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僕の皮肉な冒険譚  作者: リンゴ
第一章
3/6

道中記。 その2

大きな川に作られた大橋を通り抜けて数キロ先に、停滞する一車の馬車の姿があった。

環境音が静かに音を奏でる。

一人の男は、只々、疲れた顔で馬車から飛び降りた。

落下音が地響きと一緒に響き、地面の雑草を踏みしめた。

「_______ふう。 なんとかなったな坊主、一応聞いとくが死んでないよな!」再度確認、この確認は既に二回程、繰り返している。

僕は馬車を荷台に付いている窓を開けて、手を振り、木張りの地べたに座って暫しの休憩を取る。

元使用人で今は動き易い格好をしている、レイヤさんは亜麻色の髪を束ねて、僕に肩を貸す。

何処と無くだが、目が輝いて見える。

もう既に時は先程の事から数刻立っており、天に光る太陽もまた、落ち始めてオレンジ色に輝く。

酸っぱい若葉の匂いだけが変わりないように感じた。

木張りの荷台に馬車から降りた放浪者が僕に、何を思ったのか、何を思い出したか、僕には良く分かりはしないが、僕の方に近付き「_____俺らって互いに名前を言っていなかったな」 全くもってご尤もな話だ、こんなに命を張った命の恩人の名を聞かずに別れてしまうのは非常に勿体無い、後で色々と奉仕をしたい気持ちもある訳だし。

「_____じゃあ、私の名から」と僕は、地べたで話すのも何だと思い、立ち上がって馬車から降りてから、僕は名乗ろうとするが、

「_____聞いたのは俺だぜ? 普通、俺から名乗るのが道義ってもんさ」と彼にも彼なりに考えがあっての行動なのだろう、僕は口を噤んだ。

「____俺は、ヴェーン 。ヴェーン・エクスだ」と名乗ったので、

「....僕はエリック・エレク、これから宜しくヴェーン」

「_____まあ、一緒に旅をする訳じゃないのだが、まあ良いか? その感じじゃ結構な奉仕をしてくれる感じなんでな」と意外と現金な人らしいヴェーンは、僕に手を差し出した。

僕が頭に? マークを浮かべるとヴェーンは面白そうにはははと声に出して笑う。

「_______俺の仕事では、こうやって互いに信頼し合う時に手と手を握って、互いに努力する事誓うんだよ」 駄目か? と気恥ずかしそうに言うヴェーンを見て、僕は少し笑い、ヴェーンの右手を握った。

がっしりとした、肉厚な手を握り僕はもう一度、宜しくと二人だけが聞こえる小さな声で、言う、と今度はちゃんと

「ああ、少ない時間になるだろうがこれからよろしく頼むぞ、エリック」僕達は肩を並べて笑った。


そうして数刻の時間があっという間に去って行き、私達は周囲に警戒しながらも此処を今晩の拠点にする事を決めた。

幸い、あの襲撃で失ったのは銃器の弾薬などの武器系の消費物と寝床のみで、其処まで深刻な事態には陥ってはいなかったので、一晩ぐらいなら問題は無いだろう、この晩は眠れないだろうがまあ、問題は特に無い。

もしもの時は交代交代で、仮眠を取ればいいし、と釜戸に気をつけた私にご主人は

「_____流石! レイヤさんだ。 作業が物凄い早いですね」と私を褒めるご主人は、すごく誇らしげだ。

別に火をつけただけでしょう?

ご主人は火元に近づき、手をかざして手を温める、

「嬉しそうなのは良いが、食料品どんな品があるんだ」とヴェーンは腹が空いたのだろう、私になんか食べるものはあるか聞いて来た。堅いパンと数日分の水、後、乳製品と燻製された物が少し有ると言う私が言うと、酒は? と聞いた、安酒なら少量と言って、私はランタンに火を灯した。

手元が明るくなる、もう既に簡易的な釜戸に火は付いているがやっぱり、手元に明かりがあるのは、やっぱり良い。

ヴェーンはなんか、少し考えてからその酒って飲んでいいか? と私に聞いて来た、別に商人じゃないですしご主人からは奉仕をしろと言われていましたし、よって眠らない程度の話の肴としてくれるなら良いと、適当に言うと、彼は容認してくれたのか頷いて黙った。

「____一度、馬車にある食料を取リに参りますので暫しの時間、お待ち下さい、後ヴェーン様も、お疲れでお腹も空いていると思いますがしばし待ってください」 私はランタンを

片手に少し借りますと言って、馬車の荷台に吸い込まれていった。

薄暗い荷台の左には、乾物品と書かれた大きな木箱と、燻製品と書かれた木箱に貼り付けられた釘を外して麻袋に入れられたパンや燻製などの材料を三人分取り出した、後ろを振り向き、もう三つ程をある木箱に明かりを近づける。

