ユニちゃん。
「これが――ユニコーン!!!」
わき腹を角で突かれたタチが、なぜか大喜びをしている。
裸の時にそんな足ひろげちゃダメだよ……、一応女の子なんだから。
「どうしたの?迷子かな?」
見た目のちんまりした感じで、つい子供に話す口調になってしまう。
タチは私より頭一つ大きくて、ズーミちゃんは私の半分ぐらいの背の高さ。といっても、伸びたり縮んだりするんだけど。
そのズーミちゃん(平常時)より、もっと小さいユニコーンちゃん。
詳しくはしらないけど、主に清らかな湖に生息するはずだ。それがなんで小さな川に?
「……」
じーっとこっちを、いや、タチを睨みつけている。
可愛い顔に不釣り合いな表情で、眉間にしわを寄せ。
「私の生涯で、出会えるとは思わなかったぞ…!」
いつも通り気さくに手を伸ばし、ユニコーンの頭を撫でようとするタチ。
しかしヒョイッと、かわされてしまう。
小さくてすばっしっこいから、一瞬見失ってしまった。
そのまま私の太ももにひっつくユニちゃん。……なつかれた?
嫌悪感や不快感は一切ない、柔らかく、心温まる感情が湧いて出る――さすが清純の象徴。
タチにひっつかれた時とは大違いだ。
「大丈夫だよ。怖いかもだけど、そこまで悪い人じゃないからね――たぶん」
子供をあやすように声をかける。自然とそうさせる可愛さがユニちゃんにはある。
ニコッ。
ユニちゃんが私の方を見上げて笑顔をみせた。
可愛い。これこそ彼女に似合う表情だ。
タチったら、こんな可愛い子になんて顔させてたのさ。
「そうか……ユニコーンに会うには処女を水に投げ込めば良かったのだな」
裸仁王立ちで腕を組み、人間とは思えない発言をする不純の塊りタチ。
何に納得したのか知らないけど、首を大きく縦に振る。
「そういう考え方するから睨まれるんだよ!」
「精神の問題じゃなく百戦錬磨のこの体が求め――ぐはっ!!」
ユニちゃんが再びタチに体当たりをした。
結構勢いよく。水面を弾け飛ばしながら。
根本が隠れるほど、タチの脇腹に尖った角が突き刺さっている……・とっても痛そう。
「なにが気に食わんのだ!!」
わき腹を押さえながらうめくタチ。
「たぶん、私に触ろうとしたからじゃない?」
私にひっつくユニちゃんに対抗心が燃えたのか、タチも私に抱き着こうとした所迎撃された。
近寄るな!っていう感じで。
「ナナを抱きしめて何が悪い!この厄介処女狂いめ!」
「……!」
無言の威嚇でタチを睨みつけるユニちゃん。
二人の間にバチバチと激しい火花が散る。
確認するまでもない、ユニちゃんとタチの相性は最悪だった。
「お前も抱かせろ!!」
睨み合いのすえ、出た結論が性欲なタチさん。
相手がユニコーンでも何も変わらない。
川の中とは思えぬ暴れっぷりで、二人のバトルが始まった。
――困ったなとりあえず、服が着たいんだけど……。
ドタバタするにも裸に布一枚じゃ居心地が悪い。
「帰らんと思ったら、珍しい子がいるの」
うにょうにょと、川の中をすべるようにズーミちゃんが現れた。
忘れてた!そう言えば私エサだったんだ。
予定とは違うが、結構時間は稼げたはず……作戦は成功したのだろうか?
「ズーミこの可愛いの、どうしたら手なずけられる!」
意地でもユニちゃんの頭を撫でたいのか、両手をニギニギと構えるタチ。
何をするにも手つきがいやらしい。
「お主にはぜーーったい無理じゃよ。貞操観念が壊滅しとるからの!」
「いやだ!!絶対にさわるぞ!!!」
ぱちゃぱちゃ!
ズーミちゃんとタチが口論を始めたその時、ユニちゃんは川の流れにそって逃げてしまった。
挑発するように、タチに舌を見せつけながら。
「待て!せめて一撫で――!!」
「……ふむ。わらわの化身の力に驚いてしまったようじゃな」
口惜しそうに、ユニちゃんの背中を見送るタチ。
ズーミちゃんの周りの水が、ギュポギュポと彼女の体内に吸われている。
そうやって水分補給しているのだろう。
そんなことより当初の目的だ、ゆっくり彼女の横に並び、ひっそりと耳打ち。
(ねぇねぇ。剣は処理できたの……?)
(ササッとじゃが、木の上に引っ掛けて隠した。高い位置じゃし見つからんじゃろう)
「抱きたい!!!」
拳を川に突き立て、大暴れするタチの裏で、ズミナナ同盟は喜びを分かち合っていた。
* * * * *
「ん?」
川を出て、乾いたふかふかの布で体をふいてる最中。
タチは下着を履きながら、剣がないコトに気が付いた。
「あいつ、どこにいった?」
下着姿でキョロキョロと当たりを見渡すタチ。
彼女にとって「神殺し」は剣じゃなくて、あいつ扱いだ。
おーい。と剣に声を投げかけるタチ。
服装を整えてた私だけど、後ろめたい気持ちが沸いて顔を逸らす。
「どどど…どこじゃろうな……」
ズーミちゃんも同じ気持ちだろう、やってることは泥棒と同じ悪いコト。
まして、真面目そうな彼女には荷が重い。
嘘も下手だし。
体もぷるぷる震えている。
「まったく世話を焼かせる奴だ――」
すぅっと息を吸い、目を閉じ集中するタチ。
ほんの少しの間をおいて、彼女が目を開き気を張った瞬間――空気より薄い何かが空間を埋め尽くした。
タチを中心に、音が広がるみたいな感じで。
横目に様子をうかがっていた、私の体も通り抜け木の葉を散らして浸透していく。
気迫というやつだろうか?
「……!」
なんだろう、この感覚……恐怖?
身に付けたばかりの手袋の中で、指が汗をかいていた。
「少し離れているな」
着替えも半端に、下着にブーツだけ履き木々の中へと歩いていくタチ。
そんな素肌を晒した状態じゃ、木の枝とかでお肌傷ついちゃうよ?
(ねぇ。あっちって…まさか……)
(わらわが、剣を隠した方じゃ――!)
ドン!
タチの背中が見えなくなり、少ししてからの大きな打撃音。
この鈍い音……もしかして、木を殴った?
鳥たちが慌ただしく、空へ飛び立ち。可愛らしい小鹿が私の横を走り抜ける……。
見たことある!危険な魔物とかが現れる前触れの奴!
ズーミちゃんと私が同時にゴクリと生唾を飲み、ヤツが消えた方の注視を続ける。
「ひっ!!!」
現れるべくして現れた人物に、小さな悲鳴を上げる私とぷるぷる震えるズーミちゃん。
当然戻って来たタチの手には、黒々とした剣「神殺し」が握られていた。
道中ずっと大人しく灰色だったのに、真っ黒に染まって元気いっぱいの「神殺し」が。
先ほどのタチの気迫に反応したのだろうか?
しかし――この禍々しさ、だめだ、、、鳥肌が収まらない。
「鳥と散歩でもしていたのか?面白い奴だ」
タチが下着ブーツで豪快に笑い。「だろう?」と私達に同意を求める。
私とズーミちゃんは、顔を見合わせつられて笑う。
笑うしかない。ひきつりながら……。
良い所まで行きはしたが、結局三日目もズミナナ組の作戦は残念な結果に終わった。