017「慣れからくる油断」
「面取りしたり、筋を取って下茹でしたり、灰汁抜きしたり。ずいぶん本格的な料理が出来るようになったのね、シーちゃん。すごいじゃない」
「それほどでも。買い物に行ったとき、ハンバーグという名の料理を振舞っていた、気前の良い婦人から伺ったんです。火を使わずに長時間にわたって熱することが出来る、魔訶不思議な鉄板を使っていたので、怪しいと思いつつ、どういうカラクリか気になってしまって、つい、用も無いのに近くまで寄ったのがキッカケなんですけどね」
こたつテーブルを囲み、シーニーが反応を伺う中で、あゆみは会話を楽しみつつ、煮物やごはんを食べ進めている。
――ホットプレートで試食販売してるおばさんに、主婦のテクニックを教わったのか。きっと、可愛い子に弱いタイプだったんだろうなぁ。うちの子も、こんな子だったら良かったのに、なんて思ったに違いない。
「カラクリは、見破れたの?」
「一応、それなりには。僕が推測するに、アレも雷の力を応用したものであるらしいとまでは分析できたんですけど、黙っていると、歳はいくつかとか、どこから来たのかとか、こっちの味も食べてみてだとか、その材料で何を作るつもりなのかとか、矢継ぎ早に質問されるものですから、結局、詳しいことは分からずじまいでした」
――まぁ、そうでしょうね。でも、パートのおばさんは電器屋さんじゃないから、もし、どういう原理でホットプレートが熱を生み出すか訊いていたとしても、きっとシーちゃんが満足するような答えをできなかったに違いない。
「それは、残念だったわね」
「えぇ。だから今度、また書物を紐解いて調べたいんです。アレも返さなきゃいけませんし」
そう言って、シーニーはカラーボックスの上に置いてあるレシピ集を指差した。
「そうね。それじゃあ、明後日のお買い物前に、また図書館に行くことにしましょう」
「はい、お願いします。――ごはんは、まだ食べますか?」
空になったお茶碗を見て、シーニーが問いかけると、あゆみは、箸を止めて答える。
「もう、結構よ。あんまり食べすぎると、お肉が付いちゃうわ」
「そうですか。そうですね。それ以上スタイスが崩れるのは、良くありません」
「なんですって?」
シレッと素知らぬ顔で失礼な発言をしたシーニーに対し、あゆみの心の中に般若が姿を現し、それが表情となって顔に出ると、その変化を見たシーニーは、すぐさま立ち上がってキッチンに向かいながら平生を装って言う。
「あっ、そうだ。残ったごはんは、ラップに包んでおにぎりにして、鍋の煮物は、タッパーに入れておきますね」
――チッ。逃げられたか。
あゆみは、リズミカルにおにぎりを握り始めたシーニーの後ろ姿を見つつ、残った煮物に箸をつける。




