争い
転生者、それは別の世界で死に、また別の世界に生まれ変わった者。俺以外の転生者、気になるところだ。
「2人の転生者とはウルフェシア帝国の軍隊長『リトード・ガルロ』ユートラス王国の騎士団長『橘 紗夜』の2人です。」
シャルによって、2人の転生者の名前が明らかになった。橘 紗夜、名前からして確実に日本人だろう。
「彼らの戦力は、小国の軍隊であれば壊滅させられる程度です。」
「え、それって一人でって事か?」
俺は思わず、質問してしまった。だって、小国とは言っても国家に変わりはない。それを一人で壊滅できるなんて。
「はい、その通りです。彼等は、たった一人でそれ程の戦力を有しているのです。」
マジかよ、化け物じみてるな。できればそんな奴らとは敵対したくない。
シャルからある程度、この世界の情勢を説明してもらった。
まぁ、ともかくこの世界には化け物じみてる奴らが沢山いるというわけだ。
俺がこれからどうするかを考えていた時、遠くの方で爆発音のような音が聞こえた。
「誰かが戦っている音でしょうか、もしかしたら、私が調査しに来たAランクの魔物かもしれません。」
シャルがそう告げる。
特にまだ明確な目標も決まってないし、行ってみることにしよう。
音のした方に行ってみると、そこでは、魔物同士が戦っていた。1匹はオークであった。しかし、最初に見た者達とは違い、しっかりとした武具を装備していた。もう1匹は人狼と呼ぶべきだろうか、かなり大きな体躯だ。
何か言い争っているようにも見えるが、一触即発のようだ。
『警告。両者から膨大なエネルギーを感知、このまま衝突すれば主人様以外の者は危険に晒されるでしょう。』
おっと、そいつはヤバイな。どうにかできるか、森羅万象?
『仰せのままに。』
その瞬間、2人が動いた。オークは、魔法によって巨大な岩石をいくつも発射した。人狼は前に跳躍し、その腕には黒い霧が纏っていた。
そこで、俺の体が動いた。コマ送りみたいに世界が動く。右腕で『加速』と『硬化』を発動し、岩を砕く。左腕で『物理攻撃無効』、いつのまにか生成されてた『魔力吸収』を発動し、人狼の腕を抑える。
時間にして1秒にも満たなかった。
森羅万象のおかげで誰にも被害を出さずに終わることができた。
「誰だお前?」
人狼が問う。
「止めないで頂きたい。そいつは我が同胞の仇なのだ!」
オークは言う。
どうしよう。こいつらの戦いの理由が良く分からん。なんとなく、止めちゃったけどこの後のこと何も考えて無かった。
「お二方、少し落ち着いて下さい。事情を説明して頂かなければ、どちらが悪いとも言えませんよ。」
シャルが2人を宥める。
落ち着いたのか、話を切り出すオーク。
「先程、私の配下であった3人のオークが何者かに殺されたのです。その死体を確認したところ、ほぼ同時に殺されていたのです。あやつらも、この森では上位の強さ。そんな事を出来るのは、この森に人狼族以外はおりません。」
どうやら配下のオークを何者かに殺されたらしい。そしてその疑惑は、人狼族にあると思った訳か。
俺が気になったのは、殺されたのが3人であるという点だ。まさかとは思うが、俺が殺してしまったのは……。
《その可能性が高いでしょう。》
おい、森羅万象。お前のせいなんだからな?分かってるのか?
