ヒタム・ストレ。
「陸地だ~~!」
どっしりと安定し、揺れることのない大地に両手をつける。
なんて確かで頼もしいことでしょう。どんなに叩いてもびくともしない。
風の大陸南のフェーン港。長い船旅を終えてやっと地面に到着した。
ピチョン港と違い質素な感じがする所だが、同じ海どなり。
潮の香りを風が運ぶ。
「懐かしい匂いだ……。やはり違うな」
タチの言う通り。海の香りが同じでも、混ざる土地の匂いでだいぶ変わる。
「まずは……ご飯だね!」
せっかくの別大陸。まずは現地の食を楽しむ事から――。
「タァアァチィィ!!!」
海原に広がる大声に、周りにいた全ての人がそちらを見る。
「海を渡り逃亡したかと思えば――よくもおめおめと戻れたものだ!!!」
肩を怒らせ、大股でズカズカと女性が迫って来た。
美人だけど、顔つきに幼さが残る彼女は、鎧に身を包み、長い槍を手にしている。
どうやら戦士のようだ。
「ストレか……久しぶりだな」
ストレと呼ばれた銀色長髪の女性と違い、タチはいたって冷静だった。
激しい温度差である。
「知り合い?」
「一応な。まだ抱いてはないが」
「何処に行っても因縁作ってそうだけど……意外にそっち関係の問題じゃないんだ」
どうせタチの事、性の面倒ごとだろうと思ったのだがどうやら違うみたい。
「王は不問になされたが、私はお前を許さんぞ!」
えっ――今王っていた?王って……国の一番偉い人の王様?
「た……タチ何したの?」
ストレの怒りように、王という単語。訪ねるのが恐ろしくもあるが凄く気になる。
「何も。騒いでいるのはコイツだけだ」
「我が王子に手を出しておいて、何も。だと!!?」
あっ…あー。やっぱりそういう方面の……。
「ただの手ほどきだ、そこらの遊女じゃ男になれなかったのだろう?感謝しろ」
タチの中では既に終わったコトなのだろう。すこぶる興味がなさそうに返答をする。
「き、き、き、貴様ぁあああ!下賤の身でなぜいつも上からなのだ!!」
「お前より強いからな」
平常運転で、煽っていく仕様のタチさん。
「お前のせいで私は…!近衛兵をやめる事になったというのに……!」
涙目のストレがタチを睨む。
自由奔放好き勝手人間に関わったばかりに……不憫である。
「それはストレが、息子のオイタを穏便に済まそうとした王の命に背き、情報を撒き散らかして、私を追い回したからだろう?」
「うっ…!」
ようするに王子様の火遊びを、ストレさんが騒ぎ立てて大きくしたってこと…?
もしかして、この人もちょっと残念な感じの人なのかな……?
「うるさい!そもそもお前が王子に手を出さなければ、私はこんな惨めにならなかったのだ!!」
涙をひと拭いし、ストレが軽く後ろに飛びのく。
そのまま腰を落とし、槍を構えた。
「わかったわかった。私も体を動かしたかった所だ。相手をしてやる」
タチもゆっくりと腰の剣。神殺しの柄に手をかけ、足を広げる。
「新しい得物だな――しかし!私の恨みが恐れをなすものか!」
突進と合わせ、体重を乗せた突きがタチを襲う。
カシン!乾いた金属音がして、神殺しがストレの突きを反らす。
「手になじませるには、ちょうどいい相手だ。抜く機会もなかったからな」
突然、戦闘が始まった。
風の大陸を目指し、長い船旅を終えた矢先に。
おいしい現地のご飯に、想像を巡らせた私を置いて。
「うわぁ~――なんでこうなるのかな…?」
連続して起こる金属の破裂音と、小さな火花。
タチは基本受けにまわっているようだけど、ストレの攻撃は容赦なく命を取る軌道で重ねられる。
「タチ――貴様!本気をだせ!!」
ストレは手を休めることなく、苛立たしげにタチを責める。
「それでは殺してしまう。まだ、コイツの加減をわからんからな」
もの凄い速さの突きから、切り払いの連撃を躱した後。
タチは馴染ませるように、神殺しをクルクルと手首で回す。
「風の加護を…!」
ヒュォっとストレの槍が風をまとう。
なるほど、あの素早い動きの秘密は、風の力を利用しているのか。
より鋭くなった攻撃を、剣で受け、足さばきで避け、タチは踊る様に躱す。
「嫌いだ!嫌いだ!貴様のせいだぞ!!」
だいぶ集まった観客の前で攻撃と共にタチへの感情を披露するストレ。
対するタチの軽やかな動きに、拍手まであがる始末――
たぶん、大道芸かなにかと思って見学している人もいる。
そして、ストレさん――戦う姿がなんか不憫だ。
「良し。楽しかった。ここまでだ」
タチが言いながら、ストレの憎しみのこもった突きを上半身だけで躱し。
足を引っかける。
ズベシ!!
勢いと体重――ついでに思いも利用されて、そのまま豪快にすっ転ぶストレ。
「ぎゃふっ!」
鎧の重さも重なって、凄く痛そうだ……そして凄く不憫だ…。
「はっはっは!可愛いな!一人で立てるか?」
繊細さの欠片もない笑い声と共に、つっぷしたストレに手を差し伸べに行くタチ。
タチ。それ与えているのは優しさじゃなくて、屈辱だよ?
わかってやっている可能性もあるのが、この女の恐ろしい所だけど…。
「触るな!!…くそっ――なんでいつも私は…!!」
人間として十分すぎる動きで戦っていたと思うけど、なにせ相手は人間離れ…。
悔しそうに、地面に拳を叩きつけるストレに、戦闘意欲はもう無いようだ。
また目に涙を貯めている彼女をみると、泣き顔の似合う人だな~……と思っちゃったりする。
「ウィンボスティーを出てずっとココに居たのか?」
差し伸べた手を引っ込め、腰に剣を引っかけるタチ。
「……聞くな。お前を追いかけまわし過ぎて、金が尽き、ココで細々と警備の仕事で食いつないでるなど言いたくない…!」
「……ご苦労様です。」
全部口に出してくれた、私の中で「残念な人」仮定が確定に変わったことは内緒にしておこう。
「だがお前が戻れば別だ…!お縄にして国に戻れば、また私は近衛兵として…!」
「怒られるだけだとおもうが?」
「なぜだ!?」
事情をきちんと知らない私でも、タチと同意見だ。
だって、王様蒸し返されたくないだろうし…。
やっぱりこの人残念な人だ。
「よしナナ。体も動かしたし馬を借りて移動するか!」
「え~、先に食事しようよ。せっかくの陸地だし」
「港を離れて、内陸へ向かえば、山羊乳の飯が食べれる。上手いぞ」
「ホント?じゃーそうする!」
やっと私の混ざれる会話が始まり、お腹が鳴る。
待ち遠しいって。
「まって!行かないでくれ!私も連れ出してくれ――!」
哀れで可哀想な女戦士を一人その場に、二人は馬小屋を探すのであった……。
ストレさん、後ろにずっと付いてきてたけど。