その木箱には乳製品と書かれた木箱があり、一見牛の乳が入っているように見えるがこの独特の発酵した匂いが其れを否定する、私は

そこから先程と同じように麻袋から円形のチーズを取り出して、安酒の小さな樽を持って荷台から出た。

ご主人は私に近づき、重い樽と取り分けられた三人分の食料を持って、火の付いた釜戸に近付いた。

「おお、凄いちっちゃい樽だな。 二三杯で飲み干してしまいそうだ」私は、ヴェーンにパンを切る為にナイフを借り、其れを軽く布で拭いてパンに切り込みを入れた。

ヴェーンは置いた酒樽を自分の懐に近づけて、テコの原理で張りの樽に入った酒を零さないように開けて、杯に注ぎ、其れを口に含んだ。

私は、堅いパンの中心に切り込みを入れて、其処に定熱処理された生ハムとレッドチェダーチーズを挟んでサンドイッチにして、其れをご主人に渡す。

元々、ジャンクで食べやすい物が好きだったご主人は、ありがとうと礼を言って受け取り、ちゃんといただきますと言って堅いパンに齧り付いた。

私はそのまま、ヴェーンに振る舞っている酒のつまみのためにナイフを振るってチェダーチーズと生ハムを切り、一個の皿に盛り付けた。

其れをヴェーンに渡すと、ありがとうと礼を言って摘みと一緒によりスピード増して飲み始める、私もご主人と同じサンドイッチを作って、ご主人と肩を並べて食すことにした。


食事後、ヴェーンは酒が周り腹も膨れて寝始めてしまった、恩人を汚れる場所で寝かす訳にもいかず、ご主人と一緒に肩を担いで荷台の床に寝かした。

釜戸の火は消えて、ランタンに付いた火と月明かりしかないこの森の中には、虫の鳴き声と鳥の声だけが支配し、私達は言葉を失う。

「____レイヤさん」

馬に藁を与えている私に近づいて来たのは、ご主人だった。

私は彼の方に振り向き、一例をすると、気恥ずかしそうな顔、何時も通りの腑抜けな青年の様に見える彼は私に何をやっているのかを聞く。

馬に餌をやって居るんですよ、とご主人に言うとご主人は、馬の身体をそっと撫でた。

馬が顔を降る、ご主人は食事中だったねと謝罪の意味を込めて軽く足を叩いて、私に来る様に言った。


僕は鼾声のする荷台の外側に彼女を座らせてから、僕も隣に座った。

僕達は隣同士、互いに肩を並べて今日生き残った事に感謝をしつつ会話を切り出した。

「_______レイヤさん、少しに気になった事があってそれを聞きたいんですが良いですか」と彼女は良いですよと返して、後で皿が洗いたいから、手伝ってくださるなら、と付け加えた。

今日は特に働きも活躍する様な事もなかったし分かったと返事を返して、

「レイヤさん、 馬車でしたあのキスは」

と僕が、レイヤさんに聞くとレイヤさんの顔が白から赤へと変化した。

「____あああ、アレはえっと....そう! 緊張を解す為にやっただけの事ですよ」少々、焦りながらも彼女は噛まずに言い切り、逃げる様にさあ! 皿洗いをしましょうと頭に渦巻く考えを変えようと必死になっていた。

僕は後ろから、悪戯心から脅かす様に抱きしめると情け無い声を上げる。

相変わらず悪戯と突飛な行動に弱い人だなレイヤさんは。

硬直する彼女の背中の温度は上昇しどんどん鼓動は早音を刻む、少し寒い気温だったせいか、僕は暖かい彼女の背中により一層密着した。

女性特有の甘い香りと柔らかい身体、僕より低い華奢な体躯の彼女はまさに腕の中に収まるようだった。

そして、彼女は目を見開いて振り向いた。

あまり、揶揄いが過ぎたようだ、血走った目をしていて鼻息が荒い。

「____ゴメン、レイヤさんちょっと揶揄いが過ぎました」謝って、僕が離れると苛立っているのか早々と皿洗いをしに川へと向かって行ってしまった。

僕は、ゴメンを何度か繰り返して、彼女の背中について行ったは良いが、結局レイヤさん一人で殆どをこなしてしまった。


川から、拠点へと戻って来た。

小鳥も虫も寝静まる深夜、僕達も一度、仮眠を取った方がいいとレイヤさんが言ったので、レイヤさんに軽く体を拭いて貰い、荷台の壁に背中を持たれて、寝る事にした。

家が焼けてから十六日が経った、もう昔の生活には戻れない事を理解はしているのだが、地べたで寝るっていうのはあんまり慣れない物だ、まあレイヤさんやヴェーンは慣れているのかレイヤさんは向かいの壁でヴェーンは床で寝息を立てている。

僕も、寝ている人の邪魔したくないしこのまま、静かに座って眠る事にした。

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