごめん!ごめんね!」


ギュウウゥ。

 人間でいうと内臓を直接握られるようなモノだ……さぞ気色が悪い感覚だろう。

 しかも突然、対戦相手でもない「普通の人間」に触れられるなんて夢にも思うまい。


「やめっ!――ひゃうぅうぅ!!!」


ぼちゃ。ぼちゃ。

 ズーミの体が少しづつ崩れ落ち、タチを捕えていた大きな水の玉も地面に落下する。

 私たちの周りは、まるで大雨の後のように濡れた地面が広がった。


「殺しはしないから……!ごめんね!」


ぎゅうぅぅうう。

 可愛らしい見た目だが、相手は水の化身。

 もうちょっとだけダメージを与えておかないと、すぐ元気にもどってしまうだろう。


 だから一応、強めに、ギュっと締め上げる。


 可愛そうだけど……!


「ひゃうぅううぅうううぅうぅぅ!!!」

 ズーミはついに人型を維持していられなくなり、ぱちゃぱちゃと弾けて小さな水たまりを作り出す。


べちゃ!

 水の玉が破裂しタチさんが水の牢獄から開放された。


「タチさん……!」

 粘度の高い雨に打たれたような、びちょびちょに濡れ崩れ落ちるタチを抱き上げる。

 だいぶ水を飲みこんでいたみたいで、げほげほと咳き込むタチさん。


「よかった…生きてた……」

「よく…やった……」

 安堵の息をついた私を見上げ、微笑むタチ。

 意外と優しい笑顔である。

 

 ――弱っているからかもしれないけど。


「私の胸は……どうだ?」

「へ?」

 ドヤ顔で微笑むタチの言葉につられ、自分の左手を見てみる。

 水に濡れた彼女抱き上げるため使用された私の腕は、確かにタチの胸に埋もれていた。


「いや!これは完全に不可抗力です!!」

 こっちが必至で頑張ったのに、どこに意識を割いているんだこの女!

 だってあなたでっかいんだから!体を支えようとしたらそんなこともあるさ!

 

 それとも何か?あんたが触ってたのも不可抗力だとでも言う気ですか!?

 

「照れるな。愛いやつだ……耳まで赤いぞ?」

「いいから!!逃げるよ!!」

 こいつ。助けなきゃよかった。ホントこいつ。

 もうちょっと頭が回っていたら、絶対助けなかったのに――!

 

 激闘を繰り広げた後のような雰囲気を漂わせ、キメ顔をするタチ。

 いや――まぁ実際、大変な戦いではあったのだけれど、最後にズーミを絞めたの私だからね?

 なんでか知らないけど、胸を触らせようとしてくるし……


「どうせだ楽しめ。よくやったご褒美だ」

 ホントコイツ!こいつ!

 なんだこの上から目線!びしょ濡れで死にかけてたクセに!!


 恥ずかしさと腹立たしい気持ちで、頬と耳が赤くなる。

 こんな奴放置して一人で逃げてやろうかとも思ったが、せっかく助けたのに見殺しにしたら無駄骨もいい所だ。

 

 私はタチに肩をかし、この場を離れる事にした。

 水の化身ズーミが、元気を取り戻す前に。



*    *    *



 残された無数の水たまりの中の一つ。

 手のひらサイズに縮んたズーミは、二人の背中を見送るしかできなかった。

 飛び散った彼女の体は、まだ所々でパチャパチャと弾けており、当分一つにまとまる事すらできそうにない。


 なにより、今すぐ追いかけようという気持ちがズーミには無いのだから。


(あやつ何者じゃ……?なぜワラワが授かった源を――)

 敗北したことや取り逃がした悔しさより、興味もなかった少女への疑問で小さな体は埋め尽くされていた。

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