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かみてん。  作者: あゆみのり
港へ。
17/89

ユニちゃん。

挿絵(By みてみん)


「これが――ユニコーン!!!」

 わき腹を角で突かれたタチが、なぜか大喜びをしている。

 裸の時にそんな足ひろげちゃダメだよ……、一応女の子なんだから。


「どうしたの?迷子かな?」

 見た目のちんまりした感じで、つい子供に話す口調になってしまう。

 タチは私より頭一つ大きくて、ズーミちゃんは私の半分ぐらいの背の高さ。といっても、伸びたり縮んだりするんだけど。

 

 そのズーミちゃん(平常時)より、もっと小さいユニコーンちゃん。

 詳しくはしらないけど、主に清らかな湖に生息するはずだ。それがなんで小さな川に?


「……」

 じーっとこっちを、いや、タチを睨みつけている。

 可愛い顔に不釣り合いな表情で、眉間にしわを寄せ。


「私の生涯で、出会えるとは思わなかったぞ…!」

 いつも通り気さくに手を伸ばし、ユニコーンの頭を撫でようとするタチ。

 しかしヒョイッと、かわされてしまう。

 小さくてすばっしっこいから、一瞬見失ってしまった。


 そのまま私の太ももにひっつくユニちゃん。……なつかれた?


 嫌悪感や不快感は一切ない、柔らかく、心温まる感情が湧いて出る――さすが清純の象徴。

 タチにひっつかれた時とは大違いだ。


「大丈夫だよ。怖いかもだけど、そこまで悪い人じゃないからね――たぶん」

 子供をあやすように声をかける。自然とそうさせる可愛さがユニちゃんにはある。


ニコッ。


 ユニちゃんが私の方を見上げて笑顔をみせた。

 可愛い。これこそ彼女に似合う表情だ。

 

 タチったら、こんな可愛い子になんて顔させてたのさ。

 

「そうか……ユニコーンに会うには処女を水に投げ込めば良かったのだな」

 裸仁王立ちで腕を組み、人間とは思えない発言をする不純の塊りタチ。

 何に納得したのか知らないけど、首を大きく縦に振る。


「そういう考え方するから睨まれるんだよ!」

「精神の問題じゃなく百戦錬磨のこの体が求め――ぐはっ!!」

 ユニちゃんが再びタチに体当たりをした。

 結構勢いよく。水面を弾け飛ばしながら。

 

 根本が隠れるほど、タチの脇腹に尖った角が突き刺さっている……・とっても痛そう。


「なにが気に食わんのだ!!」

 わき腹を押さえながらうめくタチ。

「たぶん、私に触ろうとしたからじゃない?」

 私にひっつくユニちゃんに対抗心が燃えたのか、タチも私に抱き着こうとした所迎撃された。

 近寄るな!っていう感じで。


「ナナを抱きしめて何が悪い!この厄介処女狂いめ!」

「……!」

 無言の威嚇でタチを睨みつけるユニちゃん。

 二人の間にバチバチと激しい火花が散る。


 確認するまでもない、ユニちゃんとタチの相性は最悪だった。


「お前も抱かせろ!!」

 睨み合いのすえ、出た結論が性欲なタチさん。

 相手がユニコーンでも何も変わらない。

 

 川の中とは思えぬ暴れっぷりで、二人のバトルが始まった。

 

 

 ――困ったなとりあえず、服が着たいんだけど……。

 ドタバタするにも裸に布一枚じゃ居心地が悪い。


「帰らんと思ったら、珍しい子がいるの」

 うにょうにょと、川の中をすべるようにズーミちゃんが現れた。


 忘れてた!そう言えば私エサだったんだ。

 予定とは違うが、結構時間は稼げたはず……作戦は成功したのだろうか?


「ズーミこの可愛いの、どうしたら手なずけられる!」

 意地でもユニちゃんの頭を撫でたいのか、両手をニギニギと構えるタチ。

 何をするにも手つきがいやらしい。


「お主にはぜーーったい無理じゃよ。貞操観念が壊滅しとるからの!」

「いやだ!!絶対にさわるぞ!!!」


ぱちゃぱちゃ!

