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私生活が割と忙しくて、書く時間がほとんど取れていないです。
あまりハイペースでの投稿は出来ないうえに愚作ですが、読んでいただけると幸いです。
「止まれ!その軍服、ルナガルドのものだな?何をしに来た。」
「ルイスの家族に……彼の遺品を届けに来た。俺の事を信用できぬなら、今ここで全ての武器をおまえ達に預けよう。」
死んでもいい。
そう思っていた。
例え死んででも、彼が命を使ってまで護りたかったものに、会ってみたかった。
だから、メモリーズを全て門番に手渡す。
丸腰で敵国へ入ろうとする。
「信用できんな。悪いが死んでもらう。貴様らは魔法が使えるのだろう?」
「待てぃ!おまえら一旦引けぃ!」
誰だ?
俺を庇おうというのか?
そんなこと必要ない。
情なら、かけなくても………。
「敵国の者とはいえ、攻撃する気がないやつに刃を向けるとは。おまえらどこまで堕ちてんだ?だいたいおまえら何でもかんでも斬ってりゃいいってもんじゃねぇし───」
上司だろうか。
この上司の説教が終わったのは2時間後だということには、正直驚いた。
そんなに長く喋ってて、よくものどが潰れんものだ。
「悪ぃな、うちの部下が。あんたの事情は理解した。上にバレたらたぶん、大変なことになるだろうから、俺が案内する。軍服とはいえ、それ正式なやつじゃないんだろ?」
「あぁ。」
これでもかと言うほどの短い返事だ。
「だったら、ルイスの家に着くまでフード被ってたら、なんとかなるだろ。ついてきな。武器は持ったままでいいからさ。」
俺は、その人物に連れられてルイスの家へと向かった。
門を抜けた先は、機械で埋め尽くされ、煌びやかに光る街があった。
俺がいたルナガルドとは大違いだ。
「すげぇ………。」
語彙力が皆無になるほど、綺麗だった。
「だろぉ?これが魔導兵器の素、魔導機構だ。こいつの技術を応用して、魔導兵器が作られてる。」
「そんな情報、俺に流しても良いのか?」
「あんた……イルミアなら、戦争を終わらせてくれそうな気がしてね。この機構を潰すか、ルナガルドを精神的に潰すか。」
どっちかを選べと言われると、迷わずルナガルドを潰す方を選ぶ。
もちろん、物理的にも。
「あとちょっとだ。ここからは水路だから、グラビティボードを借りないとな。」
「何言ってんのか全くわかんねぇ。」
「ほら、水路の上をヒュンヒュン飛んでるやつだよ。」
俺は、この国に社会見学にでも来たのだろうか。
「機械って、凄いんだな………。」
「あぁ。今な、マシンアカデミーでは全自動ゆで卵製造装置が研究されてるんだ。」
ゆで卵といえば、鍋でゆでるのが基本だろう。
それを、この国の人達は全自動でやろうとしている。
自身の出身国……いや、育った国とは全く違った方向に、動いている。
魔法や魔術はなくとも、強くたくましく、そして便利に生きている。
俺らは、こんな国を相手にしていたのか………。
「さぁ、着いたぞ。俺は口出ししないから、言う事言えよ。」
促されて、俺はルイスの家のドアをノックした。
「はい、どなたでしょうか?」
「あぁ、俺だ。ちょっと、客が来てるから。」
扉の奥からは、痩せていて、それでも美しい女性が出てきた。
「ルナガルドの、イルミアだ。ルイスの遺品を返しに来た。」
彼の剣と、首飾り。
その二つが、彼が確かに存在していた証拠だ。
「そう、ですか。……夫は…………っと、死ん……だ……んですね……。」
「俺が、殺した。それを、謝りたくてここまで。」
謝りたかった。
遺品を返したかった。
彼が命を賭して守りたかったこの国に、来てみたかった。
いろんな感情が渦巻く。
相手の目を、見ることができなくなる。
そして思わず、目を逸らした。
「夫、ルイスは、最期まで逃げませんでしたか?」
逃げてないどいない。
彼は、とても勇敢だった。
どれだけ傷つこうが、立ち向かってきた。
だから、俺は首肯した。
否定など、できるはずがない。
する理由もない。
否定できる事実がない。
「ルイスは、本当に強い人だった。出会い方さえ違っていれば、良き友になれたのかもしれない。」
「きっと、そうです。貴方も、彼と同じく心が強い。戦争中にも関わらず、敵国にたった一人で来るなんて……。」
貴方は、敵じゃないみたい。
そう、彼女は言った。
今の俺は、全ての敵。
そのはずだったのに、その言葉が嬉しくて。
1粒、涙を流した。
「お母さん……お父さんは?」
子供の声がした。
きっと、ルイスの娘だろう。
俺は悔いた。
何故あの時、俺は退かなかったのだろうか。
あの時退いていたら、ルイスはここへ帰ってこれたのに。
全ては、俺が心を捨てたから。
なのに、どうしてこんなにも、胸が苦しくなるんだ?
