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対馬丸は南に進む

 船霊ふなだまとは海の民が航海の安全を願う神。船玉とも表記する。ウィキペディアより。

 空から二つの点が飛んできて両手を広げて一対の殺りく兵器の形に変わった。沈む大きな鉄くずの周りでちゃぷちゃぷ音を立てた子供らに機関砲を浴びせた。


 夏は盆休みの時期の話である。近く百年ぶりに一つのすい星が地球に最接近するというニュースはその手のニュースには珍しいことに退屈な世間の注目を浴びていた。

 歴史的ないわれも多少ある大きな造船ドックが望める墓場はうだっていて、時間をつぶすにはつらいものがあった。

 「私を海につれて行ってくれませんか?」

 墓石のてっぺんから水をかける女子学生に話しかけたのは真っ白な衣服と麦わら帽子を目深に変わった子供だ。

 船ならもとから持っていないと無視する気でいたが、振り向いた先には中性的な美少年が認められた。

 「船を持ってる友人がいます!掛け合いましょう!」と答えた女学生の瞳は暗く輝いた。


 日は西に引っ張られたころの海は、青々しい波間に紅色さして、東の空には紫色の星空が薄くかかっていた。真白な漁船は件の子供と女子学生を乗せて水の上をゆらゆらと心もとなく浮かんでいた。

 「ありがとうございます。これで帰れます」

 「ここからどこに帰るというのよ。海底?」

 はい。と子供は答えるが早いかあっけにとられた女学生の横をすり抜けて艦尾から海に飛び込むと、そのまま水に溶ける砂糖のように海の暗い色の染みとなり消えてしまった。

 後を追って身を投げて後を追おうとするも只の女子にすぎない女学生の体は不覚へ向かう勢いを一瞬で吹き飛ばし海面に打ち上げるばかりで、諦めて118へ通報した。

 あっという間に騒ぎを聞きつけた漁師の方々は何もできない女学生など元からいないかのようにテキパキ海底に沈んだという子供を追って海上保安庁の船がたどり着くころには周りにちょっとした船団が誕生した。

 漁師の一人が声を上げた。

 「海を見ろ!海が泡立っている」

 したがって海面を見るとだれの船の周りにも湯だった鍋の水面のように大量の泡がブクブクと沸き上がり途端ひとつの大きな空気の塊が一気に波間を出ていくと、海が大きくうねり暴れ、突然巨大な金属の塊が海を割って出てきた。

 それは一隻の客船だった。

 その客船の艦首に、着飾った子供が、甲板を埋め尽くすほど増えて立っていた。

 子供の群れの中から件の少年を探すと女学生は自身の間違いに気づいた。

 彼女は女子だった。

 客船の艦尾の方に集まったほかの漁船から無線が飛んできた。

 「対馬丸!こいつぁ二次大戦で本土に子供を運ぼうとして一緒に沈んだ船だ!どうしてだか知らないが新品同様の姿になって浮かび上がってきやがった!」

 女学生は対馬丸の甲板に呼び寄せられて、そこで彼女の話を聞くことになった。

 「私をここまで連れてきてくれてありがとう!ようやく本願が叶いそうで私、うれしくて泣きそう!」

 「私、この船の船魂なの。どうしてだかわからないけど、今日この体でこの世に生まれてきたの!そして私は思ったんだ。今度こそこの子たちを陸まで送るんだって。そのためにはどうしても本体の沈んだ船の場所まで送り届けてくれなくちゃいけなかったの。ありがとう。本当にありがとう!」

 話を聞き終わると女学生はふと思った疑問を返した。

 「今度はどちらにかじを切るんですか?」

 「もちろん、あの子たちが育った島を目指します」

 対馬丸は南に進路をきった。

 平和な海に船が浮かんでいる。

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