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023「突然の訪問者」

――アパートに戻ると、玄関の前に佇む人影があった。逆光でシルエットクイズ状態になっていても、すぐに彼女だと分かったので、その場でシーニーに簡単な説明をしてから、部屋に上がってもらった。

「アポなしで急に押しかけて、ごめんなさい。月曜日の朝に謝ろうと思ったんですけど、今朝から、ずっと気になってしまって」

「気にしなくて良いわよ。私も、週明けからギスギスするのは嫌だと思ってたところだったから」

 こたつテーブルをエル字に挟み、みどりとあゆみが穏やかに会話をしていると、シーニーがミルクココアを入れたマグカップを、丸盆に三つ載せて持ってくる。

「ホットココアです。まだ熱いので、気を付けて飲んでください」

「ありがとう、シーちゃん。――はい、みどりちゃん」

「ありがとうございます。――そっちに行かないで、こっちに座りなさいよ」

 こたつテーブルの真ん中に丸盆を置き、シーニーはあゆみの斜め隣でみどりの真向かいに座ろうした。あゆみは、運ばれたマグカップの一つをみどりの近くに置き、みどりはあゆみに礼を述べつつ、自分の斜め隣であゆみの真向かいにクッションを引っ張り、シーニーを誘導する。シーニーが困ったように眉根を寄せてあゆみのほうを向くと、あゆみはみどりのほうを見ながら言う。

「シーちゃんはシャイだから、いきなり初対面の人のそばに座らせるのは、ちょっと」

「あっ、そうですね。ちょっと強引過ぎました。恥ずかしいわよね」

 そう言うと、みどりはクッションを元に戻した。シーニーは、その上に座り、注意深くみどりを観察しつつ、マグカップを一つ手に取り、フーフーと唇を尖らせて吹いて冷ます。

――恥ずかしいというより、警戒してると言ったほうが正しそうだけど。考えてみれば、みどりちゃんにシーちゃんのことは話しても、シーちゃんにみどりちゃんのことを話したことは無かったわね。不審者かと訝しんでも、無理ないわ。

 まさかあゆみが、そんな考えを巡らせているとは、つゆ知らず、みどりは、眼福だ、目の保養だと言わんばかりに、慎重にココアを飲んでいるシーニーを見つめ、あゆみに小声で囁く。

「ハァ。予想以上にハイレベルだわ。幸せすぎて、昇天しちゃいそう」

「成仏するのは、連載が完結してからにしたら? 緊張しちゃうから、そんなに食い入るように見ないであげて」

 あゆみが忠告を含めて囁き返すと、みどりは顔をあゆみに向けつつ、チラチラとシーニーを観察しながら囁く。

「あっ、それもそうね。でも、まるでアノ小説の彼みたいじゃない。ほら、主人公が夏の旅行でバンガローに泊まったとき、隣の敷地のコテージにサナトリウムに来てた」

「あぁ、巻頭のカラー口絵にいた少年ね。似てるかしら?」

「そっくりじゃない。色白で、手足が長くて、顔が小さいでしょう。それに、長い睫毛と愁いを帯びた瞳なんて、そのまんま」

「でも、色が全然違うじゃない。熟成された上質なワインのような落ち着いた赤い髪で、摘み取ったばかりのオリーブをオイルにしたような澄んだグリーンの瞳でしょう?」

 こそこそ話す二人が気になったのか、シーニーが二人に話しかける。

「髪と瞳の色の違いは理解しました。服装は、何か違いますか?」

「そうねぇ。その子は、台襟の高い真っ白なシルクのシャツに、瞳と同じ色でアーガイル模様の入ったカシミアのサマーカーディガンを羽織っていて、下はカーキ色のハーフパンツで、足元は髪と同じ色のラインが入った紺色のハイソックスをはいてるわ」

 みどりが口絵を思い返しながら詳細を述べると、シーニーは立ち上がり、浴室に向かいながら言う。

「詳細な情報をありがとうございます。では、ちょっと失礼します」

「は~い、行ってらっしゃい」

 手洗いに立ったと思ったあゆみは、何の気なしに言ったあと、ある可能性に気付き、急いで立ち上がってシーニーを追いかける。が、時すでに遅く、脱衣スペースにいたシーニーは右手を掲げ、中指をパチンとはじいてしまった。

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