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かみてん。  作者: あゆみのり
出会い。
13/89

行きたくないって、言ったのに。

 胸を……触られている。

 もういまさら感があるが、犯人はヤツである。


 アルケー湖の底深く、ズーミちゃんの部屋よりさらに下に眠る神殺しの剣。

 それを目の前にしていた。


「狭いから仕方ないな。狭いからな」

 しらじらしい色ボケがいう通り、確かに狭い。

 ズーミちゃんを挟んで私とタチの三人、一つの水玉に包まれ移動してきた。


「狭いからな」

「繰り返すほど言い訳がましいからね?」

 何かとこじつけて触りたいだけなのは、湖を泳ぐお魚さんだってきっとわかっている。  

 私達を包む水玉は深度を増すほど水圧で縮み、声を荒げれば中の空気が減り縮む。

 人間の過ごしにくい環境になるほど、タチのお触りしやすい環境が整う。


「わらわを挟んでいちゃつくな。……ほれ、これで貸し借り無しじゃよ」

 土の化身を倒した借りがあるだろう?

 タチがそうズーミちゃんに強引に迫り、剣の場所まで連れて来させたのだ。

 

 かわいそうに――、追い詰められてプルプルしていた。

 どうやら、ズーミちゃんは感情が大きく動くとプルプルするみたい。

 

 私はといえば、タチも神殺しも放っておくことができないので付いてきた。


「……黒いな。」

「……黒いね。」

 水底で横たわる、むき身の剣……柄も黒いが、その長い刃も真っ黒だ。

 賑やかで色とりどりの湖の中、お魚さんが近寄ることもなく、石ころ一つ剣の周りにはない。


 砂、砂、砂、剣の周り十メートルほどは、ただ砂だけ。

 しかも剣の近くは、その砂までもが黒ずんでいる。



挿絵(By みてみん)



「わらわは拒絶されてこれ以上近寄れん……だが人間ではこの水圧は耐えられんし、どうにもならんよ」

 ズーミちゃんは言いながら少し震えている。

 

 わかる。見ているだけで悪寒が走る。

 怒り、憎しみ、恨み――負の感情が伝わるのだ……

 

 私への

 

「凄い鳥肌だな、大丈夫かナナ?」

 タチが私の顔色をうかがいながら、肩をさする。

「……早く戻ろう?ある事は確認できたんだし、一歩進んだでしょ?」

 この剣を作った人間たちの意志に当てられてしまい、気持ちが悪くて……吐き出しそうだ。


「少し待ってろ」

 タチは言ったと同時に、私とズーミちゃんを押しのけ水玉の外に飛び出す。

 突然の行動過ぎて、静止の声を描ける間もなかった。


「ば――ばかもの!人間の耐えられる深さじゃ……!」


ごぽごぽごぽ。

 ズーミちゃんの心配をよそに、剣の方へと泳いでいくタチ。

 いくら体が頑丈だからと言っても、危な過ぎる行動だ。


「何かあったらどうするつもりじゃアヤツ……」

「その時考えるんだと思うよ……その時にも考えないかもだけど」

 同じ気持ちで二人して呆れる。

 タチってやつは……。

 元神や化身でも制御できない暴れん坊さんだ。


「「!」」

 三人全員が驚いた。神殺しの剣に泳いで近づき、その柄に手を伸ばしたタチ。

 その手が指先からどんどん黒く染まっていく。


「まずい!戻れ!呪われるぞ!」

 ズーミちゃんが叫んだ。

 意思ある存在の強い思い、それは当然意志ある者に影響を与える。

 心のこもった歌を聞いて、無意識に涙してしまうように。


 憎しみや恨みだって、伝播でんぱする。


 タチが口からゴポゴポと空気の泡を吐き出していた。苦しいのだろうか?

 水玉の中に私を残し、助けに寄ろうとしたズーミちゃん。

 その体が剣の方に近づこうとするも、見えない壁にぶつかって跳ね返される。


「くっ……わらわでは近寄れん――ただの人間のナナでも……!」

 彼女は水の化身。神の眷属。

 剣にとっては、憎き神の仲間。


 私だって助けに向かいたいけど、例え水圧に耐える体をしていても、たぶん近寄れない。

 

 だってあの剣の恨みの張本人だから……。

 でも、このままじゃタチが――


「ズーミちゃん、タチがこっちに戻って来てる!」

 ゴポゴポと空気の泡で顔を覆いながらも、私達の元へ帰ってくるタチ。

 まだ泳ぐ体力は残っているようだ。


 あとちょっと、もうちょっとだから頑張って……タチ!

 背中の一つぐらい摩ってあげるから戻っておいで!!


「……あれ?なんか笑ってない?」

 タチが近寄れば近寄るほど空気の泡の間から彼女の顔がはっきり見えてくる。

 少なくとも想像していたような、苦しそうではない……


「爆笑しておるな……?」

「……うん。」

 完全にタチの表情が見える距離に到達したとき、ズーミちゃんが気の抜けた声で私に同意を求め、気の抜けた声で私も答える。



ドパ!

 勢いよく水の玉にただいましてきたタチ。

 大量に吐き出した空気を補充するため、荒く大きく息を吸い笑顔を一つ。


「凄いぞ!沢山の怨めしい気持ちが流れ込んできた!!」

 ……きらきら輝かせた瞳で言う事かな?

 黒く変色していた右手はもう普段の色にもどっていた。

 彼女の回復力のおかげか、距離を取れば大丈夫なものなのかはわからない。


「勝手なことをするな!わらわは助けにいけんのだぞ!!」

「はっはっは!心配してくれたのか、かわいい奴だな!」

 グリグリとズーミちゃんの頭をなでるタチ。

 

 こちらからは、神殺しの剣に浸食されかけていた様に見えたんだけど、玩具を見つけた子供みたいにテンションが高い。


「しかし、私の意志の上を取ろうとは……身の程知らずめ…!」

「えっと――もう帰るよね?」

「決着をつけずに帰るわけないだろう!」

 拳を握り、やる気まんまんのタチさん。

 何か、凄い闘志に満ち溢れている。


 色々と待ってほしい。相手が人ならともかく剣だよ?熱意とか根性でどうにかなるモノじゃなくない??

 っていうか、ここだいぶ深い水の中なんだよ?そんな場所で真っ黒の恐ろしい剣相手に「決着つける」とか正気とは思えない。

 

「私に根性勝負を挑む無謀さに笑ってしまったが、次はそうはいかん!」

 そういう笑だったんだ。さっきの。

 結構心配したんですけど?私。

 

 剣と根性比べしてたの?大丈夫?妄想とか勘違いとかじゃない?


「なに、二回戦目みたいにいっとるんじゃ!戻るぞ!」

 タチの無謀な行動に、プリプリ怒るズーミちゃん。

 感情の動きとともに、また体がぷるぷる震えてる。

 ゼリーみたいで美味しそう。

 

「次で仕留める。良い子で待っていろ。娘たち!!!」

「ちょっ……娘ってだれが!?」


ザプン!

 荒波に立ち向かう漁師ような言葉を置いて、再び剣へと向かうタチ。

 だめだ、完全に入り込んでいる。あの向こう見ず。


「あぁ!!バカ!バカ~!なに考えとるんじゃーー!!!」

 水中で地団駄を踏むスライム。呆れかえる私。

 残された妄想設定上の二人の娘――すなわち私たちは、獲物を見つけ楽しそうにはしゃぐ父だか母だかを、ただ見送る事しかできなかった。

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