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かみてん。  作者: あゆみのり
港へ。
23/89

タコの日。

 相変わらず私たちはピチョンの港を満喫していた――やらなきゃならない事を差し置いて…。


「本当にすまぬ…何もできずに……」

 宿屋の一室。

 頭にタコのお面をかぶったズーミちゃんが申し訳なさそうに頭を下げる。


 今日は船が出る前日――つまりズミナナ同盟最後の日。


「ズーミちゃんがあやまることなんてなんにもないよ!剣は奪えなかったけど、イトラより私を信じてくれたじゃない」

 同じくタコのお面をかぶった私は、ズーミちゃんに「タコタコ焼き」を一つ差し出す。


 パン生地の中に大きなタコの足が一粒入った、一口サイズの焼きパンだ。


 昨日今日とピチョンは海祭り。

 ズーミちゃんの家、アルケー湖みたいに色んな出店が広がっていた。


 私も楽しんでるけど、特にズーミちゃんはお祭りが大好きみたいで、ここ二日子供みたいにはしゃいで楽しんでいる。 


 タチは年中一人お祭り状態だから、特に様子は変わらない。


「わらわの地にいる間に、どうにかなればよかったのじゃが……」

 光の化身の命に背き、その上なお私の事を心配してくれてる優しいスライムの友達。

 短い間の付き合いとはいえ、私はすっかりズーミちゃんのことを好きになっていた。


「でも、とっても楽しかったよ」

 二人と出会ってから今日までを思い出す。

 ろくでもない記憶も沢山あるけど、ここ数日の楽しい毎日が良い方向へと補正をかける。

 それもまた、よかったと。


「楽しかったのじゃ……けど、神様はそれでよろしいのかの?」

「ん~。いいんじゃないかな?」

 ズーミちゃんが神様にとっても敬意を抱いてくれてるのはわかる。

 けど、申し訳ないが今の私は一応人間。たいしたもんじゃない。


「なにがどうなってるのか、今の私じゃ全然わからないし……楽しければ良いってことで!」

「良いのかの?」

「例えばね。ズーミちゃんのそれ、意識して動かしてる?」

 ズーミちゃんのお腹の中にある小さな気泡を指さす私。

 彼女の青色の体にはキラキラと光る光の粒がいくつもある。


「してないの……勝手に動いとるが…」

「私の体もそう。うごけーって思ってないのに、心臓は寝ても覚めても脈打ってくれてるし、息しよう!って意識しなくても呼吸してるし」

「うむ?」

「自分の体一つとっても統制できてないし、制御してる感ないもん。今の私じゃ「光の化身」が何を考えているのか?とか、なんで「聖地」が変わったのか?なんて無理無理、理解不能」

 狭く短い世界。

 それこそを望んで人になったのだけど、全体を把握し理解しようと思うと限界がある。


 なにせただの食いしん坊なもので。


「だから、聖地に戻るまでは楽しむ事にしたの。最後の人生として」

 剣を奪おうとして失敗し、落ち込む。

 イトラの行動に疑問を持ち、不安になる。


 そんな時間の使い方はもったいないと思ったのだ。

 ズーミちゃんやタチと過ごす楽しい毎日を味わうべきだと。


 どうせ神に戻ったら、今感じていることなど拡散するのだろうから。


「……わかったのじゃ」

 小さく笑顔をみせ、ズーミちゃんが右手を差し出した。

 その手のひらには綺麗な水色の宝石みたいなものが、ちょこんと置いてある。


「これは?」

「わらわからの贈り物じゃ。無事聖地まで、楽しく過ごせるようにの」

 ズーミちゃんの体と同じ色にキラキラきらめく宝石だ。

 人差し指と親指でつまんでロウソクの光に見透かす。


 とらえようのない深い青が、私の視線を飲み込む――

 懐かしいような、不思議な感覚。


「綺麗……ありがとう」

 神と化身。二人の微妙な関係は、今や友と呼べる関係になっていた。

 一緒に寝て、一緒に食べて、たくさん話すことによって。


 少なくとも私は、そう思っている。

 私の大切な大親友。ズーミちゃん。


「おーい。あけてくれ」

 ドンドンと部屋の扉を叩く、太い音がした。

 声の主はタチ。どうやら軽く体当たり?しているようだ。


 他人がいるとまずいので、ズーミちゃんはベッドの脇に身を隠し、私が扉を開く。


「早かったね――ってなにそれ?」

 扉の向こうには、真っ赤なタコのぬいぐるみ。

 しかもタチが見えないほど大きい。


「喧嘩小屋で勝った商品だ。いい運動になった」

 また物騒な所に……。

 私の横を抜け、ぬいぐるみをベッドに放り投げるタチ。

 

