表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

4、

木剣のぶつかる音は、金属と違っていいものだ。

あの時々甲高く、鈍い音が俺は嫌いだ。

あの音は耳が痛くなる。


「なかなかやるじゃん。でも、まだ荒いね。」


荒いね。

そう言われた。

たしかにエレナの剣筋は綺麗だし、丁寧な斬り方だ。

たが、どうだろう。

俺の斬り方は完全な我流。

しかも、身体強化を一切使わないで、流派通りの型に匹敵する実力をもつ。

これは、もう勝ったと言ってもいいんじゃないか?


「イルミア!イルミアはいるか?」


上からの呼び出しだ。

勝手に撤退させた事、何か言われるんじゃないか?

そう、思っていた。


「言われることはだいたい予想つく。勝手に撤退させたのは──」


「良い判断力だな。おまえのその判断がなければ、恐らく全滅していただろう。よくあの状況で、あれだけの人数を生き残らせる事ができたな。」


褒められた。

今まで、怒られるとばかり思っていたが、そうでは無かった。

リリーを叱っていたのは、指揮官としての失態だろう。

報告から察した状況で、よくもまぁ全滅せずに済んだものだ、と思ったのだろう。


「明日から、イルミアには指揮官になってもらう。いいな?」


「いや、よくないよ?」


瞬間の拒否。

いつから俺はこんなにも偉くなったんだ?

これ女王の前に突き出されたら終わりだな。

人生が。


「なぜ断るのだ?おまえが指揮をとってくれれば、もっと勝率も上がるんだ。給料も、上がるぞ?」


「マジで?って飛びつくとでも思っていたのかあんたは!俺は!指揮するだけで何も出来ないクズには成りたくない!成るなら戦場で命懸けて戦って、役に立って死ぬ事が出来る奴だ!」


「そこまで言うか。なら、おまえは単独で、『影』を名乗れ。その為の黒い軍服だろう?おまえには、軍の暗部と、引き続き零番隊の隊長を務めてもらう。」


給料UPの話は無しじゃないらしい。

これはなんとも嬉しいことだ。

これで、エレナに奢ってもらった分が返せる。

牛丼だけど。

どちらにせよ単独行動の方がやりやすいし、給料も上がるし、いいことしかない。

ように見えるが、実は暗部としてどこで使われるか全くわからないのだ。

案外悪い条件かもしれない。

俺は迷っていた。

黒い軍服、いや、黒服でいいだろう。

黒服はそもそも、別の目的を持って作ったものだったのだが…。


「1つ、条件を付けさせてくれ。普段は零番をもつ。呼ばれた時のみ、暗部の仕事をする。それでどうだ?」


「ほう、まさかとは思うが、私が言った事の穴を見つけて、条件を提示しているのではないか?」


まさにその通りだ。

この上司、試しやがったな?

金額に釣られてホイホイと言うことを聞くようなバカなら、きっととんでもない目に遭ってただろうな。

だがしかし。

俺は、こいつが言った言葉を注意深く聞いて、考えた。

例えそれが無駄だろうと、そうしてしまうのが俺だから。


「たいしたものだ。いいだろう。そちらの条件を受け入れよう。これからよろしく頼むぞ?イルミアよ。」


上司は、そう言い残して去ってった。

後から聞いたのだが、彼女は俺の事をかなり信頼しているらしい。

女性の方が上の立場とか、そんな事関係無しに、ただ純粋に俺の能力を買ってくれているらしかった。

俺は、そんなにも大きな事をしただろうか?

