031「青い月曜日」
――短い睡眠から目覚めたブルーマンデー。シーちゃんは、今朝も寝かせておいた。
「満月になったら、夕方まで猫のままなのよね。また、しばらくは、私が家事をするしかないか」
あゆみは、ソファーの上で目を細めて気持ち良さそうに寝ている銀猫のほうを見ながら小声で呟くと、キッチンに向かい、調理台の向こうにある換気用の小窓の桟に置いてあるグラスを手に取る。グラスの中には底から三分の一ほどの水と、十円玉と、一輪のカーネーションが入っている。あゆみは、十円玉とカーネーションを調理台の上に置くと、コップの水を捨て、流水で軽くすすいでから同量の水を加え、十円玉とカーネーションを入れ、元の位置に戻す。
――ホントは、グラスを洗剤で洗ったり、切り戻しをしたりしたほうが良いんだろうけど、いまは時間が無いから帰ってからにしよう。
指先についた水滴を、近くに干してある布巾で適当に拭うと、足元に置いてあるバッグを手にし、玄関へと向かった。
*
――オフィスに蔓延する月曜日特有の暗さを吹き飛ばさんとするかのように、今日もみどりちゃんは、朝から元気いっぱいである。
「いやぁ、今回も面白かったですよ。バンガローからギナジウムに戻ってきて、演劇の練習が始まるんですけどね。そのキャスト決めやセリフ回しなんかを巡って、また一つの騒動が巻き起こるんです。しかも、バラバラに起きた出来事が、最後にピタッと一つのハッピーエンドへと繋がっていくんですけど、その伏線の回収方法が鮮やかなので、きっとラストに感動しますよ」
身振り手振りを交えながら嬉々として語っているみどりの話を、ときどき頷きながら興味深くあゆみが聴いている。すると、そこへ不織布のマスクをした江崎が現れる。
「あっ、江崎さん。おはようございます」
「病原菌は帰れ」
両手を膝に置いて挨拶をするみどりに会釈を返しつつ、江崎は、野良犬でも追い払うかのような仕草をしてみせるあゆみに言い返す。
「やかましい。今日は、どうしても午前中は出勤しなきゃいけない日なんだよ。昼には帰る」
「あら、そう。課長代理さまは大変ねぇ」
あゆみが、いささか皮肉を込めてねぎらうと、江崎も含みのある言いかたで返す。
「お気遣い、どうも。何といっても、俺は誰かさんと違って大卒の総合職枠で採用された、期待の新星だからな」
口角は上げつつ、笑わない目で鍔迫り合いをする二人に対し、みどりが軽く咳払いをして注意を惹いてから声を掛ける。
「コホン。そろそろ始業時間になりますから、痴話喧嘩は、そのくらいにしてくださいな」
――痴話喧嘩なんかしてないわよ。もう。一人前に言うようになっちゃって。
「あのね、みどりちゃん」
あゆみがみどりのほうを向いて訂正しようとすると、それに覆いかぶせるように、江崎が大口を開けて快活に発言する。
「ハハッ。これは一本取られたな。それじゃあ、俺は持ち場に戻るから」
「あっ、ちょっと江崎くん」
「いってらっしゃい」
あゆみは江崎に何か言おうとしたが、みどりは江崎に再び挨拶をし、江崎は後ろ向きで軽く手を上げて返事をしつつ、総務課へと移動していった。




