ヴィヴィと少年
金の龍は、広い庭のある屋敷に降りると、ヴィヴィをそっと地面の上へと降ろした。
そして一瞬の光の後、彼の姿は金の髪の青年へと変わっていた。
(うわあ……格好いい……)
龍族は美形が多いというのは本当のようだ。
彼はヴィヴィを抱きかかえて、屋敷に向かって歩き出した。
11歳にもなって抱っこされるのは恥ずかしかったが、夜風で冷えた身体に彼の体温は心地良かった。
(まあ、いっか)
ここは大人しく抱っこされたままでいよう。
そう思って、ヴィヴィは屋敷の明かりを見つめていた。
ヴィヴィが気が付くと、いつの間にか見知らぬ部屋のベッドで眠っていた。
ヴィヴィは記憶を手繰って何があったか思い出した。
(そうか……あんまり心地良くて眠っちゃったんだ)
屋敷の中に入った所までは覚えている。
けれど、その後の記憶が曖昧だ。
メイドさんたちにお風呂に入れてもらったのは覚えている。
温かくて気持ち良くて、そこで眠ってしまったのだろう。
最初が肝心だというのに、なんという失態だ。
(しっかりしなきゃ。ここで働かせてもらえるように交渉しなきゃならないんだから)
あの金龍の青年が屋敷の主人ならば問題なさそうだが、そうでないならよほど上手く交渉しないと雇ってもらえないかもしれない。
(よし! 頑張るぞ!)
ヴィヴィは気合いを入れてベッドから下りた。
鏡の前で姿を整えてから、部屋の外に出た。
すると、すぐそばに13歳くらいの少年が立っているのが見えた。
少年は驚いたようにヴィヴィのことを見ていた。
その少年が金龍の青年に似ていることに気付いて、ヴィヴィは彼の親類だと当たりをつけた。
「あの、私を連れて来てくれた人はどこにいますか?」
ヴィヴィが訊くと、少年は「兄さんなら部屋にいるよ」と言った。
(この少年は弟か……)
ならば、嫌われないように気をつけないと。
ヴィヴィは少年に向かってニッコリと微笑んだ。
「お兄さんの部屋にはどう行ったらいいのか、教えてもらえますか?」
「う、うん」
少年は赤い顔をしてうなずいた。
自分が美少女なのを自覚しているヴィヴィは、こういう反応には慣れている。
先に立って歩きながらチラチラとこちらを見てくる少年に付いて行きながら、ヴィヴィは、彼の反応は今のところオーケーだな、と思っていた。
(うまく雇ってもらえますように)
またしても、ヴィヴィは神様に祈った。
それが叶えられるのは、もう少し先のことだった。