「リア……。お父さんはもう……。」
彼女は、泣き崩れた。
リアと呼ばれたその子を抱いて。
我慢していた涙を、流した。
本当に、息が詰まる。
「嘘……?お父さん、帰ってくるって言ったよね?約束したよねぇ…?なんで?なんで帰ってこないの?」
「…………俺が……殺したからだ。」
見ていられなかった。
事実を、告げずにはいられなかった。
本当に悲しいことだが、これは戦争だ。
いつ何処で、誰が死んでもおかしくない。
それは、俺も、今ここにいるリアも。
誰しもが、死神に鎌を突きつけられているんだ。
「お父さん、優しかったよ?お父さん、強かったよ!?なんで……なんで!?」
「リア!もう、部屋に戻りなさい。」
部屋に追いやられるその瞬間に、リアの叫び声を聞いた。
「人殺し!」
と。
「はは、そっか……。人殺しか……。」
随分前から、分かっていた。
この戦争では、誰もが人を殺し、誰もが悲しみを生む。
この戦争の目的は、一体何なのだろう。
「帰ろう。イルミア。これ以上は、な。」
「あぁ。本当に、すまなかった。謝っても謝りきれない。」
そう言って、俺は入ってきたドアへと向かった。
「待ってください。これを。」
剣を、手渡された。
ルイスのものとは違う、新たな剣。
真新しく、まだ血で濁っていない剣。
「これは……?」
「これは、夫へ贈るはずだった剣・[オラシオン]。夫と同じ瞳をしている貴方だからこそ、これを渡します。どうか、彼の心を継いで。」
戦争を、終わらせる。
それがルイスの心だ。
だったら俺は、ルナガルドを潰さねば。
自分を含めた全てを、この剣で。
剣を、鞘から少し滑らせる。
そこには、魔術文字で“祈り”を意味する言葉が書かれていた。
「ルイスの心……。確かに受け取った。」
そう言って俺は、再びフードを被った。
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「すまないな、わざわざ入口まで送ってもらって。」
「いや、イルミア絶対迷うだろ?この街入り組んでるし。」
「まぁ、そうだな……。」
なんてことない、友人同士の会話。
俺はそう感じた。
オラシオンを背中に背負い、門の前に立つ“友人”と向き合う。
「この戦争が終わって、俺らが無事に会うことが出来たら、今度は酒でも飲みに行こうぜ。」
「ははっ、そりゃいいけど、俺まだ16だぞ?あと2年、待ってくれなきゃな。」
2年、か。
その間に、戦争は終わるんだろうか。
いや、終わらせるんだ。
俺が、女王を殺して。
俺がどうなっても構わない。
でも、ルイスの意志を継がなければ。
「待ってやるさ。なんせ俺らは“友達”だからな。」
「あぁ。じゃ、ルナガルドに戻る。この戦争を、終わらせるために。」
そして、俺らは一拍おいて言った。
「「じゃあな!」」
と。
そして、俺はアルマノロに背を向けて、歩き出した。
正確には、飛んだ。
シフトブレードの原理が解れば、怖くはない。
アルマノロからかなり離れた頃、俺はルナガルドの軍隊を見た。
せっかくだから、潰してから戻るか。
俺はシフトブレードを投げ、飛んだ瞬間に憤怒の刀剣を引き抜いた。
回転して周囲を一掃。
それが、俺の目的だった。
「ふぅあっ!」
金属音が鳴り響く。
剣を止められたな、と、その時理解した。
だが、それがなんだと言うのだ。
この剣はメモリーズ。
つまり、実体とも非実体とも言える存在で。
「せっかく止めたのに、残念だったな。これ、物体をすり抜けられるからな。」
そう、メモリーズを消し始めると、輪郭を残して内側から消えていく。
