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アンダー・ザ・アンブレラ  作者: 子無狐
4/11

秋の揺らぎ - 01

 ――芸術、読書、運動、食欲。目移りするほどの彩りの中。

 ――(かたく)なにノワールをまとう姿は、まるで絵画のモチーフのようで。

 ――だから、異端である証を、描かれることになってしまったようです。


 秋。

 いつもの場所へ、いつもの時間、いつものように大学内を歩く私。

 美也が待っている――待っているというか、立っている――場所まで、もう少しと言うところ。

「ん……?」

 いつもならあまり聞こえないような、人同士の話し声が耳に入る。

 ましてやその片方が、聞き覚えのある美也の声であるから、なおさら違和感を抱き。

 急ぎ足で、視界に収まるよう移動したところで。

 ――嫌な場面を、見てしまった。

「……や、離し……!」

「……!」

 見覚えのない女性に腕をつかまれている、美也の姿。

 嫌がる素振りをみせる美也に対して、相手の女性は手をゆるめる気配を見せない。眉をつり上げ、唇を引き締めたその表情からは、友好的な雰囲気は一切ない。

 美也と女性の周囲には、美也を囲むように他の女性が二人。雰囲気的に、彼女の仲間だろうか?

 とにかく、まともな雰囲気ではない。周囲の人達も、驚いているのか、遠巻きに見つめているばかりだ。

 私は、だけれど部外者ではいられない。止まっていた足を踏み出し、近づいて止めようとする。

 けれど、私が近づくより早く、事態は起こった。

「……このっ!」

 美也の腕をつかんだ彼女が、美也の顔を自分へと寄せる。

 まっすぐに彼女を見つめる、美也の視線。

「そんな、だから……っ!」

 声を荒げながら彼女は、空へと空いた片手を伸ばし。

「ちょ、まっ……」

 その行動の意味に気づいた私は、声を出して止めようとするけれど。

 もう、遅かった。

 彼女の腕は、空から美也の顔へと振り下ろされ――嫌悪を浮かべる美也の顔から、甲高い音が鳴り響く結果となってしまった。

「……!」

 その場面を見てしまった私の血が逆流し――想わず、叫びだしてしまった。

「なにしてんじゃ、コラァ!」

 走り出し、諍いの現場に突っ込んでいく。

 カッとなっていた私は、勢いまかせに美也から女性の手を引き剥がす。

「え、なに!?」

 驚く女性に、しかし私も止まれない。怒りに我を失っていた私は、相手が女性にもかかわらず、つかんだ手を想いきりひねり上げてしまった。

 苦痛を感じるような顔で――とはいえ、痛くないように手加減はする程度の思考はあった――、相手は私に眼孔を向けてくる。鋭い。

「っ……! なにすんのよ!?」

 相手はもがくけれど、まったく身動きできない。おじいちゃんから習った技術がこんなところで役に立つとは。ありがとう、里帰りしたら伝えよう。

 続いて、私は状況を問いただすために口を開く。怒りはできるだけ、言葉には乗せずに。

「なにすんだ、はこっちのセリフよ。あなたたち、この子にいったい何してるのよ」

「なにって、アンタには関係ないだろう!」

「関係はない!」

「……!」

 言い切ってやった。

 相手も一瞬、私の堂々たる態度に驚いたのか、口をパクパクさせて、言葉を続けられないようだ。どうだまいったか、えっへん。

 ――言っててどうなんだろうと、想わなくもないが。

 とはいえ、ずっとこのままでいるわけにもいかない。話を聞き出すまで拘束するか、少し迷っていると。

「あなた、なにするのよ!」

「関係がないなら、黙っていてくれないかしら」

 周りで見ているだけだった二人の女性陣から、声がかかる。プレッシャーが身体にいたい。

 多勢に無勢を感じ、短絡思考を反省した。したが、腕は離さない。

「そうは言いましても、手まで出しちゃってる子を、見過ごせはしないでしょうが」

「あなただって……手、出してるでしょ……!」

 私の手の中で、女性が苦しそうに言い返してくる。

 ……かなり弱い力なのだが、うん、そろそろまずいかも。

「ひとまず、落ち着かなきゃ。そうじゃないの?」

「落ち着けるわけ、ないでしょ……!」

 だが、彼女の怒りが収まる様子はなかった。

 もしかすると……私が介入したので、悪い方にいったのだろうか。

 どうしようか、私が思案していると。

「……もう、やめてくれないかしら」

 私たちの問答を遮ったのは、美也の声だった。

「美也……?」

 視線を移してみれば、そこには傘を差しなおした美也の姿があった。

 いつもどおりのような雰囲気を出して、お人形へと戻った彼女の姿が。

「はなして!」

 油断した私の手は、思い切った彼女によってふりほどかれた。美也の一言で、手の力は完全に抜けていたらしい。

「傷がついたらどうするのよ、これから用事もあるのに……!」

 離れると同時、女性三人はすっと集まり、私と美也に視線を向けてくる。ごく自然で一体感があるあたり、気心の知れた仲間なのだろう。

「容姿を気にする用事があるのなら、そちらに注力すべきだったんじゃないかしら?」

 そう言いながら、私は彼女達の様子をうかがう。

 一人はリーダー格らしい、気の強そうなしっかりした女性。勝ち気な瞳と、やや濃いめの化粧が、きつい印象を与えてくる。でも、それが似合っているような個だった。これは、先ほどまで私が拘束していた子だ。

