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かみてん。  作者: あゆみのり
港へ。
19/89

寝る!

 オインの街に着いて半日。

 まずは宿の部屋とりをして、消耗品の補充と、馬車席の予約であっという間に時が過ぎた。

 宿に戻るころには、もう夜中。

 街の中だから真っ暗ではないけど、歩き旅していた時ならもう寝ている時間だ。


「明日の朝にズーミちゃんを呼んで、お昼には馬車に――」

「……わざわざ二つとらなくてもいいだろうに」

 今後の予定を確認する私の横で、荷造りをしているタチが頬を膨らませていた。

 二部屋取ったことにまだ不満みたいで、ずっとブツブツ文句を言っている。

 

 いいじゃんね。今は私の部屋で一緒なんだし。

 

「タチと同じ部屋で寝るのは危ないからね。自己防衛」

 乾かした布を畳み終え、食料の整理を手伝う。

 不平たらたらだけど、ちゃんと手を動かしているタチをちょっと褒めてあげたくなる。


「金の無駄だ――いや、可愛い体の無駄使いだぞ!もったいない!口惜しい!」

「お金ならまだあるんでだいじょーぶです。ご心配どーも」


 そう、お金は多少あるのだ、前回の人生で稼いだ分が。

 前回、私は水の大陸南端、ウォタの村で調合師をやっていた。

 

 ずっと引きこもって、お肌に良い液体やら、栄養価の高い錠剤やらを調合して生活して。 

 作った品は大人気。みんなの喜ぶ姿やお礼の言葉が嬉しすぎて、ずっとずーーーーっとお家で作業していた。


 日に当たらない、運動しない毎日。結果、転生して十年たたずに不摂生で死んだ。

 

 幸い、徒歩数か月ほどの近い場所に生まれ落ちたので、その時貯めこんだお金を、今回最初に手に入れてある。

 人間の生活でお金って大事なの学んだからね!才も能も無いと特に。


「せっかく二人きりだというのに……初めてぐらいは純愛っぽくしてやれる最高の機会なのに――」

 まだブツブツと物騒な事を口づさむタチ。作業が進んでないですよ?

 最後まで荷造りを終えたら褒めてあげようと思ったのに。残念でした。


「いいでしょ。ここまで三人仲良く夜を過ごしてきたんだから」

 安眠、快眠、タチ腕枕に私とズーミちゃんはやられっぱなしだった。

 「神殺し」を奪うため色々策を打ったけど、毎回気づけばタチ枕の上……ズミナナ同盟敗北の歴史である。


「そういう和やかな幸せは私の本分ではない!刺激を!蹂躙じゅうりんを!!」

「私とズーミちゃんはすっごいタチのこと好きになったよ?枕として」

「快眠好感度があったところで、抱かせてくれないじゃないか!!」

 勢いよく立ち上がり、わなわなと震える拳を握るタチ。

 こんなやり取りも道中何度か繰り返している。ズーミちゃんが居ないのは少し寂しいけど。


「そういうのは愛する人とするの!」

「愛しているぞナナ!!大好きだ!!抱きたい!!!」

 ガシッと両肩を上から捕まれた。

 タチの体温は常に私より高く、元気も常に有り余っている。

 とても厄介だ。


「勢いは認めるけど、綿アメより軽い言葉じゃダメです」

 ちょっとタチの扱いにもなれてきた……気がする。

 あまり真剣に受け止めちゃいけないのだ。


 どうせ会う女、会う男に、同じように熱をぶつけ散らかしているんだから。

 真正面から受け止めるだけ損なのである。


「えぇーーーい!!」

 大音量と共に、床に座って荷物を詰めていた私を、タチが軽々と抱き上げた。

 俗にいう「お姫様抱っこ」だ。


「ちょっと!?なにするの!?」

「しらん!!ふて寝だ!!」

 ポンと私をベッドに投げ。タチもドカリと横に身を投げる。

 しっかりした作りのベッドが、二人分の重さで大きく弾んだ。

 当然掛け布団もお尻の下。


「ふて寝って一人でするものでしょ!?」

「嫌だ!今度はお前が枕になれ!」

 タチが横から包むように抱きついて、両腕が私の頭を、両足が私の腰を押さえつける。

 抵抗できないほど強い拘束力だが、痛くも苦しくもないのが不思議な技術だ。


 視界を埋める大きな胸から、とてもいい匂いがする。

 ちゃんと女の子だったんだね。タチ。


挿絵(By みてみん)



「まだ…明日の準備が――!」

「しらん!やらかい。ちいさい。かわいい。寝るぞ」

 とてつもなく一方的な感想をのべられた。

 私だって文句を沢山言いたいところなんだけど、言葉が口から溢れる前に――眠気がじんわりと体中に広がって……。


 疲れた体に久しぶりのふかふかベッド。

 なんでか安心感のあるタチの二の腕。

 顔に押し当てられた、けしからない胸の柔らかさと――


 だめだ…ここで負けたら――。


「愛しているぞ。」

 頭を優しく一撫でされる。

(なんで…タチがこんな撫で方を――人間め――)


 あたたかい。やわらかい。ここちよい。

 抵抗しようとする気持ちすら、私の根っこから抜け落ちていく……



「ふぁっ!!」

 目の前には、満足げにほほ笑むタチの笑顔。


 当然。窓からはお天道様がのぞいていた。

 

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