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かみてん。  作者: あゆみのり
港へ。
15/89

同盟。

「こむすめ!」

「……ふぁぃ?」

 木の根を椅子代わりにして、アルケー湖を眺め朝食を食べていたら、ズーミちゃんに声を掛けられた。



挿絵(By みてみん)



「ちょっと話がある」

 大変真面目なお顔での声掛け。改まってなんだろう?

 クルミの入った黒パンをよく噛んで飲み込む。


「まだ、タチ帰ってないけどいいの?」

 旅支度をしてくる。

 そう言って昨日の夜出かけてから、まだ帰らない。

 

「いないほうが都合がよいのじゃ」

 確かに。いた方が都合のいいのは、戦闘の時ぐらいで、残りの全ての時間、タイミングでいない方が平和に時を過ごせる。

 不意に触ってきたり、勝手に触ってたり、故意に触ってきたりするから。


「お主、古い聖地の場所を知っている事といい…源を見切れ掴める事といい――」

 ……困った。そういうお話か。

 最後の一口様にとって置いたバターを、パンにつけかじる。

 

 美味しく食べれるように残した一口が、話題のせいでちょっとだけ味気ない。


「そうとう信心深いパンテ教信者じゃろう?なぜタチと一緒におる?」

「えっ…え~っと……」

 クルミの触感と広がるバターの濃厚感……あと私の動揺!

 ズーミちゃん察しが悪くって助かった。

 私の事を、信仰心の強い人だと思ってくれたみたい。

 

「出会ってしまった。というか――二人の喧嘩に巻き込まれてずるずると……」

 そもそも、ズーミちゃんとタチの戦闘時に偶然居合わせてしまっただけなのだ。

 友人なわけでも、目的を共にする旅仲間でもない。

 

 もちもちが目的で旅をしていたので、もしかしたらズーミちゃんとはアルケー湖で出会う運命だっだかもしれないけれど、なぜかこんな事になってしまった。


「タチはお主をそうとう気に入っとる」

「手元寂しさで、胸触りたいだけだと思うよ?」

 何かにつけて体を触るタチ。

 出会ってからまだ数日だが、今の所毎日「お触り」されている。

 それも一日十回以上。

 

「それでもお気に入りはお気に入りじゃ。……お主は神殺しを願っているわけじゃあらんだろう?」

「まったく!全然!」

 むしろ御免こうむりたい。

 死ぬのはまだしも、痛いのは絶対に嫌なんだから。あんな物騒な剣で――しかもタチに斬られるとなったら……。

 

 ただで済む気がしない。


「そこでお主にお願いじゃ。タチからあの剣を奪う手伝いをしてもらえんか?」

「!」

 急な申し出に、素直にびっくり。

 タチの手に「神殺し」がある事を、ズーミちゃんもまだ受け入れていなかったみたい。

 

「パンテオンに向かうという事は、ここから北へ向かい港から船で風の大陸へ渡るのじゃろう?」

「たぶん?ごめんね。私、地理とか国とか詳しくなくって……」

 覚えたいのだけど、すぐ忘れてしまう。地名とか国名とか。食べ物の名前は覚えられるんだけど。

 基本食べ物以外の固有名詞に弱いのである。

 なんか記憶がごちゃ混ぜになっちゃって……。


「風の大陸に入られると、わらわにはどうにもできん。――わらわは……他の化身に剣を取られた事がバレて怒られるのは嫌じゃ!」

 嫌だよね。怒られるの。殺されるのも嫌だけど。主に痛いのが。

 けど建前だけでいいから「神(私)のタメにも剣は渡せない!」とか言ってくれると嬉しかったな!水の化身!


「奪うってどうするの?」

「具体案はまだないが……港までの間、エサと一緒の旅だ、隙の一つもできよう」

「エサって――……私?」

 手伝いという名の囮作戦。

 考えているコトがつい口から洩れてしまったのだろう、ズーミちゃんの策が透けて見えた。


「み……水の大陸にいるうちは、わらわがついておるから!時にナナ、お主はそもそもなんで旅をしておったのじゃ?聖地巡礼じゃなかったのじゃろう?なにが目的だったのじゃ?」

 下心がバレ慌てるズーミちゃん。

 露骨な話題変化をさせられたけど、なんか可哀想なので指摘しないでおこう。

 あまり指摘するとまたプルプルしちゃうだろうし。


「食べ歩き」

「……そうか。……――良い目的じゃの」

 あっ……ちょっと見下された。すっごい充実して、新しい出会いに、驚きや幸せを感じる旅なんだぞ!

