金色の龍
雪うさぎ(白ヶ音雪×月城うさぎ)様主催の【Dragon萌え企画】参加作品です。
ヴィヴィは途方に暮れていた。
森の中を行く当てもなくさまよって、もう二刻ほどが経つ。
月明りがあるのがせめてもの救いだが、夜も更けたこんな時間に幼い少女が一人で歩いていては危険だった。
それでも、ヴィヴィは屋敷に帰ることはできなかった。
下働きをしていたヴィヴィは、屋敷の主人に乱暴されかかって逃げ出して来たのだ。
(あのクソ領主、もっと思いっきり蹴飛ばしてやればよかった)
元雇い主の脂ぎった顔を思い出して、ヴィヴィは鳥肌の立った腕をさすった。
(はあ……これからどうしよう)
屋敷からは何も持ち出すことはできなかった。今のヴィヴィは、着の身着のままの一文無しだ。
(まあ、貞操が守れただけ良しとするか)
あのまま領主のいいようにされていたら、妾にされて孕まされて、挙句に奥様にいびり殺されていたかもしれない。
それを思えば、今自由の身でいることは幸運なことかもしれないのだ。
そう思って自分を慰めていると、ふいに月明りが陰った。
なにげなく上を見ると、金色の鱗が見えた。
(え!?)
ヴィヴィは瞬時にその正体を悟った。
龍だ。金色の龍が真上にいる。
「こんな時間に幼子が何をしている」
金の龍は咎めるようにヴィヴィに言った。
「早く家に帰れ」
そう言われても、ヴィヴィは帰れないのだ。
「どうした? 迷ったのか?」
今度はさっきよりも優しい声で訊かれた。
その声に勇気が出て、ヴィヴィは龍に向かって言った。
「私、行く所がないんです」
「……家がないのか?」
「領主様の所で働いていたんですけど、貞操の危機で逃げて来たんです」
「貞操の危機……バスクの領主は幼女趣味か」
龍が黙ってしまったので、ヴィヴィは大人しく彼が口を開くのを待っていた。
「……おまえ、俺と共に来るか?」
しばらくして、龍から出た言葉はヴィヴィの願ってもないことだった。
「行きます!」
ヴィヴィは喜んで答えた。
「……おまえ、そんな考えずに答えていいのか?」
龍が呆れたように言うので、ヴィヴィは「ちゃんと考えました!」と反論した。
「まあ、いい。俺の家に連れて行ってやるから、しっかり掴まっていろ」
そう言って、龍は前足でヴィヴィの身体を掴んだ。
「わあっ!」
ヴィヴィは慌てて龍の足に掴まった。
それを確認してから、龍は空へと舞い上がった。
空の上は思ったよりも高くて怖くて、ヴィヴィは必死で掴まりながら、下を見ないようにした。
けれど、心の中は言い様のない興奮に包まれていた。
(なんて幸運なの! 助けてもらえただけじゃなくて、龍族の国に行けるなんて!)
憧れの国に行けるなんて、夢にも思っていなかった。
本当に、夢みたいだ。
(夢なら覚めませんように)
ヴィヴィは神様に祈った。
夜風が強くて寒かったけど、龍の身体に押しつけられていたので、柔らかい毛が温かくて耐えられた。
やがて山を超えて、龍族の国に入ったことが分かった。
ヴィヴィはワクワクしながら、夜空を眺めていた。