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短編集

元カノのツイッター内で俺が大魔王だった話

作者: 瓜嶋 海

「ふぅ」


 クリスマスの日の午後十時、ため息をつく俺。

 今日もみっちり残業までこなして、俺の疲労はマックス全開。

 朝から夜まで働き詰め。

 紛うことなきブラック企業だ。

 俺は、項垂れつつ自販機で缶コーヒーを買い、公園のベンチに座ってちびちび飲む。

 今日は誕生日で29になった。

 女子高生なんかが見れば、おっさんだと言うのだろうか。

 心はまだ高校生なんだけどな。


 さて、クリスマスでさらに誕生日の今日。

 一人でこうしているから、お気づきだとは思うが言っておく。

 俺は今、彼女がいない。

 非リア充である。

 目の前のイチャつきながら歩いていく、若いカップルに睨みをきかせる独り身だ。


 くそ、こんなはずじゃなかったんだ。


 空になった缶を潰す。


 俺にだって、昨日までは彼女がいたんだ。

 勿体無いくらいの彼女が。

 大学時代からずっと付き合っていた、十年来の仲だった。

 今年で付き合って十年目である。

 俺は、この日クリスマスにプロポーズをする予定だったのだ。

 会社の鞄を開けて、小さな箱を取り出す。


 婚約指輪だ。


「む、虚しいぃ……」


 高い買い物だった。

 慣れない店に入って色々考えながら、選んだこの指輪。


 くそう、こんなことなら買わなければよかった。


 俺は苛立ちに身を任せて、空き缶を放り投げる。

 すると、その缶は丁度空き缶を集めているホームレスの頭に直撃した。


「す、すみません!」


 俺は走ってホームレスに寄った。


「ふしゅるるる、ふしゅるるるるるる」


 ホームレスは、謎の奇声を発しながらうずくまっていた。

 どうやら急所だったらしい。

 よく見ると髪の毛も薄くなっている。

 悪いことをしたな。


「す、すみません。大丈夫ですか?」


 俺がそう問いかけると、ホームレスは顔を上げた。


「大丈夫、大丈夫じゃ。気にせんでよか」


 ニコッと笑うホームレスは、歯がなかった。

 口を開けて笑っているが、その中には白い歯が一つもない。


「んふっ」


 危ない、笑い声が少し溢れてしまった。

 ダメだダメだ。

 反省の意を示さないと。


 ホームレスは、手をひらひらと振りながら、ちゃっかり俺の投げた空き缶を拾って、去って行く。

 その後ろ姿は、やっぱりハゲだった。


「あははは!! ふははは!! あーっはっは!!」


 もう無理、我慢できない。

 俺は腹の底から笑った。

 元カノへの鬱憤の分も全部笑った。

 ホームレスがギョッと振り返ってくるが、そんなものは御構い無しだ。

 むしろその姿もツボって、もっと笑った。




 笑い疲れて、元のベンチに戻ってきた。

 今日は帰る気にならないし。

 彼女も、同棲はしていたがもう出て行ったことだろう。

 家に帰っても誰一人いないのだ。


 ピロリン♪


 おや、スマホがなったぞ。

 鞄の中から、俺は手探りでスマホを探す。

 適当に入れたスマホって、取り出しにくいよね。

 俺はなんとか探し当てた。

 確認すると、友達からラインが来ていた。

 なんだろうか。

 気になって中を開いた。


『おいお前、元カノのツイッター見てたか?』


 ツイッター?

 俺はそんなものはしてないし、チェックしたこともなかった。

 だが、気になるな。

 ラインで送られてきたURLをタップし、ツイッターを見てみることにした。



『大魔王とついに破局!

 勇者の試練はこれにて終了!

 果てしない十年の戦いは、勇者の勝利に終わったのである〜』


 まず、目に付いたのはこんなツイートだった。


 は?

 ナニコレ?


 固定されたツイートとある。

 日付は昨日だ。

 さらに、ステータスみたいなコメントを見てみるとそこには、


『29歳OL、訳あって勇者やってます。

 大魔王を倒すべく、長い戦いをしてます。

 応援お願いします! オラに力を分けてくれー!


