シャルとハルバ、時々番犬
今までの投稿した物の行頭の空白が開いてなかったので、変更しました。
見づらかったと思います。大変、申し訳ありませんでした。
〜「西側」シャル・ハルバチーム〜
森を進むシャルとハルバ。森の西側には大きな湖があり、そこにはゴブリンやオークの集落があった。しかし、戦争の被害によって崩壊してしまっていた。木々を切り開いた場所に建物らしき物が跡形も無く横たわっている。
「ここでは、EランクやDランクのモンスター達が集落を営んでいました。この倒れた建物を見ると、ある程度の建築技術はあった様ですね。」
建物の残骸を見ながらシャルは言う。
「そうだな、俺の家よりずっとマシだっただろうな。」
ハルバは残骸の近くの切り株に腰かけた。
「そういえば、ハルバさんはこの森の生まれの方ですか?」
「ああ。だが俺は他の奴らとは違って、ずっとこの森で過ごして来たわけではない。俺はユートラス王国で冒険者として活動してきた。だから、この森にはギルドにあった依頼を受けて来たんだ。」
「え、ならランクはいくつですか?」
「ランクは……Bだ。」
ハルバはシャルから目をそらしながら答える。しかし、シャルは一瞬も目を離さない。
「私のスキルの中に『読心』というものがあります。このスキルは対象の思っていることや考えていることを読み取ることができます。勿論、嘘をついているかどうかも……。」
シャルは満面の笑みで、自分のスキルを説明する。それに反して、ハルバの顔色は優れない。
「分かった、降参だ。俺の本当のランクはAランクだ。けど、別に嘘をついた訳では無く人狼族としてのランクを言っただけだ。」
「そうですよね、誇り高き人狼族のハルバさんが嘘をつくはず無いですよね。」
ジト目でハルバを見つめるシャル。ハルバは諦めたように息を吐き、切り株から立ち上がった。
「もういいだろう。この森は広いんだ、調査を進めるぞ。」
そして、ハルバは更に森の奥へと歩いていく。
森の西部に広がるカシネ湖。この湖は古くから、森に住むモンスター達に豊かな資源を与えていた。カシネ湖の周りには特殊な薬草や果実が採れる場所があり、冒険者にも恩恵を与えていた。また、それらを維持していたのは水や木の妖精達であった。
そしてそのカシネ湖に住まうと言われている伝説。妖精達の番犬、クー・シー。古い書物にしか載っていない伝説級の妖精は、存在するのかどうかも怪しいとされていた。
カシネ湖に到着したハルバとシャル。エメラルド色の湖は、太陽の光で煌めいている。
「カシネ湖、王立図書館の古い書物には妖精達の楽園と書かれていました。そこには番犬がいて、妖精達を守っているとも書かれていました。」
シャルは自分の記憶を探るように言った。
「番犬……?それはただの伝説だろう?」
ハルバもカシネ湖のことについては詳しく知っていた。だからこそ、番犬の存在も把握していた。
「「ふん、ただの伝説とは言ってくれるではないか。」」
「シャル?今、何か言ったか?」
「いいえ、私は何も言ってませんよ?」
人狼族は聴覚と嗅覚が発達している。そして、ハルバは魔物の年齢基準で言えばまだ若いほうである。ハルバはそれなのに幻聴が聞こえたことが少しショックであった。
「「想像上の存在にした挙句、儂の言葉を幻聴などと……」」
ハルバは、(まだ、聞こえる。疲れが溜まっているのだろうか。幻覚とかが見え始める前に休んだ方が良いかも知れない……。)と心の中で思った。
「「……無礼者め。貴様らを番犬の名の下に嚙み殺してくれるわ!」」
湖の上に1匹の犬の妖精が現れた。しかし、大きさは普通の犬よりも大きく牛ほどの体躯を持ちその体は、緑色の毛で覆われている。
「まさか、あいつがクー・シーなのか?」
「ハルバさん!あの人、敵意剥き出しじゃないですか⁉︎」
クー・シーは空を見据えた。
「ウオオオオォォォォォン!!!」
咆哮を上げる、クー・シー。それは何かの呼びかけなのか、妖精達も姿を現した。
「盟友達よ、儂と共に侵入者を殲滅するぞ!」
一斉にシャルとハルバに向かって動き出す妖精達。
「シャル、俺があいつらを足止めしておく。その間にソヨギに連絡をしてくれ。」
その言葉にシャルは反論する。
「でも、あの数の妖精達を相手にするのはいくらなんでも無謀です!」
ハルバは少し笑って、
「俺の身を案じてくれるのなら、ソヨギを呼んだ方が良い。」
とだけ言って、妖精達へと向かって行った。行ってしまったハルバを見て、シャルは急いでスキル『伝達』でソヨギへと連絡を開始した。
おびただしい妖精を前に、俺はため息を吐く。まぁ、あの数は基本的に誰が相手をしても殺されるだろう。けれど、ソヨギならなんとかしてくれるのではないかと思ってしまう。まだ会って短いが、あの魔人はそう思わせる何かがある。
