2、
久しぶりの投稿です。
しばらくの沈黙のあと、剣どうしがぶつかり合う。
鈍く重たい金属音と、マリアの怒号が街に響いていた。
「なかなかしぶといじゃない。でも貴方は防戦一方。それでよくも私に勝てると思ったものね。」
正直に言う。
俺はマリアに負けそうになっている。
1歩でも間違えたら殺される、そんな状態だ。
「っるせぇよ。バカにしやがって。」
たしかに、マリアの言う通り俺は防戦一方だ。
今まで1度も斬ろうとしていない。
レイピアを受け流すか避けるか、そのどちらかしかしていない。
投幻回避術の使い過ぎで、頭が痛い。
今度から、受け流すのに徹しようか、それとも受け止めるか?
突きが飛んできたら受け止められない。
だったら。
「──はぁぁぁああぁぁぁぁっ!」
マリアが斬りこんでくる。
そのレイピアは、投幻回避術をしようとし、頭痛に襲われた俺の左腕を、浅く斬り裂いた。
「くっそ!この頭痛どうにかならないのかぁ?」
「負けた理由を頭痛にするのかしら?まぁ、貴方みたいな弱者はそれがお似合いでしょうけど。」
バカにしやがって。
今までで一番怒りを覚えた。
死んでも恨む、たった今そう決めた。
でも、この程度の傷はなんともない。
痛くもない。
ただ、少し血が出るくらいだ。
「今度こそ終わりよ。おとなしくくたばりなさい。」
奇声をあげて斬りこんでくるマリア。
今度こそ、たしかに避けられない。
“ふつう”ならね。
「うおぉぉぉっ!」
剣を思い切り、マリアの“後ろの家”目掛けて投げる。
真っ二つにされる寸前、剣の空間転移を発動させた。
蒼白い火花が一瞬、目の前で散った。
「やっぱり貴方、魔法を使えるんじゃないの?」
「使えねぇよ。って、何回言ったら分かんだよ。俺の魔力は身体強化系しか使えねぇから!」
シフトしたのは初めてだ。
空間転移の原理はよく分からない。
もしかしたら、魔法が使われているのかも知れないし、そうじゃないかも知れない。
それにしても、一瞬だったからよく分からないが、シフトするのは少し怖い。
蒼白い、火花を散らす存在に突っ込んでいくような感覚だ。
それ以外にも、自分から壁に突っ込んでいくというのが怖すぎる。
初代のこの能力の持ち主はこんなことを続けていたのかと思うと、ゾッとする。
「よくこんなスピードで“飛べる”もんだ。すげぇなシフトブレード。」
そして、それを使いこなしていたと言う初代もすごい。
よくもこんな能力を使いこなせたもんだ。
だがこの能力、使いこなせればとてつもなく強いな。
「さぁ、もう終わろうか。いい加減飽きてきたしな。」
シフトブレードを空中に置くようにして手を離す。
すると、シフトブレードはいつも通り空気中へと消えた。
この剣は、空間転移の能力を持っているだけで、剣としての性能は良くはない。
決して悪いとは言わないが、少なくとも良いほうではない。
「やっぱり、これじゃないと無理だよな……。」
次にコールしたのは、東洋で“刀”と呼ばれている剣だ。
鞘から引き抜くスピードを利用する抜刀術というものや、居合斬りという技術が存在するらしい。
俺は独自に抜刀術を研究したが、この辺りでは使われた前例も、研究されたことさえ無いらしく、“とりあえず”程度でしか使えない。
「この剣すげぇ使いにくいんだよな。威力はスゴイけど。」
抜刀術の構えをとる。
これで合ってるのかは分からない。
「そんなもの、なんの脅しにもなりません!」
マリアが突きに来る。
タイミングは、刀の攻撃範囲の2倍ほど遠くに相手が来た時。
その時に踏み込んで剣を抜く。
これがなかなかに難しいんだ。
「はぁああぁぁっ!」
───今だ!
