エイリアン
他サイトに同名小説を投稿してあります。
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エイリアンはある日突然裏山に現れた。10年前、彼がまだ12歳だった時のことだ。
彼は裏山へ虫取りに行こうとして、そこで背の低い、得体の知れない生物を見た。
彼は最初腰を抜かしそうになった。
しかし幼い子供ほど物怖じしないもので、彼はその生物に近づいていった。
聞くとその生物はよその星から来たエイリアンなのだという。
エイリアンの星と地球とでは時間の単位が違うので年齢は分からないが、どうやら彼と同い年ぐらいの子供らしい。
それで彼とエイリアンはすぐに仲良くなった。
エイリアンは彼が裏山に遊びにくる時間を見計らって毎日のようにやってきた。
エイリアンは珍しくておもしろいものをたくさん持っていた。
地球にやって来るための一人乗りUFO、宇宙の早見表、ずっと遠くの銀河まで見える望遠鏡。
その中でも、彼はある一つの道具に興味を持った。
それは彼がエイリアンにどうして地球に来たのか尋ねた時のことだった。
「そうだ、忘れていた。君にいいものを見せてあげよう」
エイリアンはそう言って大きなゴーグルのようなものを取り出した。
その道具は“未来スコープ”といって、のぞくと未来が ちょっとだけ見えるらしい。
エイリアンはこのスコープで宇宙を眺めている時に地球で友達ができる未来を見てこの星にやってきたのだそうだ。
彼はスコープを借りてのぞいてみた。しかし彼には何も見えなかった。
「地球人には見えないのかも」
エイリアンは残念そうな顔をした。
「代わりに君の未来を見てあげよう」
エイリアンはスコープを取りつけると彼のほうを見た。
「今日はスコープの調子がいいな。遠くの未来まで見えそうだ」
彼は何が見えているのかエイリアンに聞こうとした。
その時、
「嘘だ……嘘だ……」
とエイリアンが焦った様子でつぶやき始めた。
彼は不安を覚えた。
「何が見えるの」
エイリアンはスコープを外すと虚ろな目で彼を見つめた。
そして一つ大きく息を吸い込むと、
「君、10年後には死んでいるよ」
彼は一瞬エイリアンが何を言ったのか理解できなかった。
が、エイリアンの悲痛な表情を見てやっとその意味を飲み込むことができた。
「どういうこと……? 事故とか病気とかで死んじゃうってこと?」
「いや、分からない。だけどそうじゃないと思う」
エイリアンは声を震わせながら続けた。
「事故や病気の未来は見えなかったんだ……でも10年ぐらい先に君の存在はぽっかりと消えてしまっているんだ」
エイリアンはさらに語気を強めた。
「とにかく、地球にいては君は死んでしまう。早く離れた方がいい!」
「それって」
「僕の星に来るんだ」
彼はぽかんとしていた。
「地球を離れるってこと? 戻ってこられるの?」
「戻ったら死んでしまうだろう」
「家族や友達は?」
「残念だけど連れていけないよ」
「どうして」
エイリアンは悲しそうにため息をついた。
「他の星の生き物を連れて帰るのは法律で禁止されているんだ。そんなにたくさん連れていたらバレてしまう。でも、君一人だけなら、僕たちの仲間のふりをしさえしてくれればかくまえるかもしれない」
彼の頭は真っ白になった。
僕は死んでしまうのか? でも地球を離れて暮らすなんて考えられない。
僕は何て答えるべきなんだろう?
彼の脳裏をいろいろな人の姿がよぎった。
おかあさん、おとうさん、きょうだい、せんせい、ともだち……
目の前にいるエイリアンも僕のともだちだ。
でも、彼は友達であると同時にエイリアンなんだ……。彼は地球人じゃない。
彼は顔をあげてエイリアンをまっすぐ見つめた。
「ごめん、僕は行けない」
エイリアンは悲しそうな顔をした。
「本当に来ないのかい」
彼は黙ってうなずいた。
「僕の星はすごくいい所だよ? 地球にはない良さがいっぱいある。きっと後悔はしないよ」
「でも、ごめん」
「そう……」
エイリアンはUFOに向かってとぼとぼ歩き出した。
エイリアンの肩は小刻みにふるえていて、後ろ姿がしぼんでみえた。
「でもきっと、いつかまた来るよ。僕は努力して、君を連れていく方法を見つけるんだ」
彼が何か言う前に、エイリアンはUFOに乗って星へ帰っていってしまった。
* * *
あれから10年後……
「すいません、お疲れ様です、お先に失礼します」
彼はスーツを着たサラリーマンになっていた。
彼は死ななかった。
「すいません、失礼します」
彼は会社から出てくると、一つ大きなため息をついた。
日はもう沈んでしまっている。
彼は電車に乗り込んだ。
しばらくすると、あの懐かしい裏山の跡に建ったマンションが見えてきた。
そこにあった彼の家はもうない。
彼はエイリアンのことを思い出した。
今日だけじゃない、彼はそのマンションの前を通る度にエイリアンのことを思い出してきたのだ。
だがどれだけ考えても分からなかった。
エイリアンは本当に僕が死ぬ未来を見たのだろうか。
嘘をついていたんじゃないか。
でもだとしたらなぜ?
もしかしたら……友達が欲しくて僕を連れていこうとしたのかもしれない。
ならば、僕はエイリアンにとてもひどいことをしてしまった。あの時僕は彼のことを確かに地球人と宇宙人との天秤にかけてしまったのだから。
彼は電車から降り、足を引きずるようにしながら歩き始めた。
――あるいは、エイリアンの言った通り僕は死んでしまったのかもしれない。
毎日気をつかって、毎日無理やり笑って、毎日電車に揺られて、毎日あっという間に終わってしまう。
僕の心はどこかへ行ってしまった。
だとすると、エイリアンも同じなのかもしれない。
彼はエイリアンとの別れを思い出した。
『でもきっと、いつかまた来るよ。僕は努力して、君を連れていく方法を見つけるんだ』
エイリアンはそう言ったときほんの一瞬だけ振り返った。
その時していた燃えるような目……。
エイリアンは僕のことを忘れてしまったのだろうか。それとも僕を連れていくことをあきらめたのだろうか。
どちらにせよ、エイリアンはもう来ないのだ。
彼はそんな気がして悲しくなった。
そして、10年前エイリアンがやってきた宇宙を見上げた。
その時、
ピ ポ ピ ポ ピ ポ ピ ポ ピ ポ
彼は驚いた。
空が真っ黒に覆われた。
星が近い。
いや違う。
あれは、あの無数の光は……
(宇宙船!)
そう、夜空を埋め尽くしているのは巨大な宇宙船であった!
彼が腰を抜かしている間に、宇宙船は地上に向かって紙のようなものをばらまき始めた。
彼は地面を這い、かろうじてその一枚を手にした。
それはチラシのようであった。
まず彼の目に飛び込んできたのは、10年前他の星から来た懐かしい友人の写真であった。
そしてその横には「×××星スペースグローバルツアー株式会社 初代社長」の文字。
彼は慌てて目を通した。
~ ~ ~ ~ ~
宇宙初! 異星人永住ツアー
今まで不可能と言われてきた異星人の移住を可能にしたこのツアー!
この度、我が×××星スペースグローバルツアー株式会社を一から作り上げた社長が彼の友人、及びその関係者をご招待!
お名前は――
~ ~ ~ ~ ~
完
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Oct.14,2016 すずき やすはる