空へ(落下も含む)
かなり不定期です。
薄々、気づいてはいた。
自分は、死んだはずなのにこうして意識がある。ここに来る前に見たあの大きな蛇。そして、スキルという仕組み。
ここから言えるのは、自分はネット小説によくある異世界転生をしたらしい、ということだ。
前世でたまに読んでいたジャンルだったから、その事実を受け入れるのはそこそこ早かった。俺が読んでた小説の主人公達の転生先は、普通に人だったり、スライムだったり、蜘蛛だったり、剣だったりと色々あった。
だけど、右腕て!?
生物として未完成なんだけど!?
人体の構造上、右腕はただのパーツでしか無い。つまり、とっても無力。まだね、怪物の腕とかなら救いはあったかもしれない。しかし、人の右腕で出来ることなんてたかが知れてる。じゃんけんすら出来ない。
俺の知ってる異世界転生は、序盤からチートで勝ちまくるものだったのに……。
しっかし、移動もまともに出来ないとなるとつらいな。スキルで浮くとか出来ないのか?
「「ガシッッ」」
ん?ガシッッ?
俺の体が宙に浮き始めた。スキルは使用していないはず。
急いで視点を切り替える。俯瞰状態で見えたのは、さっき見た鳥もどきだった。
鳥もどきは俺を掴んだまま飛行し始めた。
こいつ、俺をどこに連れて行くつもりだ?
まぁ、こいつに話が通じるわけがない。今は身を任せて、周りを見渡していよう。
うわー、すっごい森。眼下に見えるのは全部森。いや、広すぎだろ。動物らしきものも何匹か見える。馬みたいなのや、虎っぽいの、ムカデのようなのもいる。あ、豚にそっくりな生き物がいる。でもなんか二足歩行に見えるのは気のせいだろうか……。
俺がその二足歩行の生き物を見つけた瞬間、鳥もどきの目つきが変わった。完全に捕食対象を見つけた目をしている。
「「ポイッ」」
は?
さっきまでの掴まれていた感触は無くなり、代わりに浮遊感が身を包んだ。擬似的な聴覚に聞こえてくるのは、すごい速さで風を切っている音のみ。
すごくマズイ。
このままだと地面に叩きつけられて死ぬ。また死んでしまう!
どうすればいい?
えーと、うーんと、そうだ!スキルがあるじゃないか!
何かいいスキルは無いのか?
《スキル『浮遊』を獲得しますか?》
お!それだ!!
迷わず、獲得を実行する。
《スキル『浮遊』の獲得に失敗しました。》
えええ!?
なんで!?他の時は、すんなり出来てたじゃん!
やばい、本当に死ぬ。
他には?代わりになるような物は?
《スキル『飛行』を獲得しますか?》
もうそれしかない!
速く獲得してくれ!
《スキル『飛行』を獲得しました。》
《スキル『飛行』を使用します。スキル『浮遊』により自動補正が追加されました。》
スキルにより、俺の体(腕)は空中に留まった。
ふー、危なかったー。
そろそろと地面に着地する俺。
なんとか一命を取り留めたわけだが、さっきあの声はなんて言った?
スキル『浮遊』により自動補正が追加されただと?獲得失敗って言ってたのに?
どいうことだ?ちゃんと、説明してもらおうか?
《スキル『浮遊』は既に獲得済みのスキルであったため、新たに獲得することに失敗したという事です。》
ほーん。でもそこまで知ってたなら、最初から『飛行』の方を獲得するようにしたら良かったんじゃ無いのか?
《今のシステム上、それは出来ません。》
今のシステム上ってなにさ。
はぁ、まあ今回は死ななかったから良しとしてやる。だけど、次からはこんな事がないようにな。
《…………》
いや、なんか言えよ!
こうして、俺は空の旅(数分)を終えたのだった。