俺は、身を少し屈めて踏み込んだ。
身体中の筋肉のバネと、スピードを乗せたその一撃は、レイピアに突かれる前に彼女の脇腹へと突き刺さる。
咄嗟に防御しようとしたレイピアは、真っ二つに折れてしまっていた。
「模造刀って奴を使ってみたけど、これはなんだ?叩き潰すことを目的に造られたのか…?」
それとも、ただの飾り、練習用…。
様々な考えが浮かぶ。
刀は使いにくいが優秀だ。
細身だから、レイピアの様に軽いのかと思えば、その重さは片手剣より少し重く、その一撃は片手剣以上に鋭い。
刃の反対側、刀背と呼ぶのだろう。
例え刀背打ちだとしても、恐らく骨を折るくらいの威力はある。
こんなにも素晴らしい武器、どこの誰が発明したのだろう。
「く………ぁ………。貴方………容赦なく私に刃を…………。」
「んぁ?いや、斬れない剣なら問題ないだろ。まぁ、脇腹を打ったからダメージはでかいかも知んないけどな。」
周りには、いつの間にか人集り。
その中には白い軍服を着た女もいたし、情報屋もいた。
馬車に乗って現れた、“王子様”気取りの若者と、その両親と思われる存在もいた。
なるほど、それは確かに俺がいたら困るわな。
でも、そのお見合いもこれで破綻だ。
この勝負に俺が勝ったことで、マリアは『アリスに男の幼馴染がいて、更にはその男にマリアが負けた』という事実を隠せない。
「貴方…絶対に、許さない…。いつか必ず………。」
「殺してやるってか?やれるもんならやってみろ。そっちが殺す気なら、こっちも殺す気でやってやるよ。」
俺は十字架を模した量産剣・ロザリオソードをマリアの目の前に突き刺し、その場を去った。
アリスに挨拶するという当初の目的も忘れて。
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「そこのキミ!ちょっと待ってくれる?」
また厄介なのがくっついたな。
めんどくさい。
このまま無視──
「待ってって言ってるのよ!分かってるの?待ちなさぁい!」
無視できそうにもないな。
シフトは怖いし、投幻回避術は頭痛で使えないし。
走るのも体力の無駄だろう。
だから俺は、仕方なく返事することにした。
「何の用だ?見たところ軍の人だろうから、なんかあるんだろ?」
また牢獄生活が始まるのか………。
いや、あの時、俺が困ったら何でも1回助けてくれるって……。
牢獄行きを覚悟していた俺に飛んできたのは、全く見当違いの言葉だった。
「キミ、なかなか強いじゃん。軍の上の人から、使えそうな人がアカデミーに居たら連れてこいーっなんて言われてるけど、別にキミでも良いよね?」
「……………つまりは?」
「軍に入って欲しいの。男女関係無しで。」
もちろん答えは、NOの一択。
妹と同じ職業(軍人)なんて、死んでもゴメンだ。
仕事内容と給料によるけど。
「仕事内容は、とりあえず軍の小部隊の隊長ということで、ダメ?」
「時給は?」
バイトのやり過ぎで、まず聞くことは金のことになっている。
これが女王の前なら殺されてるぞ、俺。
しっかりしろよ、俺。
さっきの戦闘で疲れているのか、頭の回転が遅い。
「時給じゃないけど、月収は、まぁ、功績によるけどだいたい50,000,000くらいかな?」
あ、そこ答えてくれるんだ…。
月収5千万。
ただし、功績による。
「まぁ、悪くはないかもな。」
「でしょ!?だから、お願い!」
「だが断る!」
本当に、女王の前なら殺されるぞ。
男の俺に拒否権なんてほとんど無いに等しいから、な。
少し落ち着け俺!
でも、それでも本当に妹と同じなんて無理だ。
しかも、妹の方が立場が上だ。
ふざけんじゃねぇ!
「なぁんでぇ〜!?」
「あのさ、とりあえず腹減った。それだけ。飯奢ってくれるなら考える。」
飯奢ってくれるなら、マジメに軍の話は考えよう。
軍に入れば、妹の収入に頼らなくても済む。
しかも寮に入ることで、電気代も水道代もほぼゼロ!
