素描(デッサン)
硬さの違う鉛筆が何本も芯を長くして削ってあるのを見ると、それだけでアートのような気がしていました。
ドアが開くと削った鉛筆の匂いがした
あなたはそこに立っていた
スケッチブックを抱えていた
やあいらっしゃい と言った
散らかっててごめん と言った
はじめてあなたの部屋に入った
鉛筆は無造作に置かれていた
どれも硬さが違っていた
芯を長く削ってあった
少し傾けた鏡があった
自分の顔で練習していた
そう言って見せてくれた
画面上のあなたは困った顔をしていた
楽にしていいから と言った
ラフなイメージだけどね と言った
似てなくても怒らないで と言った
この世でたった一枚のわたしがいた
あなたの手は黒くなっていた
グラファイトが少し反射した
色は塗らないの? と訊いた
今日は素描だから と言った
水彩がいいのかな と言った
少しだけ待ってて と言った
画用紙と画板を用意した
あなたのそばにいたいと思った
照れくさそうに微笑んでいた
どんな色で塗ってくれるだろう
鉛筆を置いた手をそっと握った
16/11/24 Thu. ~ 16/11/27 Sat.