 ズーミちゃんとタチが口論を始めたその時、ユニちゃんは川の流れにそって逃げてしまった。

 挑発するように、タチに舌を見せつけながら。


「待て!せめて一撫で――!!」

「……ふむ。わらわの化身の力に驚いてしまったようじゃな」

 口惜しそうに、ユニちゃんの背中を見送るタチ。

 ズーミちゃんの周りの水が、ギュポギュポと彼女の体内に吸われている。

 そうやって水分補給しているのだろう。


 そんなことより当初の目的だ、ゆっくり彼女の横に並び、ひっそりと耳打ち。

 

(ねぇねぇ。剣は処理できたの……?)

(ササッとじゃが、木の上に引っ掛けて隠した。高い位置じゃし見つからんじゃろう)


「抱きたい!!!」

 拳を川に突き立て、大暴れするタチの裏で、ズミナナ同盟は喜びを分かち合っていた。



   *   *   *   *   *


「ん?」

 川を出て、乾いたふかふかの布で体をふいてる最中。

 タチは下着を履きながら、剣がないコトに気が付いた。


「あいつ、どこにいった?」

 下着姿でキョロキョロと当たりを見渡すタチ。

 彼女にとって「神殺し」は剣じゃなくて、あいつ扱いだ。


 おーい。と剣に声を投げかけるタチ。

 服装を整えてた私だけど、後ろめたい気持ちが沸いて顔を逸らす。

 

「どどど…どこじゃろうな……」

 ズーミちゃんも同じ気持ちだろう、やってることは泥棒と同じ悪いコト。

 まして、真面目そうな彼女には荷が重い。


 嘘も下手だし。

 体もぷるぷる震えている。


「まったく世話を焼かせる奴だ――」

 すぅっと息を吸い、目を閉じ集中するタチ。

 

 ほんの少しの間をおいて、彼女が目を開き気を張った瞬間――空気より薄い何かが空間を埋め尽くした。

 タチを中心に、音が広がるみたいな感じで。

 

 横目に様子をうかがっていた、私の体も通り抜け木の葉を散らして浸透していく。

 気迫というやつだろうか?


「……!」

 なんだろう、この感覚……恐怖?

 身に付けたばかりの手袋の中で、指が汗をかいていた。


「少し離れているな」

 着替えも半端に、下着にブーツだけ履き木々の中へと歩いていくタチ。

 そんな素肌を晒した状態じゃ、木の枝とかでお肌傷ついちゃうよ?


(ねぇ。あっちって…まさか……)

(わらわが、剣を隠した方じゃ――!)


 

ドン!


 タチの背中が見えなくなり、少ししてからの大きな打撃音。 

 この鈍い音……もしかして、木を殴った?


 鳥たちが慌ただしく、空へ飛び立ち。可愛らしい小鹿が私の横を走り抜ける……。

 見たことある!危険な魔物とかが現れる前触れの奴!


 ズーミちゃんと私が同時にゴクリと生唾を飲み、ヤツが消えた方の注視を続ける。

 

「ひっ!!!」

 現れるべくして現れた人物に、小さな悲鳴を上げる私とぷるぷる震えるズーミちゃん。

 

 当然戻って来たタチの手には、黒々とした剣「神殺し」が握られていた。

 道中ずっと大人しく灰色だったのに、真っ黒に染まって元気いっぱいの「神殺し」が。

 先ほどのタチの気迫に反応したのだろうか?



 しかし――この禍々しさ、だめだ、、、鳥肌が収まらない。


「鳥と散歩でもしていたのか?面白い奴だ」

 タチが下着ブーツで豪快に笑い。「だろう?」と私達に同意を求める。 

  

 私とズーミちゃんは、顔を見合わせつられて笑う。

 笑うしかない。ひきつりながら……。



 良い所まで行きはしたが、結局三日目もズミナナ組の作戦は残念な結果に終わった。

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