食費だって、軍の食堂で食べれば格安だ。
こんな最高な場所が、他にあるか?
いや無い!!
「わ、分かったけど、なに食べるの?」
「それは奢ってくれる人に決定権が有ると、俺はそう思うんだがな。」
「あれ?ただ食べられたらいいだけ?ホントに………。」
もとよりタダ飯を食いたいだけ。
それ以外に深い意味はない。
呆れるのも無理はない。
だって、飯食ってもちゃんと考えるかどうかなんて、コイツからしたら分からないのだから。
「うん。腹減ったから、軍には入らない。我ながら言ってる事、意味不明だけど。」
「意味不明っていう自覚はあるんだ…。さりげなくディスってるのは申し訳ないと思うけどさ。」
うん。
今の、結構傷ついたよ。
決して口には出さないけどね。
「ディスってるって自覚有るんなら奢ってくれ。」
もう、腹減って死にそう………。
「分かったから、とりあえず一緒に来て?」
はいはい。
奢ってくれるならどこへでも行きますよ。
小時間の飢餓に苦しむ(?)俺は、その少女に引っ張られる様にしてあとを着いて行った。
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「本当にこれでよかったの?もっと量も多いのあったでしょうに……。」
俺は、奢ってもらった牛丼を食べつつ返事した。
「いや、奢ってもらうのに値段高いのは失礼かな、ってさ。」
だからそれほど高くない牛丼(並)にしたんだ。
自分の金なら大盛り頼んでただろうな、きっと。
あ、そうそう、軍の話だったなたしか。
まぁ、高収入なのは悪くない。
役職の説明もされてないから、もしかすると割と楽かも知れない。
「で、軍の事なんだけど。今度、大規模な制圧作戦があるの。その時に必要な小隊の数が多くて………。」
「つまり、それを指揮、もしくはそれを構成する人数が足りなかった、と。そして、俺はそれに入ればいい、と。」
「理解が早くて助かるわ。小隊の数が25あってね。実力やチームワーク能力が高い順に1、2って人数が振り分けられてて、1番隊が9人、2番隊が12人────」
人数は聞いていない。
1番隊の人数が少ないのは、恐らくそこまでの実力を持った奴が少ないのだろう。
魔法を使える者、魔法は使えないが身体強化系を使える者。
そして更には、両方使える者。
それだけあってチームワークが出来るとなると、なかなかいなかったのだろう。
「で、実力がトップクラスの異端者で構成された零番隊が現在4人。キミにはここに5人目で隊長として入って貰いたいんだけど……。」
お茶を飲み、丼を見た。
するといつの間にか、中身は食べてしまっていたようだ。
零番隊の隊長、か。
そして異端者。
これは恐らく、俺も含めての事だろう。
「それで、今度の制圧作戦ってのは?それによって決める。」
「今度の作戦は、起源族の軍…そうね、アルマノロの軍を制圧することが目的。どう?」
起源族って、なんなんだ?
アルマノロが起源族?
疑問が次々と頭に浮かぶ。
でも俺は、その疑問は一旦置いておくことにした。
「まぁ、いいだろう。んで、その部隊の編成は?」
突然の承諾と質問に、目の前の少女は驚いたような声を上げた。
部隊の編成、そして最高指揮官の人は憶えておきたい。
「編成は、バラバラ。で、最高指揮官はリリー。零番隊から6番隊は主戦力として最前戦へ。あとは、本部の護衛とサポートね。」
おいおいマジかよ。
リリーが最高指揮官って…。
マジで無いわ……。
リリーは、俺の妹だ。
あいつは魔法と身体強化の両方を使える、所謂天才だ。
そんな妹を持ったことに目眩を覚えつつ、俺は深く絶望した。
なにが悲しくて自分の妹の部下にならにゃいけんのだ。
「あぁ、自己紹介がまだだったね。私はエレナ。1番隊の隊長よ。よろしく。」
「あぁ。イルミア。リリーの兄だ…。」
深く、重くため息を吐いた。
こんなにも重い気分になったのは、いつぶりだっただろう。
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「はい。これがキミの軍服ね。コートの方は、零番隊の特別仕様。」
「あと特注してたのは?」
軍服を受け取り、袖を通しながらながら尋ねる。
白い軍服、その上に白に金のラインが入ったコート。
よく見ると、エレナのコートにはラインが入っていなかった。
「あるけど、これ何に使うの?」
俺が特注していたのは、軍服を模した黒い服。
そして、コートも。
「んー、特に意図はない。」
「まぁ、いいんだけど。にしても、キミが指揮官の兄だったとはねぇ。この世の中、不思議なこともあるものね。」
うるさい!
