最終章 その後
「お兄さん、お休みだからといって起きる時間がいつも遅いですよ?」
今日は休日だった。それを分かっていた俺はいつも通り夜遅くまでゲームをし、起きた時間はやはり遅かった。大あくびまで出てしまう。
「おはよう、まりか」
「おはよう、じゃありません! せっかくお兄さんの大好きなフレンチトーストを作ったのに、没収してしまいますよ?」
「お、マジか! じゃあ、今日は掃除をするから頼む!」
「全く……仕方ないですね」
そういうと、まりかは台所へと向かった。
「こんなゴミクズに作ってあげる朝ご飯なんてないわよ、まりか」
そこには、ソファでくつろいでいたまりあがいた。
俺はあの一件以来、まりあの見方が少し変わっていた。
「相変わらずひどい言い方だな……。姉としてのプライドってやつか?」
「は? そんなことで言っているわけではないのだけれども」
「まりあのプライドはエベレスト級みたいなものだからな」
「何をいっているの? 頭のねじでも吹っ飛ばしたのかしら」
そんなやり取りをしていると、まりかが話に割って入ってきた。
「はいはい、お兄さん。朝食ができましたよ!」
「お、サンキュー」
俺はいい香りがする方へと足を運んだ。見ると、そこには見るからに美味しそうなフレンチトーストがどんと鎮座していた。
「さて、いただきま……」
「ちょっと! まりか、大変よ!」
俺が口に運ぼうとした瞬間、まりあが大声を発していた。それに驚いたせいか、一口大に切ったものがフォークから外れて皿の上に落ちた。
「どうしたんですか? お姉さん」
「見て! これ、見るからに美味しそうなカニじゃない!」
まりあが見ていたものは、テレビショッピングの番組で紹介されているカニの映像だった。司会者らしき人が下からカニの足をほおばっていた。
「さて、さっそく電話を……」
そういってスマートフォンを取り出したまりあのもとへと向かう俺だった。
「待て、まりあ。今、お前は何を買おうとしているんだ?」
「何って、カニよカニ。見てわからないの?」
「カニを買ってどうするんだ?」
「食べるのよ。それが何か?」
「何かって、お前……。調理とかどうするんだよ?」
「私が作るから大丈夫よ。まりかに負担をかけさせられないもの」
「あのな、お前が料理がすると大体意味不明なものに……」
なる、と続けて言おうとした瞬間、まりあがそれを遮った。
「はぁ? 私が買うって言ってるわけだし、失敗するとは限らないし、別に問題ないでしょう?」
「問題大ありだよ!」
「本当に能無しね……。私がカニを買ったら、そのカニたちも喜ぶと思うわ」
「そんなことあるか!」
「ともかく、あんたは黙って」
「そんなことできるわけ……」
「あ、もしもし? 今、テレビで紹介されているカニを注文したいのですけど……」
まりあはいつの間にか俺を無視してカニを頼んでいた。
「お、お兄さん、大丈夫ですよ。カニは私が調理しますから……」
「そういう問題じゃないぞ、まりか……」
前言撤回。やはり俺の考えは間違っていた。
彼女の正論というものは、「ワガママ」と「押しつけ」でしか構成されていない。
最後まで拝読してくださり、本当にありがとうございました。つたない文章でしたが、少しでも楽しかったと思っていただけたら幸いです。
洋梨の缶詰め