むぎゅ。

 

「なにするんじゃ!」

 投げられたタコぬいぐるみは、ベッドでひと跳ねし、潜んでいたズーミちゃんを押しつぶした。


「それはお前にだ。今日でお別れだからな」

「むぅ……わらわにか…?」

 こんなもの――と続けて言うが、ズーミちゃんが喜んでいるのは表情と体内のコポコポでわかる。


挿絵(By みてみん)



「元は敵だったがな、この旅で友となった。受け取れ」

 タチが親指を立て、ズーミちゃんにウインクをする。

 気の良い奴だ――変態だけど。


「あぁ~!私もなにか用意しとけばよかった…!タコ!タコもう一粒だべる?」

「いらんいらん!…一緒に過ごした日々が贈り物じゃ」

 恥ずかしそうに、貰ったタコぬいぐるみを抱きしめ顔を埋めるズーミちゃん。


 可愛すぎる――ッ!!小さい体でそれは反則だ…!!友よ!


「ズーミちゃん!」

 別れを惜しみつつ、愛しい友の頭を撫でる。

 勢いあまって、タコの頭も撫でてしまう、なんか勢いで。

 


「やめい!というかタチ!お主その格好で戦ったのか?」

「ん?」

 二本の剣を壁に立てかけ、ブーツを脱ぐタチ。

 その頭には、私たちとおそろいのタコお面。


「友情の証として、かぶって戦ったぞ?呼び名はタコ女だ。下着はもちろんえっちなヤツを着てな!」

 朝から夕まで三人一緒に祭りを練り歩き、お面はその時ノリで買ったのだ。

 日が落ちる頃には「体を動かしたい」と、いつも通りタチは単独行動していた。



「かぶって戦ったの?」

 私はズーミちゃんの横に座り、二人仲良くタコお面をかぶる。

 タチがズボンを脱いで、エッチな下着を見せてくるがもちろん触れない。


「当然だ。友情を見せびらかしてきたぞ、変態的な強さのタコ女とみな驚いていた」

 ジャラリ――と、革袋が机に置かれた。

 お金が沢山入っている音がする。


「友情じゃなく、変態アピールにしかなっとらんだろう……」

 タコぬいぐるみの口をツンツン突くズーミちゃん。


「良かったね。可愛いの貰って――でも、三人でいるの今日が最後なんだね」

 タコを抱くズーミちゃんをもう一度ぎゅっと抱きしめる。

 改めて実感してしまった。今日が三人でいる最後の夜なんだって。


「やめい!やめい!泣いてしまう……!」

 ぷるぷるふるえるズーミちゃん。

 お面の奥には、今にも泣きそうな顔が見え隠れしている。

 そんな顔みせられたら、私まで貰いそうになっちゃう。


「よし!最後は友として裸で寝るか!なッ!!なッ!!!」

 いつの間にやら全裸で仁王立ちのタチ。

 いつも通り隠すつもりが無い…というより、引き締まった体を見せびらかしてくる。

 

 

「しません!今日は私と隣で寝よ!おそろいのタコお面かぶってさ!」

「それもそれで間抜けじゃろう」

 同意を求める私に、タコぬいぐるみの足でポコリと一撃入れてくるズーミちゃん。


「わかった!全裸でタコをかぶろう!より友情が深まる…!!」

 妙な提案をするタチ。


「深まらない!どこの誰がそんな事で深めるのよ!」

「誰もやらんから、こそだろう!私たち3人だけの全裸タコ寝だ!!!」

「まぁ、わらわは元から全裸だから、別に構わんがの……」

「ズーミちゃん!?」


 お別れの夜。最後の時までいつも通り。

 この時間――この時間だ。

 この時が杞憂きゆうや、あらがいより、楽しむ事を大切にしようと思わせた。


 ――結局最後の夜は、全裸二人と寝間着の私。

 仲良く三人タコをかぶって寝た。最強のタチの腕枕で。



 起きたら、なぜか、私も全裸タコだったけど……。

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