その思想だけが、頭の中をぐるぐると回っていた。


--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­


「戦闘がない日は休暇って、どんだけ楽な仕事だよ…。」


戦闘がなければ休暇だが、きちんと訓練をする事が条件だ。

だが、俺はそもそも訓練なんてする必要がほとんど無い。

あるとすれば、投幻回避術の持続時間と、メモリーズの解放程度だ。

メモリーズは現在、たった一つしか解放できていない。

でも、解放条件も分からない。

つまりは……。


「すること無いっ!暇だぁっ!」


「朝起きてすぐのセリフがそれとか、キミはそれでいいの?」


「んぁ?何がだよ。」


エレナの質問の意図が汲めない。

なぜそんな質問をするんだろう。

休みなら休みでいいのに、こいつは俺をどこかへ連れ出すつもりなのだろうか。

そうなると、男である俺に通常なら拒否権は無い。


「キミは今日はこのままでいいのかって、聞いてるの。キミだって、会いたい人くらいいるでしょ?」


「あ〜、なるほど。いるな、1人。ってか、何故エレナは俺の部屋にいるんだ?鍵掛けてないけどさ。」


部屋に鍵をかけておけ。

そう言われたのにも関わらず、「めんどくさいから」という理由だけで鍵は掛けてない。

それでも、人の部屋に勝手に入るか?普通。

しかも、エレナは俺を起こしもせず、挙句の果てに俺の隣で寝ていたのだ。

起きた瞬間の驚き方は、自分でもおかしかったと思う。

“隣”と言っても、隣のベッドではない。

この部屋にはベッドが1つ。

これが示すのはただ一つの真実。

一緒に寝ていたのだ。

いや、一緒に“寝させられていた”。

俺が望んだ事でもないし、お願いすらしていない。

ただ、暗部に関わるようになってから疲れが溜まってたから、その疲れを無くすために昨日は早く寝たのに…。


「別に私がキミの部屋に居てもいいでしょ?どうせ魔導書と武器と生活用品しか置いてないんだから。」


見られて困るものなんてないでしょ?

確かに、見られて困るものなんて、ほとんど無いに等しい。

でも、魔法が使える人にとって魔導書は毒だ。

まだ試したことは無いが、魔法を使える人は、魔導書を読むと脳が焼き切れるらしい。


「さて、そろそろベッドから出てくれないか?二度寝したいから。」


「だぁめ。キミが起きるまで一緒にいるよ。それにさ、男女で同じベッドって、なんかコーフンしない?」


「安心しろ。それはきっとおまえだけだ。」


唐突に変な事を言い出すエレナに少し呆れつつ、俺は発情中のエレナとは逆方向に寝返りを打った。

メンタルもフィジカルも、共にエレナに興味はない。

年代的には同じだが、表現力に乏しいエレナの身体は、未だ成長途中と言ったところか。

これならまだリリーの方が……。

って、何を考えてるんだか。


「ねぇ、ちょっとは興味持ってくれてもいいじゃん?これでも処女なんだよ?」


「だいたい予想はついてた。そもそもとして、エレナに彼氏とかそういう奴いないだろ?いや、つくれないの間違いかな?」


皮肉たっぷりにエレナを煽る。

エレナに彼氏がいるとしたら、そいつはかなりの物好きだろう。

時折、会話の途中に下のネタを織り交ぜてくることもある。

乏しい身体を張って、どうにか自身の気持ちを主張しようとしたりする。

なんか、一周まわっておもしろく思えてきた。

ちらりとエレナに目をやると、エレナは少し頬を紅くしていた。


「なら、牛丼奢ったお礼。明日からは1週間、添い寝して。」


「あぁ。もういいから、勝手にしろ。俺は寝る。」


そして、俺は2度目の眠りへと……。

落ちることはできなかった。

後ろからエレナに抱きつかれたから。

背中に、エレナの温もりが伝わってくる。

それが、心地よいような、恐ろしいような、寂しいような。

そんな感じがして、結局俺は眠れなかった。

そんな俺に、“魂”は語りかける。


──おまえは誰を守りたい?──


そうだな。

今はきっと、こいつの事を守りたいんだろうな。


──自分を盾にしてでも、守る覚悟はあるか?──


守りたいものを全力で守りつつ、自身の身も守る。

それが俺のやり方だ。


──それなら…。“目を開け。真実を見ろ。守りたいモノはナニモノだ?守るべきはナニモノだ?おまえの心に映るものが、それを守るチカラとなろう”──


はぁ?

…………。

おい、それって………。

“魂”に問う。

だが、返事は帰ってこない。

守りたいモノは、エレナ。

守るべきモノは、俺らの部下達や、リリー、アリス…。

それを守れるだけの力。

それを守るための力。


「“真実を守り、嘘を砕いた偉大なる魂よ。今ここに目覚め、我に力を宿せ……。”」


誰に教えられたわけでもない。

自然と口が動いた。

目に映ったそれは、今俺が持つ最高級の防御魔術よりも遥かに堅い盾。

どんなに重い攻撃も受け止め、その盾で殴れば、すぐさま気絶させられる程の。

直後、2つ目のメモリーズ『慈愛の盾』が目覚めるのがハッキリと分かった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