 食べ物の記憶しか、殆ど残ってないけど。


「いいよ。協力しようズーミちゃん」

 スッと私は手を差し出した。

 このまま聖地についても、神に戻った瞬間、グアァァーやられたー!ってなるのはごめんだ。

 

 なんならコッソリ一人で抜け出そうか?とすら今朝方考えていた所だし。


「助かる!これで一抹の光が見えてきた…!」

 すがる様に両手で私の手を握り返してくるズーミちゃん。

 そうとう怒られるの嫌だったんだろうな……。つらいね、二代目水の化身。



「水の大陸にいるうちに尻拭いして、他の化身達……いや。神様にバレんようにせんと!まずはナナを使って――」

 ブツブツとつぶやきながら、計画を練る気弱なスライム。

 可哀そうに……もうお母さんにはばれてるのよ…。

 小さな背中に言葉をかけたい気持ちは抑え、青く大きなアルケー湖を眺める。


 どうしたものか……。私も策の一つぐらい練らないと。

 すべてをズーミちゃん任せというわけにもいかない。


「なんだ、私を除けてピクニックか」

 私達の背後にいつの間にかタチがいた。

 背負った大きな鞄に、目一杯荷物が詰め込まれている。


「い――いつの間に!?」

 なんの気配も感じなかった。

 口から出た私の声は上ずっているし、ズーミちゃんは体内をプルプル震わせ、スライムリアクションをかましている。


「今さっきだが?なんだ内緒話でもしてたのか?」

 どうやら会話は聞かれてなかったようだが……野生の感で嗅ぎつけられそうで怖い。

 このままだとちょっとしたきっかけでボロが出そうだし。


「な、な、な、なんでもあらんよ!ナナと日向ぼっこしとったんじゃよ!!日光浴じゃよ!!」

 だめだ、ズーミちゃんから絶対そのうちボロボロする――というか既にしている。

 全身をプルプルさせながら、必死に取り繕おうと言葉をつなげる。


「朝帰りとは思ってなかったけど、何を買ってきたの?」

 ここは私が、同盟者としてカバーしないと。

「あぁ。普通に二人分の旅支度と……」

 テラリ。あれ?なんかタチの肌質が妙に良い……?


「それと夜の店で――」

「ありがとー!ありがとー!荷物たくさんで大変だったでしょ?どうして一人で行くって言ったかも良くわかった!」

 なんとなく察していたけど……このダメ人間め!

 さんざん私の体触っておいて、結局それか!


「安心しろ味見だけだ、今私はナナに興味津々だぞ!」

「だいじょーぶ!だいじょーぶだから!もうこの話はここまで!」

「なにをそんなに動揺している?もしかして――、一緒に来たかったのか!!」

 激烈に勘違いをしている。行きたくないし!別にタチがどこでナニしてても関係ないし!

 タチの興味がズーミちゃんから私に移ったのは助かったけど、とってもとっても、うっとおしい!!


「すまないな。ナナ。だがお前の事はじっくり一対一で楽しみたいのだ……いきなり複数人では――」

 本当に申し訳なさそうに頭を下げるタチ。

 違う違う!まったく期待してませんからエッチなことなんて。


「謝罪はいらないから、もうこの話はおしまい!」


 未だ、ちょっと苦手なのである。その手の話題が。


 人間に転生するぐらいだから、生命の営みとして、興味はあるんだけど……。

 なにぶん、神の在りようとは程遠い行為。動物的というか生物的というか……。


 十三回も人間してると嫌悪は殆ど消えたものの、まだ恥ずかしいさはある。

 そもそも、別に子供が産めるわけでもないので、私にとってはとても奇妙な行為でしかない。


「ズーミちゃんも一緒に来てくれるんだって。旅支度品ちょっと増やさないとかもね」

 これからタチと旅をするというのに、いちいち気にしていたら「神殺し」で斬られる前に、心労で死んでしまう。

 流そう流そう。

 こちらから話題を変えればいいだけの話だ。


「わらわもおるよ!」

 精いっぱい気丈に手を挙げ、存在をアピールするズーミちゃん。

 プルプルはもう治まっている。

 

「ズーミも来るのか?」

「わらわの大陸じゃ!わらわがついていれば大安心じゃろう!」

「……構わんが、覗くなら気を使えよ?」

 根に持ってたんだ。ズーミちゃんの部屋での事。

 気をつかえ、じゃなくて覗かないで欲しいし、そもそもあんな間違い二度と起きない。

 タチと、ちょっとだけいい雰囲気になっちゃうなんて。


「わかっとる!ひっそりとじゃろ」

 わかってないよズーミちゃん。その人、一応敵だよね?そしてあなたは水の化身。

「違う!覗かない!っていうかそもそもナニもしないの!!」

 タチが整えてくれた荷物を確認しつつ、くだらない話に花を咲かせる……。


 こうして「神殺しの剣奪取」&「聖地に向かう」目的の旅が始まった。

 

 不安しかないけど。

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