《…………。》
無視かよ。
「---あやつらとて、自我を持った者たちだというのに……。」
おっと、話が進んでいたようだ。
聞き逃しそうになったが、とても重要なことが聞こえた。
確か、俺があった時のオークには自我などはなかった。俺を見つけるなり、襲いかかって来たのだ。
《何者かにより、操られていた可能性があります。》
本当にこいつは……。都合のいい時だけ喋りやがって。
だが今はいい。聞かなければならないことがあるしな。
「なあ、他に気づいたことはなかったか?」
オークは少し考えている様子。
そして、何か思い出したのか口を開く。
「そういえば、あやつらの死体には僅かに、魔法の術式が残っていましたな。」
魔法の術式か。魔法なら他人を操ることも出来るだろう。
《魔法をかけた術者=Aランクの魔物という可能性も否定できません。》
お前色々やらかしてるんだから、死んだオークに魔法かけた奴の特定と、殺したオークを蘇生できるようなスキルを作っとけ。
《了解しました。》
よし、これでとりあえずは良いだろう。では、次だ。俺はオークに対して説明を行う。
「唐突だが、3人のオークを殺したのは多分俺だ。そして信じてもらえ無いだろうけど、3人とも魔法で操られていて自我は無い状態だったから仕方なかったんだ。」
まあ、何という下手な説明だろうか。さすが、コミュ障。
そんなことより俺の説明でもしっかりと伝わったのか、オークは俺を敵として認識したようだ。人狼は驚いた顔をしてるし、シャルは気まずそうな顔をしている。
「貴様が……仇討ちさせてもらう!」
オークがいつのまにか取り出した、鉄槌を俺に向けて叩きつけてきた。
それを後方に飛んで躱す。
森羅万象がどうにかするまで、俺は時間稼ぎをしなければならない。しかし、俺は喧嘩の一つもしたことが無い。そんななか、オークとの戦闘である。運が悪ければ死ぬだろう。
《オークごときの攻撃では主人様は死ぬ筈がありません。》
お前は無駄口叩いてないで、さっさと術者の特定とスキルの生成をしろ。
《スキル『蘇生』の生成に成功。スキル『蘇生』を獲得しました。スキル『森羅万象』と並列使用します。対象を視認して下さい。》
え、もう出来てたの?
《時間があまりありません、ここは私にお任せを。》
あ、お願いします。
こんなやりとりの最中でもオークは攻撃してくる。既に俺の体は意識下に無く、森羅万象が相手をしている。
何分くらい経っただろうか。俺がボーっとしていたら、森羅万象が話しかけてきた。
《オークの蘇生に成功しました。術式の解析、解除に成功しました。》
お疲れ様です。なんか俺の無能感が否めない。
《いえ、主人様は説明をお願いします。私が戦闘を行いますので。》
そうだね、俺に出来ることなんてそんなもんだよね。
「あ、オーク君。君の配下の蘇生が完了したよ。だから、攻撃をやめてくれないか?」
「戯け!蘇生など高位の魔術師でもかなりの低確率でしか成功しない!そんな、簡単に……」
やはり、そうなるよな。
「あれ、隊長!こんな所に……ってなんで戦ってるんすか!」
俺がどう説明しようかと思っていた矢先、なんか見たことのある3人衆が。
「お、お前たち!まさか本当に……?」
余程、驚いているのか完全に俺から目を離している。
「何を言ってるんすか?なんで泣きそうになってるんすか?」
「泣きそうになどなっておらぬ!!」
感極まってるのと、戸惑い気味の3人。まぁ、何はともあれ生き返って良かったな。
「申し訳ありません、私のせいで……。」
シャルが申し訳なさそうに言う。
マズイ、シャルと人狼のことすっかり忘れてた。
「あ、ああ。別にいいさ。殺してしまったのは俺の意思だったし。」
動揺を悟られぬように答える。俺、というより全部森羅万象のせいだからな。はっきり言えば、俺は何もしなくても良かったんだ。
おや、なんかオークが俺の目の前に並んでいる。どうしたんだろう。
「この度は、こやつらを蘇生して頂き感謝します。お礼になるかは分かりませんが、是非配下にして頂きたい。」
おお、そいつは嬉しいな。仲間が増えるのはいいことだ。
快く了承しようとしたとき、人狼が前に出てきた。
「俺も仲間に加えてくれ。俺はこの森では最上位だからと調子に乗っていた。だからあんたの下で修行させてくれ。」
「あ、うん。別にいいけど。俺が強いんじゃないからな。」
ここは念押ししておかねば。森羅万象が代わりに戦ってたからな
「今更、そんな謙遜はいいさ。」
謙遜など1ミリもしてはいない。が、聞く耳を持ってくれそうに無いので、放っておこう。
こうして、梵 悠人は仲間を増やすことに成功したのである。そして今、仲間にしたオークと人狼は後に、彼の配下の中で最強の盾と矛となるのだが、それはもう少し後の話である。