 追記、大魔王というのは彼氏のことです。

 大学からの仲で、今年で十年目です。


 ※12月24日、ついに討伐しました』


 とあった。


 どうやらこれはあいつのアカウントみたいだ。

 アイコンに使っているのも、二人で撮ったプリ画像だった。

 もちろん俺の顔は黒く塗りつぶされている。


「なんだよ、これ……」


 俺は絶望しながらも、過去のツイートを振り返ることにした。

 一人、公園のベンチで寂しく。

 一年前のツイートから見ることにした。


『今日は戦闘日! カラオケに仕事終わり、二人で行ってきたおー?☆

 大魔王様、アニソンとボカロしか歌わなかったー


 今日の私的ツボは魔王の「俺の美声に酔いしれな?」でした〜』


 うぉ、思い出した。

 確かに言った記憶がある。

 冗談で楽しい雰囲気だったから、軽い気持ちで言ったんだった。

 まさかこんなところで晒されているとは……


 リプ欄を見ると、

『魔王キモすぎワロタ』

『「俺の美声に酔いしれな?」は流石に草』

『いや、デートなんだから歌覚えろや魔王』

 など、誹謗中傷が繰り広げられていた。


 ぐっ。

 これがまだまだ、他にもたくさんあるのか……

 思ったよりキツイな。

 俺は新たに買ってきた缶コーヒーを煽った。

 さらにツイートを遡っていく。


『今日の戦闘は居酒屋にて!

 魔王最近、やたらとボディタッチが多いんだけど〜。発情期かなんかかな?

 マジで胸触るのやめといてー。

 キモ過ぎww』


 おい。ちょっと待て。

 あいつあの日は満更でもなさそうだったじゃないか。

 触ってもヘラヘラしてたし!

 嘘は良くないぞ。


 俺は確認するためにスマホでその日の写真を見返した。


「あれ、全然目が笑ってない……」


 彼女の目はマジで嫌そうだった。

 あれ?

 俺意外とクソ男なのか?

 そうだったのか。

 過去を振り返ると、意外とクズな自分が浮かび上がってくる。

 いや、よそう。

 今はツイッターだ。



 そして俺はあれから沢山のツイートを見た。

 全てにおいて、俺の悪口を面白めかして載せている。

 たまに、音声付きのやつもあって、聞いたら死にたくなった。

 そして、これが最後だ。

 日付は12月21日、あいつの誕生日である。


「ふぅ、いくぞぉ」


 俺は気合を入れながら目を通した。


『今日は私の誕生日! 大魔王、HERMESのバッグ買ってくれたお☆

 さっすが、サラリーマン!

 よし、ATMとしても使い倒したことだし、もうそろそろトドメを刺しますかー』


 相変わらず酷い。

 てか逆にこいつすげーな。

 大魔王をATMにするなんて……

 流石は現代勇者。

 発想が俺みたいな凡人とは違うぜ。

 いや、俺は魔王だったか。


 リプ欄もいつも同様に俺への悪口や、あいつへの賞賛大会だった。

『大魔王リーマンだったのか……』

『十年目の誕生日なんだからプロポーズの一つでもすればいいのに』

『もっとATMとしてこきおろせばいいんに』

『トドメは動画出してください!』


 すまんなサラリーマンで。

 プロポーズはクリスマスにしようと思ったんだよ。

 もうすでにATMとしては、十分に働いたつもりですが?

 トドメの動画見てどうすんのお前らは!?


 ちなみに動画はあがっていなかった。

 良心は少し残っていたらしい。


 ていうか、あいつは俺に見られる可能性を考えなかったのだろうか。

 どうしてこんな垢をつくったんだろう。


 はぁ、まぁいいや。

 家に帰ってビールでも飲もう。


 俺はそうして家路に着いた。




 ◆



 家に帰り着いて、風呂に入り、ビールを飲んでいた時、ふとツイッターが気になった。

 俺は、先ほどのURLを開く。

 すると、こんなツイートが追加されていた。


『今日は動画付きです! モザイクも全部取っちゃってます!

 大魔王が、もしこの垢を知ったらどんな反応をするか? の検証動画でしたー♪


 知り合いにも協力をしてもらった大掛かりな、動画です。どうぞお楽しみを!』


 その動画に映った俺は、めちゃくちゃ惨めだった。


 うん、女の子の気持ちって大事だな。

 ちゃんと考えてあげないとロクなことにならない。


 大魔王は、この日以降女恐怖症になった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公に感情移入しやすかったところ。 [一言] 悪魔のクリスマスだなぁ。今日から主人公は大魔王からルシファーってことで。
[一言] モザイク無しで主人公の顔を出していたらヤバいんじゃない?主人公が外に出られなくなったら、この女と協力した奴ら責任とれるの? 主人公も悪い点があったかもしれないけど、これはやり過ぎじゃないかな…
[一言] 魔王よりも勇者がな。 なろうで一時期流行りだった、能力はあるが人格がクソな勇者、てやつ。 ある意味バカバカしく、ある意味素晴らしい。 よく10年もかけてここまでの嫌がらせをするなぁ、性犯罪で…
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