だから、俺は全力を尽くす。ソヨギが来るまで、新しい仲間を守るために。
俺は、魔装壱式『籠手』、弍式『立挙』を発動。腕と脚に黒い防具が現われる。この魔装というものは、自分の魔力を消費して武装を生み出すという技だ。よし、準備万端である。
そう思ったのも束の間、妖精達が一斉に仕掛けてきた。水で生成された矢と木で生成された弾が無数に発射された。妖精達の放った魔法は[水矢]と[木弾]という下位魔法だった。一つ一つの威力は大したことはないが、あれだけの数をまとまって喰らえばひとたまりも無い。俺は後方に大きく跳躍し、それらを躱す。
「奴は動きが素早い、奴の動きを抑えるのが先だ!!」
クー・シーが妖精達に指示を出した。攻撃をしていた妖精の3分の1程度が別の魔法の準備を始めた。今度はバインド系の魔法が発動された。魔法が俺の体を拘束するよりも速く、湖の周りを走る。バインド系の魔法は定位置に留める効果がある、その前に別の場所へ移動する事で回避する。その間にも、攻撃は続いている。
……少しずつ攻撃が当たってきてしまった。今はまだ魔装を発動した部分にしか当たっていないが、これが長時間続けば体力も魔力も尽きてしまう……。
「【聖なる光よ、邪悪を浄化し、全てを消し去れ】!」
詠唱が唱えられた瞬間、光が辺り一面を包み込んだ。範囲攻撃魔法により無数の妖精がある程度減ったように見える。
「お待たせしました、連絡が完了しました!」
シャルがこちらに向かって走って来た。攻撃されているんだが、防護魔法によって何のことは無いようだ。俺は魔法の適性があまり無いため、少し羨ましいと思ってしまった。
「あぁ、ありがとう。立て続けで申し訳ないが、あの妖精達の相手を任せても良いか?」
「え、少し減らしたくらいじゃ、私一人には無理です!」
そうか、流石に無理か。
「なら、俺があのクー・シーと戦っている間、妖精達の攻撃を防いでくれるだけで良いんだ。」
「それなら多分、大丈夫だと思います。」
それだけやってくれるなら十分だ。
「頼むぞ、シャル。」
シャルに防御を任せて俺は特攻を仕掛ける。両脚に力を込めて、湖の真ん中に浮かんでいるクー・シーへ向け槍の如く跳ぶ。出し惜しみをしている場合では無い、これが俺の最大の攻撃だ。一発で決めなければ、数で押されてしまう。
「『力と覚悟を込めて、己の拳で貴様の命を貫かん! ハルバート!!」
俺の拳が迫る中、クー・シーは避けようとしない。その行動は不可解だが、攻撃は止められない。
雷を纏った拳がクー・シーへと届く寸前、クー・シーの前に緑色の魔方陣が展開され、俺の拳は阻まれた。そして、魔方陣から現れた何者かにより俺は吹き飛ばされる。
「残念だったな、人狼族の戦士よ。儂が召喚したのはスプリガンじゃ。此奴は戦闘に特化した妖精、貴様であっても勝つことはできぬじゃろう。まして、力の殆どを使い果たした貴様では尚更じゃ。」
クー・シーがそう説明する。スプリガンはランクで言えばAランクの妖精だ。戦闘スキルは凄まじく、他の妖精達を守護する存在だったはずだ。ここでそんな奴が出てくるなんて……。
「ふん。敵を滅ぼせ、スプリガン!」
その命令を受けて、スプリガンが俺に迫る。
「ハルバさん!! 逃げて下さい!」
シャルは妖精達の攻撃を防ぎながら叫ぶ。そう言われても、もう魔力を使い果たしてしまって動くことができない。このままでは、シャルも殺されてしまう。また、殺されてしまう……。それだけは嫌だ。
「ウオオオオオオオオオオオォォォォォォォ!!!」
俺は咆哮を上げた。これはただの咆哮では無い。敵の注意を引きつける効果を持つスキルだ。シャルを攻撃していた妖精達が狙いを俺に変えた。
「ハルバさん⁉︎ 何を……。」
戸惑った視線を向けるシャル。俺は最後の力を振り絞って叫ぶ。
「逃げろ!! ソヨギが来れば、こいつらをどうにかしてくれる! それまで逃げろ!!」
「でも、ハルバさんが……!」
「いいから、逃げろ!!」
目の前のスプリガンが拳を振り上げていた。その腕は、大木を思わせる程に巨大化していた。
「殺せ、スプリガン。」
その一言でスプリガンは拳を振り下ろす。これで良かった。仲間を殺されるくらいなら、俺は喜んでこの命を差し出す。そして俺は目を閉じた。
「おいおい、森の調査はもう終わったのか?」
能天気な問い掛けに目を開ける。そこにはスプリガンの攻撃を容易く受け止めている魔人がいた。銀髪の髪を持つ彼女は……。
「すまん、遅くなったな。」
「ソヨギ……。」
「ハルバ、お前魔力尽きてるじゃん!シャル、エレラダ、ハルバと安全な場所に避難しろ!」
エレラダ?もしかして、ソヨギが会いに行ったダークエルフだろうか。しかし、助かった……。安堵した俺は意識が途絶えた。




