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僕の皮肉な冒険譚  作者: リンゴ
第零章 プロローグ
1/6

煤で汚れた夜

僕は今代のエレクの当主、エリック・H・エレクは過去の代、

特に僕の父は過去にこれ以上の無い賛美と栄光を得た。

女王陛下や国王にも、賛美を得るほどの知略持ち又、海を渡り、山を森を駆ける探求心を持っていた父は偉大な冒険者ヘレスの名と貴族の証である貴族の短剣を授かり、女王お気に入りの貴族となったが

その後すぐに病死してしまった父。そして父の書斎には、沢山の思い出が詰まった二十冊の冒険譚やケースに入ったトロフィーや著名人との写真、賞状が沢山壁に、冒険譚は本棚に輝かしく纏まって置かれている。

書斎の窓を開けて埃がたまってはいないが咳が出そうな部屋の空気を変える。

柔らかい風がレースに彩られた白いカーテンをゆらゆらと揺らす風は花の香りがする。

下を見ると庭に咲いた多種多様な花々が咲き誇り書斎の雰囲気を払拭していく、と下で作業していたメイドが僕と目が合いはにかむ様に笑った。

不意にギシギシと古い廊下特有の木の軋む音が僕の部屋の近くで聞こえた。

ここはカーペットが敷かれていないから木の軋む音が良く響く。

トントンとドアを二回、叩いてドアを開けると彼女は開幕一向、こう切り開いた。

「____お早う御座います。 ご主人殿。 今日は一段とお早い目覚めで実に健康的です」

単純な簡素な言葉の羅列に僕は物足りなさを感じつつもおはようと朝の挨拶を返す。

「____ああ、最近寝起きが早いのはこの一冊の本を読む為なんだけどね」

早起きの原因を手に持って言うと急に納得した表情をして後ろに一歩下がる。

「____まだ日が昇ってからそう立っていませんが、お食事お取りに成されますか?」

風が大きく吹く。

僕の長く伸びた髪がたなびくとレイヤさんは笑って近づき僕の手を握って廊下に出る。

そして柔らかい手の感触と熱い吐息を感じながら僕は食堂へと向かった。


廊下に出て食堂に向かうと、父の代から僕に使える初老の執事が立っていた。

整頓され小綺麗にされたエントランスには、バリアフリーの老若男女に優しい設計が施されている、コレは沢山の著名陣が来ていた証でもある。

そして華やかに彩られた花畑の花々はエントランスにて壺に活けられていて、天井にはシャンデリアがあり豪華絢爛さを感じさせる。

「お早う御座います。 エリック坊ちゃん」

と紳士服を着こなす彼は僕に一礼と朝の挨拶をする。

「____いい加減に坊ちゃん呼びはやめてくれよシーク」と何度も繰り返したお決まりの台詞をこう返す。

ならば、結婚なさって下さいと、女性が苦手な僕に対してのいつも通りのお返しだった。

エントランスを右に行くと廊下が有り、エントランスに一番近い左の部屋がパーティ用の大部屋、その隣の右の部屋は父の残した遺産の一つでも有るワインの貯蔵庫。

廊下の上には階段があり、階段の近くにあるのが家族用の食堂だ。

二階には、使用人の部屋が三室と使用人用の着替え部屋と食事スペースが有る。

食堂に着くと、料理の芳しい香りとマスカットを思わせる爽やかな香りがする。

「____確か今日は、ダージリンのファーストフレッシュが家に配送される予定だったね」

と僕はシークに聞くと

「____ええ。 確かに今晩迄に届くとされていましたが予定が早まり今朝にはもう届いてしまいました」 非がある訳ではないが、予定が崩されたり早まったりするのは些か、言葉を濁してしまいそうだ。

「____シーク、じゃあこの部屋に充満した爽やかな香りもその春摘みの紅茶の香りで間違い無いんだね?」と最初に行ってから、シークにお茶を入れるように頼むと畏まりましたと僕にまた一礼してから振り向いてキッチンに向かった。