と、叫びそうになる衝動を抑え、俺は静かに怒りの意を表した。
「悪かったな、出来の悪い兄で。所詮俺は凡人だ。それも、魔力を身体強化にしか使えない、な。」
もし自分も魔法が使えたら、そう思った日は少なくない。
決して、多くもないが。
アカデミーでは、剣術以外はほとんど赤点の落ちこぼれ。
よくもまあ、卒業できたものだ。
この世に神様ってのがいるなら、聞きたいよ。
何故妹にだけそれだけの能力を与えたんだ、と。
「キミは、魔力はどのくらいあるの?」
「全力で身体強化して戦闘し続けて、およそ2週間。使い方によっては魔力供給も何も無しで1ヶ月は暮らせる。」
俺の長所といえば、この無尽蔵に近い魔力と、馬鹿力と、あとは頭の良さ。
これだけはリリーにも負けない。
「マジ!?それなのに、使えるのが身体強化だけなの?ウソぉ……。」
兄妹揃って魔力は多い方だ。
だが、俺が両親からこの無尽蔵に近い魔力を受け継いだからか、妹の魔力は魔法を使う者としては極端に少ない。
そもそも、身体強化系の人は、持ち合わせる魔力は少ないらしい。
「つまりは、本来俺が少なくなるはずだったってことかよ。」
「あれ?なんのこと?」
「気にすんな。それより、あとどのくらいかかるんだ?リリーの到着まで。」
30分。
まだ来ない。
「そろそろ来るよ。でも、零番隊の隊長がキミだと知ったら、きっと驚くよ。」
そうだろうな。
だって、実の兄を部下に付けるんだから。
ほんとに、出来のいい妹を…、天才を妹に持つと、苦労するな…。
俺は、ため息を吐いて、書物に目をやった。
そこに書かれてたのは、数日前に書いたであろう作戦の人数と名簿。
そこには、俺の名前も含まれていた。
なんだよ、知ってんじゃねぇか。
いや、これも魔法なのか?
まぁいい。
「お待たせしました。零番隊隊長に適任の人が見つかったって聞いて駆けつけたのだけれど?」
「…よぉ。待たせ過ぎだ。妹よ。」
静かに、ダルさを見せた。
だが、リリーはそんなこともお構い無しで、ただただ驚いていた。
「うっそぉ…。兄さんが、隊長…?ウソぉ…。」
「嘘じゃないです。彼の身体強化は、恐らく国一番クラスのものかと。」
うん?そこまで強いか?俺。
メモリーズも全て解放できてないのに、これのどこが強いんだ?
「まぁ、いいでしょう。兄さんの上には正直立ちたくないんだけど…。」
「えっと、何故でしょう?」
「だって、兄さんの方が頭良いし…。」
俺は頭脳を磨くことしかできない時期があっただけだ。
怪我した時とか、怪我した時とか。
まぁ、主に怪我した時はとにかく勉強していた。
チェス、オセロなどボードゲームや、様々な文学書、魔導書や哲学書まで。
それはもう、ほとんどの戦術・内容を記憶している。
「妹よ。俺はただ、本の内容を記憶したりしてるだけだぞ?」
今現在、俺は嘘を吐いている。
その自覚はある。
そう、常人より優れた記憶力と理解力を持ってることは自覚しているのだ。
なのにそれを否定するって。
何様だよ俺は。
「とにかく、よろしくな。我が妹リリーよ。」
直後、魔法で焼かれそうになった。
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