表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

転生を司る女神はバナナの皮を仕掛ける。

蛇足的番外編。


「結局会っちゃったのね。しかも結婚しちゃって。子供が六人で、孫が二十人? 馬鹿じゃないの?」


 第五世界の転生を司る女神は、やってきた老婆に悪態を吐く。


「幸せな人生をありがとう。バナナの皮はサービスでしたか?」


 お礼を言いながらも、老婆は皮肉な笑みを浮かべていた。


「あ、わかっちゃった? だって、あの子、全然気づいてないじゃない。だからちょっとかわいそうだから、思い出させてあげようと思ったのよ!」

「それでバナナの皮?」

「そう。ほら、地球の日本だっけ。そこでバナナの皮で滑るっていう漫画を見て、試してみたかったのよ。見事な滑り具合で、久々に笑わせてもらったわ」


 女神は軽やかな笑い声をあげて、まったく反省の余地を見せなかった。

 けれども、老婆の前にゆっくりと歩いてきて、急に目を細めた。


「さて、今度の転生はどうするの? 今度こそ解放してあげたら?」

「そうですね。今度は」

「素直ねぇ。よっぽど幸せな人生だったのね。まあ、子供が六人に、孫も二十人もいりゃねぇ」


 女神の嫌みとも取れるセリフに、老婆はただ笑みを保ったままだ。


「一応希望は聞いておくわ。男、女どっちがいい?何か要望でもある?」

「男性に転生させてください」

「男?それだけでいいの?」

「はい」

「ふうん」


 この老婆は前の転生の時に散々、女神を困らせたので、あまりのその素直さに少し拍子抜けした。 女神は神であるが、長く生きているくせに聖人でもなく、気まぐれで適当な性格をしていた。だから面倒な事が大嫌いで、前回の時も忌々しく思っていた。しかも老婆の配偶者にも多大な同情をしていたので、彼女に協力する気は諸々なかった。

 結果的に、平凡な容姿の女性に転生させるという点だけは合意したが、わざと男爵という身分の両親の元へ送り、場所も彼女の配偶者から一番遠い場所を選んだ。

 それでも彼女は探し出し、結婚までしてしまったのだから、その執念には恐れ入った。

 悔しかったので、バナナの皮を使って、前世を思い出させたのだが、結局うまくいってしまったようだ。


「じゃあ。送るわ。よい旅を」


 転生する際に誰にでもかける言葉をかけて、女神は老婆を第五世界のランドールに送る。



 それから五年後。

女神は、老婆の配偶者、待ちに待った人物に会う事になった。


「私のこと覚えているかしら?」

「えっと、」


 老爺は人が良さそうな顔に困ったような表情を浮かべた。女神は基本的に、この老爺の魂を気に入っており、しょうがないわねと息を吐いた。


「私は転生を司る女神。前に一度会ったことがあるんだけど?」

「すみません。覚えていない。だけど、ジョリーンから聞いたことがある」

「ジョリーン。ああ、あの困った子ね」


 大仰に首を横に振った後、女神が黙りこくる。急な沈黙にどうしようかと悩んでいる老爺に女神は近づいた。


「ねぇ。あなた、今度は幸せだった?」

「はい?」


突然の問いに老爺は目を瞬かせる。


「しょうがないわね。もう一度聞くわ。あなたは今度は幸せだった?」

「はい」


 今度は彼の耳にしっかり届いたようで、老爺は即答し、眩しい笑顔を浮かべる。女神は興味がなさげに「そう」と返事をするとまた黙ってしまった。その態度に彼は答えを間違ったかと思う。

 しかし、老爺は嘘をつくのが下手だし、女神相手だ。嘘をついてもしょうがないと、彼女の次の言葉を待った。


「次の転生だけど。希望はある?」

「その前に、ジョリーンの転生情報を教えてもらえますか?」

「追いかけたいの?」

「はい。今度こそ、自分の気持ちに正直になりたいんだ」


 はっきりと答えた彼に対して、もうあんな人生送りたくないのと願った彼の前の姿を重ね、自然と笑みがこぼれた。


「どうかしましたか?」


 老爺は何かまた失敗したかと、微笑む女神を凝視する。


「あの子は男に転生しているわ。今五歳ね。あなたはどうする?」

「それじゃあ、俺は女に」

「いいの?」

「はい。あと、できれば、彼女、いえ彼の側に転生させてください」

「本当、いいの?」

「はい」


 女神は、前の芽衣子の人生を知っている。

 だからこそ、もう一度老爺に聞いてしまう。

 彼は即答し、女神は力を振るう。


「今度も幸せになれるといいわね。よい旅を」


 女神はそう言って、老爺を第五世界のランドールに送った。



「あれ?」


 休む間も無く、次の者が広間に現れる。

 どうやら、またまたトラックにはねられたらしい。

 地球の日本という国では、若者がよくトラックにはねられる。

 それがはやりなのかと、女神は首をかしげるばかりだ。

 しかも、トラックではねられた者は大概、チートな能力はないのかと、ハーレムをつけてくれと注文が多い。

 その度に、ファンタジーじゃないんだからと説明しなければならないのだが……。

 

「そういえば、あの子もトラックだったわね」


 女神は今は五歳児であるあの子のことを思い出す。そして前の前の死因はトラックだったことに思い至った。


「トラックが原因で亡くなった者は面倒な子が多いわね」


 日本からいっそトラックを消してしまおうか、そんなことを思いながら、多大な干渉に当たるため実行不可であることは了承済みで、女神は今日も仕事に励むしかなかった。


(おしまい)

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