 その子に寄り添うように、ショートボブの大人しそうな子と、セミロングの子が一人。どうやら、リーダー格らしい子を中心とした、3人グループのように想える。

 だけれど、残念ながら私の記憶に、彼女たちが美也の友人である印象はなかった。これだけ派手ならば、話しかけているだけで印象には残る。

 ――もしかすると、周囲で見つめている集団の一部だったのかもしれないが、難しい。私も案外、周囲に対して無頓着だと反省する。

 ただ、確実に言えるのは、雰囲気の違いだ。美也の造りこんだ雰囲気と、彼女たちの一般的で流行を意識した雰囲気は、まるで異なるものだ。水と油、と言う人もいるかもしれない。

 今のところは最初の印象に従って、美也の立場と相容れないのが彼女達なのだと考えるべきなのだろう。向けられている視線が、少なくとも友好的でないのはわかるのだから。

 ……うむ、着実にストーカー化してきている気がするな、私。まぁ、それはおいておいて。

「それに、他人の傷なら良いなんて、弁明にもならないわよ?」

 そう言って、内心では美也を傷つけたことに、あらためて沸々と怒りがわいてくる。

 が……仕方ない。傷を受けた当事者をさしおいて、私が場をこれ以上ひっかきまわすわけにもいかない。……すでに、やってしまった感はあるが。

 こほん、と一つ咳払いをして、私は言った。

「だから……今日のところは、引き下がらない? この子も、やめてほしいって言ってるし」

 であるからして、さっさとお帰り願えると幸い。

 だが、リーダー格らしき女性は、怪訝な顔をして私をにらみつけてくる。どうやら、私の内心をさっぱり汲み取ってもらえないようだ。

「さっきから、あなたはいったいなんなの?」

 声のトーンが、冷静に聞いてもキツめで、苦手なタイプだった。どうやら美也だけでなく、私との相性もあんまりよくないらしい。うん、なんとなくはわかっていたけどさ!

 苦手な相手をいなすしかなくなった私は、内心の気落ちを隠しながら、返答した。

「彼女の……知人、かな」

 すこしためらいながら、自分の立場を表した。

 間違ってはいないが、自信もなかった。

 けれど、美也からの否定の言葉は聞こえてこなかったので、安心もする。……動揺しているのか、呆れているのか、興味がないのか、否定するも気もないのか……どれだろうか。

 内心で浮気する私をにらみながら、リーダー格らしい女性は語気荒く言う。

「知人なら、彼女がなにをしているのか、知っているでしょう!」

 ――いやな予感がした。まさかとは、想っていたけれど。

 事情を知っているらしきリーダー格の女性に、私は内心の動揺を見せず、言い返す。

「先に手を出したのは、あなたたちだと想うけれど。彼女が……まぁ、態度は冷たいけどさ、何かするとは想えないし」

 私の言葉に、女性達三人は気むずかしそうな顔を露わにした。

 まさに、話が通じない相手をどうするか、困惑している顔だ。

 ――あえてそうしているのを気づかれる前に、退散してほしいのだが。

「……?」

「あなた、とぼけているの?」

「わたしたちは、むしろ被害者よ」

 自分達はいっさい悪くない、そう主張する彼女達の表情。

 うへぇ、と私は内心でげっそり消沈した。

 私は、この手の人種がとても苦手だ。二重の意味で。

 自己の考えが第一であることと、私の空気読まない演出を読まないことに対して、である。

 彼女たちにあるのは、まず前提――自分達は悪くない、悪いのは自分の気分を害するものである――そう考えているのが、もう雰囲気からわかる。

 だから、私は言った。

「先に手を出したのは、あなた達じゃない。なら、どっちが悪いのかは明白でしょ」

「……それに関しては、こっちも悪かったよ」

「そ、そう」

 内心で少し動揺する。

 向こうも少し冷静になったのか、殊勝に謝る姿に、こっちのテンポも崩れる。

「じゃあ、これにてお開きに」

 その間を逃がさずに押し流そうとするのだが。

「そうはいかない。その子のしていること……わたしたちは、もう、我慢できないんだ」

 そんな上手くはいかなかった。

 そして、リーダー格の女性がなにを指摘しようとしているのか、私にももうわかっていた。

「いえいえ、我慢も時には……」

 私は彼女の口をふさごうとして、言葉を重ねようとする。

 が、止められなかった。

 リーダー格らしい女性は、私の背中――美也へと向けて、じっくりと重いフタを開けるような声で、伝えた。

「先輩の格好をして、亡霊になるの――もう、やめて」

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