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009「お出掛けとお留守番」

「それじゃあ、仕事に行ってくるわね。何かあったら、すぐに電話するのよ。電話の使いかたは」

「覚えてます。これを外して、ここに書いてある番号を押せば良いんですよね?」

 ファックス付き固定電話の前に立ち、シーニーが受話器と本体にテープで貼ってある名刺を順に指差しながら言うと、スーツ姿のあゆみは、冷蔵庫と電子レンジを順に指差しながら言う。

「その通り。食事は、昨日作ったカレーを、お皿に盛ってラップを掛けてあるものをそこに入れてあるから、お腹が空いたらそっちで温めて食べるのよ。ご飯は炊飯器に保温してあるから、好きなだけよそってね。たぶん、私が帰ってくる頃には、シーちゃんは猫になってるだろうから、そうなる前に先に一人で食べておくのよ。いいわね?」

「はい。そうします」

「あと、今日は配達の荷物が届く予定は無いから、誰かがドアの外から呼んでも、返事をしたりドアを開けたりする必要は無いから」

「はい。わかりました。イルスを使うんですよね?」

「そうよ。それじゃあ、あとは頼むわね」

「お任せください。この部屋は、僕が責任をもって守ります」

「はい、頑張ってちょうだい。行ってきます」

「行ってらっしゃい」

 あゆみは、シーニーに笑顔で見送られ、微笑みながら手を振り返してつつ出掛けて行く。

  *

「銀髪碧眼のイケメンショタですと!」

「シーッ。声が大きいわよ、みどりちゃん」

 ミルクを入れたコーヒーとクラブハウスサンド、レモンが浮かぶ紅茶とメイプルシロップがかかったパンケーキが並ぶ喫茶店のテーブル席で、同じ千鳥格子のベストとタイトスカートを着た二人の女子行員が、他愛もないお喋りに花を咲かせている。

「あぁ、ごめんなさい。つい、興奮しちゃって。でも、どうして急に、そんな小さい子を預かることになったんですか?」

 パンケーキに、中央に乗った溶けかけのバターを分けるようにナイフを入れながら、みどりが誰もが当然にいだく疑問をぶつけると、クラブハウスサンドに噛り付いていたあゆみは、口元を片手で押さえながら話す。

「まぁ、そこに至るまでには、いろいろと事情があるのよ。詳しいことは聞かないで。当事者である私も、うまく説明できる自信が無いの」

「ふ~ん。先輩も、なかなか複雑なんですね。今朝から太ももが筋肉痛なのも、その子が原因なんですか?」 

「そうなのよ。久々に全力疾走したものだから、脚が驚いちゃったのね。日頃の運動不足と、衰えた体力を痛感するわ」

 コーヒーを口にしながら、どこか遠い目をしながらしみじみとあゆみが言うと、みどりは、ティースプーンでレモンをソーサに外し、飲み頃になった紅茶を一口啜ってから、励ますように言う。

「そんな年寄りじみたことを言わないでくださいよ。まだ三十になったばかりじゃないですか。痛みが翌日に来るだけマシですって。私のお母さんは、二日後に来ますから」

「まぁ、そうなの。歳は取りたくないものね」

 そう言うと、あゆみはシュガーポットの蓋を開け、カップの中にトングで角砂糖を一つ入れ、ティースプーンでかき混ぜる。みどりは、フォークでパンケーキを口に運び、もごもごと頬張っていると、ふと何かを思い出したように顔を上げ、あゆみを注目しながら言う。

「そうそう。課長に頼まれて、渉外課に書類を持って行ったときに、ちょっと廊下で小耳に挟んだんですけどね。なんでも、総務課に、スポーツ系の爽やか男子が入ったそうなんです。噂によると、五年くらい前に北海道にある支店に出向させられた人らしくて、えーっと。たしか、お名前が」

「江崎リョウ、でしょう?」

 あゆみが言葉を継ぐと、みどりは驚いて目を見開きながら、あゆみに尋ねる。

「どうして、知ってるんですか?」

「どうしても何も、江崎くんは私と同期なのよ。もっとも、高卒の私と違って大卒だから、歳は四つ違いだけど」

「はぁ、そうだったんですね。まさか、お知り合いだったとは。いいなぁ、先輩」

 羨ましそうにしながらみどりが言うと、あゆみは食べる手を止めて疑問を挟む。

「どうして?」

「だって、先輩の周りは、イケメンのパラダイスじゃないですか。インテリに、ショタに、スポーツマン。一皿百円で、お好きな男子を選びたい放題」

「回転寿司みたいに言わないでよ。みどりちゃんだって、そのうち、きっと良い人と巡り会うわよ」

――いくら見た目は良くても、誰も彼も性格に癖があったり難があったりするんだから。それに、……最初の一人は、もう、この世に居ない。

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