シークがキッチンでお茶を用意している間、僕は白いテーブルクロスを敷かれた大きなテーブルの窓側でその一番奥に座ると一度欠伸をした。 そして考える

僕は父の冒険譚が好きで冒険者になるのを、夢見ていた。ニーロと呼ばれて親しんでいた友人は僕と同じ夢を抱いて冒険者になったが帰還する時事故死した。

それから、僕は共感出来る友を無くしてからは僕も冒険に関して諦めを持つようになった。

単純な話だ、ぼくは死を恐れてしまったから、冒険者になる事を辞めた。

たったそれだけの意識でたったそれだけの揺らぎで、僕は簡単に崩れてしまった。

「____あいつが居ない僕に何がある」と潰されそうな声で孤独を嘆いた。

数分程経つ、とシークはティーカップと茶入れを乗せたお盆を持ってきた。

「____良い香りだね」 僕が独り言を言うとシークはテーブルにお盆を乗せてティーカップに抽出したとても良い香りのする紅茶を注いだ。

牛乳で抽出するロイヤルミルクティーが僕の目の前に置かれて、僕はそれを手に取るとシークは僕の隣にスコーンとクッキーを乗せてお菓子置きを横に添えた。

芳香が満ちる。

どんな物でも新鮮な奴ほど爽やかで、発酵している程味わい深いものでこの紅茶はとても美味しい。

とそのゆったりとした時間はすぐ終わった、それは朝食が運ばれて来たからだ。

そして考えることもなく、発する事も無く、食事をして僕はこの場を後にした。


書斎にて、僕は昔、冒険譚を読んでいた。

仲間とのたわいも無い、楽しい会話や、地域住民との交流、得たものや失ったものに関して。

僕は無感情に紙をめくった、それを終わることなく何百と繰り返した。

気がつくともう日は沈みかけている、今日も帰ってこない冒険の日々に想いを馳せて日が終わりかけていた時、僕の部屋の外から、煙の香りがした。

一瞬で非常事態だと理解した。幸い、この部屋は一階の一室、僕は避難をしたのを確認するために廊下に出た。

炎炎炎炎炎炎炎。 灼熱の熱風が僕の喉を焼く行き良いで揺れる、僕は体勢を低くし喉を焼かないように口をハンカチを覆った。

廊下を出てエントランスに向かうと熱で赤くなりつつある、鎧が僕に向かって倒れかかる、僕はそれを革靴で蹴った。

靴に当然、火がつき燃える、火傷をしたが気にはかからなかった。

エントランスに出るとシャンデリアが地面に落ちており僕の家、全体が燃え上がっていることを悟った、そしてこのままドアを開ければここは一気に炎上する事も。

そしてこの家から人がいない事を願いながら僕は玄関ドアに向かって一気に駆けた。

爆発。

僕は身を固めて、火傷をしながら家から出るとレイヤさんが涙浮かべながら、僕の方に駆けてきて、僕の体を背負う様にして屋敷から離れた。

「____良かった! 良かっぁあ」震える声でそう言うとレイヤさんは口から解読不明の言葉を話している。

そして僕は意識を失った。


深夜、僕は目を覚ました。

深い闇色に塗り潰させた部屋の中はとても狭く、これ以上に無い程に懐かしみを感じていた、周囲を見渡す。

暗がりで、物はよく見えないが此処が地べたではないことだけははっきりと分かった。

木の板が張り巡られた、部屋の中には、薄明かりにその存在を隠す、小さな短剣が鞘に収められて、隅に置かれている。

そして色んな価値がありそうな歴史的な物が散らばる小さな物置。

僕は上体を起こそうとすると何かにぶつかった。

「____イテッ!!?」

思わず声が漏れる。

虫の鳴き声が一瞬止まった気がした、そしてここがどこなのかわかった。離れに置かれた馬車だ。

それも、父の残した遺産の一つだ。

僕はもう一度周囲を見渡すと、見知った顔の者が目の前で寝息を立てていた。

亜麻色の髪に白と黒のバランス取れた色合いのメイド服、頭には白のヘッドドレスをつけて髪を束ねた全体的に柔らかく、僕に駆け寄り泣いていた女性。

レイヤさんが僕の目の前で眠っていた。

これ以上ない位にリラックスした表情をし眠っている彼女の頭の一部に赤い跡がついていた。

さっき上体を起こした時に衝突したのだろう。

僕は狭い馬車の中で音を立てないように、彼女に近づき寝やすい位置に移動させようと彼女の腰に触れた時。

野生の本能か否か?

パッチリと彼女は目を大きく見開いた。

そして、

「____元ご主人殿。 一体何を成されるおつもりですか?」 僕は大いに動揺した。そして後ろに下がろうとして一気に馬車から転げ落ちた。

二、三回程、後転して地面に仰向けで倒れた、月明かりが僕の体に当たり体の一部に白い布が巻かれている事に気付いた。

身体の節々が痛い、熱が幹部に発している。

「イテテ、元ご主人って酷い言いようだな全く。 僕は応急処置と膝枕をしてくれたレイヤさんが寝やすい様に移動させようとしただけですよ」と馬車から降りた、少し悪い顔をしているレイヤさんに弁解と弁明をしながら頭を掻くと

「____女性と関係を持った事のないお方が、みすぼらしい体付きで身分の違う私に興味を持たれる事なんか御座ませんよね」とちょっと残念そうな顔をしてから、僕に手を伸ばした。

僕は彼女の手を握り締めて立ち上がると、体勢崩れて、レイヤさんに支えてもらう。

「____大丈夫ですか?」聖母マリアの眼差しで僕を見つめるレイヤさんに僕は頼んで、馬車の幕が下がった出口の部分に座り、彼女と対面する、もう庭には甘い花の香りはしない。

互いに煤だらけの状態で、僕達は話し合った。

「____レイヤさんしか生還する事は出来なかったんですか?」まず一番最初に話さないといけない事は、生存者の確認だと冒険譚には書かれていた、それに基づき僕も、この確認で口火を切ることにした。

「____はい。 この火事が発生した時、私はガーデニングの手入れをしていましたら」とレイヤさんは、自身に合った出来事をなるべく具体的にして繋げる。

「____後、私がガーデニングの手入れを始める前に葉巻の業者さんがウチに来ましたよ? 後、シークさんは、地域住民の相談を聞くと言って、客間で相談を聞いていました。

リルケちゃんは私とガーデニングの手入れをしていたのですが、あれから部屋に一度戻ってからは外に出てきてはいないですからきっと被害にあって」と悲痛に満ちた表情を浮かべるレイヤさんだが、僕にはちょっとした思いがあった。

それは、まだ僕らは一人じゃない事。

でも、

「____シーク....」僕は育ての親代わりだったシークの顔が浮かび僕は涙を浮かべた。

シークや大切な本や賞状はもう帰ってこないそして

栄光も地位、家も金も無くなった僕は明日からどう暮らせばいいのだろうか

どう生きれば良いのだろうか、そして僕は何をするべきなのだろうか? そして僕は、今日からただの孤児になった。


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