041「追いかけっこ」
「アルバムは、卒業記念のを除けば、引き取られる前のしかないな。伯母さんは写真嫌いだったし、伯父さんは、早くからデジタル派だったから」
「そう。私も、最後に使い捨てカメラで写真を撮ったのは、中学の修学旅行だったわね」
チャイを片手に、時おり、アルミで出来た盆に盛られたナーンを、その横に同じくアルミで出来た椀に入れられて置かれたスープ状のカレーに浸して食べつつ、江崎とあゆみは、のほほんと会話を交わしている。
「それに、思春期に入ってからは、伯父さんに写真を撮られるのが嫌になってたし、高校を出てからは、ずっと一人暮らしだからな。アナログの写真が残ってるのは、十歳までだろう。もっとも、伯母さんの家に行かないとハッキリしないけどな」
「あら。そのアルバムは、自分で保管してないのね」
「どこかにしまってあるはずなんだけど、伯母さんに訊いても知らないと言われるし、かといって家の中の物を勝手に探すと怒られたから、見つけるのを諦めたんだ」
「あぁ、そう。――あれ?」
あゆみが、チャイの入ったカップを口に運ぶ手を途中で止めると、江崎は、ちぎったナーンをカレーに浸す手を止め、斜め後ろを振り返ってあゆみの視線の先を見ながら訊ねる。
「何か気になるモノでも見つけたか? 特に変わった様子は無いけど」
「ねぇ。あっちで、スクーターの座面に肘を預けて、タバコを吹かしてる青年がいるでしょう?」
「どれ? ……あぁ、いるな。体格的に見て、ひょっとしたら未成年かもしれないが、帽子とサングラスを外さないと分からないな。細身の女性である可能性もある。で、あの青年と、知り合いなのか?」
「いいえ。でも、ああいう格好の青年を、この前、喫茶店から見かけたのよ。それに、今も青年が見てる方向は、お店の方向でしょう?」
「言われてみれば、ちょうど、あの店のテーブル席が見える場所だな。待ち合わせか?」
「馬鹿ね。それなら、店内でコーヒーでも飲みながら、ゆっくり涼んでたほうが良いじゃない。ときたま、何かを探すみたいにキョロキョロしてるし。怪しくないこと?」
「確かに、挙動不審だな。――よーし」
江崎は、片手で残っているナーンを丸ごと口に入れ、そこへもう片方の手でお椀を持ってカレーを流し込むと、多少むせながらも、どうにか飲み込み、ポケットから財布を出して二枚の千円札を置くと、店の出入り口へと駆け出していく。あゆみは、その後ろ姿に向かって叫ぶように言う。
「江崎くん。どこへ行くつもり?」
「あいつに話しかけてみる。俺の推測通りなら、俺の顔を見たら逃げるはずだからな」
そう言い捨てると、江崎はチリンチリンと涼やかな鈴の音を鳴らしつつ、初夏の暑さとなった外へと飛び出していった。
――どういうことなのかしら?
あゆみは、眉間にシワを寄せて思案顔をしながら、苦い薬でも服用させられているかのようにチャイを飲み干し、そして、すぐに立ち上がって店の外へと急いだ。