だから、完全に消え切る前にもう一度コールすることで、物体をすり抜けるという芸当ができるようになる。
「ま、剣しか消せないから自分はすり抜けられないんだけどな。」
予定通り、周囲一掃。
少し手間取ったとはいえ、許容範囲だ。
このスピードなら、日没までには何とか間に合うだろう。
一瞬たりとも無駄にはできない。
一刻でも早く、ルナガルドを潰さないと。
妙な胸騒ぎがする。
それが心を焦らせる。
そして俺は、さっき殺した奴らの馬を借りて国へ戻った。
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やはり、胸騒ぎは当たっていた。
国中が俺を捜索していた。
俺が居た家から、アリスの家まで。
「クソが……。俺を捜してどうするつもりだよ。」
動くなら、夜だな。
夜の闇に紛れて軍を潰し、女王を消す。
上等じゃねぇか。
まさに、死神って感じか?
「おいそこの!手を挙げろ。」
背後からの声。
抵抗は無駄だて言わんばかりに声を荒らげるその人物を、俺は肩越しに睨む。
残念だな。
頑張って俺を見つけたのに、すぐ死ぬってさ。
「……バイバイ。」
鞘から抜いたオラシオンは、驚くべき速さでその人物の肉を斬り、骨を切断した。
そして、その素早さ故か、刀身に血の跡も人の油も付着していない。
まさに至高の剣だよ、ルイス。
「イルミア……。」
少女の声を聞いた。
俺はソレを憶えていた。
エレナ……何故まだこの国にいる?
「おかえりなさい。王城で、女王が待ってる。早く行って、戻ってきて。」
「断る、とだけ言っておこう。こないだ言ったはずだ。次戻ってきたら潰すって、さ。」
もう一度心を無くせ、イルミア。
俺はもう、ルナガルドの民じゃない。
俺は……死神だ。
心まで黒く染まった、この国に死をもたらす死神。
そこに善悪や、感情なんてない。
ただ、目的を果たすだけ。
それだけのこと。
「戻ってきてよ。ねぇ。……どうして、そんなに変わったの?」
「……。心を閉ざしたからな。」
「なら、どうして国に帰ってきたの?」
分かっているだろうに。
そんなの、
「目的を果たすために決まってんだろが。あぁ?なんだ、約束を果たして欲しかったのか?」
残念だが、俺にはもう関係ないことだ。
今はただ、“敵”としてエレナを見るのみ。
「そう……なら、これ。」
剣を、渡された。
白いオラシオンとは打って変わって黒い剣。
レクイエム。
魂を鎮める歌。
そういう意味らしい。
「これを、イルミアに預ける。だから、この戦争が終わったら返しに来てね?」
そう言って、剣を押し付けてエレナはどこかへ去っていった。
「…………あぁ、わかった。」
俺は目を閉じた。
そしてその剣を、オラシオンと対になる様に背中に背負い、王城へと急いだ。
その間に何人殺したかは、数えていない。
ただ、その2つの剣を両手に構えていることだけ、理解してる。
「自分から向かってくるとは……。いい根性をしてるのねイルミア。ラン、やりなさい。」
ラン。
軍にいた頃、何度が耳にした名前だ。
国一番の剣士だとかなんとか。
でもそれがどうした?
その程度で、俺に勝てるとでも?
相手が片手剣を構えるところを見ると、キッチリとした型にハマっている。
「二刀流……なるほどおもしろい。それで私に勝てるかな?」
「勝てるさ。確実にな。」
そう呟いたのは、他でもない。
オラシオンに宿ったルイスの心だ。
そうか、なるほど。
メモリーズコールの能力は、収納やコールだけじゃない。
それを、たった今理解した。
この能力の本当の名前は───
剣神