魔王ノ話 其の一
これは、梵 悠斗が転生する5年前の話。
「……どうしたものか、このままでは戦争は一向に集結しないでは無いか。」
魔王サティア・オベリアは数々の問題に頭を悩ませていた。
歴史上、類を見ない大戦争。
元々、この戦争は魔帝国オベリアルとユートラス王国の二国間での戦争であった。それが激化し、あらゆる国や種族を巻き込むこととなったのである。
魔王にとってこの戦争を終わらせることは簡単だった。が、その終結の方法は皆殺しにすることであり、もちろんそれが了承されるはずも無かった。
だからこそ、彼女は悩んでいた。ユートラス王国の先代国王ロッド・ユートラスを怒りに任せて殺してしまった事を。
何度、弟に詰られたことか。私はお世辞にも、情勢や常識を知っているとは言えない。
だからこそ、頭を使うことを弟に任せていたというのに。
あの会談の際に、弟を呼んでおけば良かったと今更ながら思う。
しかしどうだ?相手も相手で、会談をするにあたっての態度がなっていなかった。調子に乗って、こちら側に不利な条件を突きつけた上に、国同士の間にある森の権益の全て寄越せと嘯く始末。
そして、ついカッとなって殴ってしまった。殺すつもりはなかったのだが、思いのほか強く殴ったようで、首が吹っ飛んだのだ。
蘇生しようとも思ったが、スキル「不浄ノ源」により触れた瞬間に生命力を全て奪い取ってしまい、魂の欠片1つも残らなかったのだ。スキルの調整を失敗するなんてありえない話だ。しかし、あの時は気が立っていたので仕方なかった。
まぁ、そんなことで今かなり困っているわけだ。
「サティア様、ロスク様がお戻りになられました。」
配下の悪魔、七大罪の内の一柱「傲慢」。プライドがそう告げた。
私の弟、ロスクには各地の情報を全て漏らすことなく集めさていた。ロスクは私と違い、頭脳明晰で情報集めが大好きな情報マニアだ。
開かれたドアから軽快な足取りで入って来る1人の男。
「やあ、久しぶりだね。短絡的思考な脳筋魔王様。」
「ほう、そんなに私に殺されたかったのか。それならそうと言ってくれれば、今すぐ殺してやったのに。」
会って数秒で殺気立つ両者。
「お待ち下さい、お二方。今はそのような事をしてる時間も惜しいのです。」
鬼の形相でプライドが2人の間にはいる。
ロスクとサティアは大人しく席に座る。
「さて、僕は何から話せばいいのかな?」
「全て話せ。お前が集めた情報全部。」
「情報全部を話して、覚えてられるの?イラついただけで、国王を殺しちゃう脳足りんのくせに。」
私は思った。こいつぶっ殺しテェ。
……チッ。私以上にプライドがブチ切れそうだ。ここは大人の対応をしてあげよう。命拾いしたな我が弟よ。
「とりあえず、私に伝えるべき事を掻い摘んで話してくれ。」
「分かったよ。なら、今の世界の情勢から教えてあげるよ。まず、君はユートラス王国の国王ロッド・ユートラスを殺しただろう。それは全世界に伝わっている。このことをきっかけに、ユートラス王国とウルフェシア帝国は更に軍事活動を活発化させている。明後日には奴等の軍がこちらに向かって来るだろう。他の国も軍備を十分に行っている。今でさえ被害は少ないがここから戦いは激化していくことになるだろう。そうなれば、こちらもただでは済まない。取れる手段としては2つ。1つ目は真っ向勝負する事だ。これは、こちらへの被害も無視出来ない。そして、2つ目はこちら側から代償を何か支払う事だ。」
「何を馬鹿な事を……。そんな事をすれば、奴等はまた調子にのるぞ?」
「多分、そうだろうね。だけど、代償として渡す物が僕だとしたらどうなると思う?」
なんとも黒い笑顔で笑うロスク・オベリア。こいつと心底関わりたくないと思った。が、私とコイツは姉弟だったな。死にたい。
「今コイツと姉弟とか死にたい、って思った?」
なんだコイツは、読心系のスキルでも持ってたのか?
「まあ、いい。さっきの事について説明するよ。まず、僕が戦争の最中に敵の軍に捕まるんだ。そして敵の内部に潜入して内側から潰す。簡単だろ?」
「いや……簡単かどうかは知らないが、まず捕獲される前に殺されるだろう。」
「ふふ、そこは大丈夫。集めた情報の中にこんな情報があったんだ。敵国はこの戦争後も僕達に対して優位性を取りたいらしいんだ。そこで、魔物や魔人の魔力を消失させ、無力化する機械を発明したらしい。つまり、それを僕が受けて無力化させられたフリをすれば良いのさ。」
「そんなに上手くいくのか?」
「うん?君と違って僕は頭が良いからね。どう転んでも大丈夫にしておくさ。」
いちいち一言多いな。しかし、頑張ってもらうしかないし。私にはどうこう言っても意味が無い。コイツは殺しても死なないだろうし、そんなに心配することはないな。
「そっちは、全部お前に任せるよ。ありはしないだろうが、危険だと思ったら伝達魔法で伝えてくれ。」
「任された。せいぜい僕なりに頑張ってみるよ。」
ロスクは入ってきた時と同じように、軽快な足取りで部屋から出て行った。こうして、魔王姉弟の会談は終わった。
これから起きる更なる戦争を前に、サティア・オベリアは憂鬱そうに机に目を落とす。そして、深く溜息を吐いた。
「宜しかったのですか、サティア様?」
「ん?何の事だ?」
「いえ、戦争が近いというのにロスク様を行かせてしまって良かったのですか?」
「ロスクがいなくてもプライド、お前達がいればどうにかなるだろう。」
「そのお言葉、光栄に思います。しかし、スロースとエンヴィーは思うように動くでしょうか?」
「そんな事は知らない。プライド、お前が悪魔共を纏めてくれ。期待してるよ。」
こういう時だけ、綺麗な笑顔を浮かべやがって。と心の中で思ったプライドであった。