目覚めと願いと
夢現の世界で、誰かが私に微笑んだ
目を開いて最初に飛び込んだのは自分の部屋とは違う茶色い天井。
思わず起き上がろうとしたら鳩尾あたりが痛みを訴えた。
痛みを訴えるお腹を無視して起き上がり周囲を見渡してもこの部屋に見覚えは、ない。
焦りで頭が真っ白になる。 冷や汗が頬を伝うのが分かる。
こ、こんな時こそ落ち着かないと。 深呼吸を1回、 2回、 3回
で、・・・ここどこですかっ!!!
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状況を整理しよう。
私は今、見知らぬ部屋にいる。この部屋は畳敷きで私は布団に寝かせられている。明りがなくても部屋が明るいから時間的には恐らく午前中とか昼間。部屋の中には鏡台と押入れ。そして目の前には恐らく唯一の出入口であろう障子が慎ましく存在している。 恐らく鍵のようなものは掛かっていない、というか鍵が掛かる障子なんて聞いたことがない。
ということは私は監禁されている訳ではなさそうだし、しかも拘束もされていないからこれはこれは、
「いつでも出て行って下さいって言ってるようなものよね。」
思わず独り言ちて障子に手を掛けた瞬間、
バチッッ!
派手な音を立てて私は「何か」に弾かれた。 ついでに手も軽く感電したようにじんじんする。
けれども多分これは感電した訳では無い気がする。 試しにもう一回逆の手で障子に触ってみたけど結果は変わらなかった。 なにこれ?
でもこれでは一人ではどうにも出来ないから、
どうにかして助けを呼ぼう。と携帯が入ってるはずのスカートのポケットに手を伸ばすけど、
ポケットに伸ばした手は見事にスルリと空振って、
そこでホントに今更過ぎて笑っちゃうくらいなんだけど気づいた。
私は着た覚えのない紺地の着物を着ていた。つまり、
誰かに着替えさせられている!!
えっ、ちょっと待った、誰っっ!! 今まで必死に焦る気持ちを抑えて自分でも驚くくらい冷静に状況を分析できてたけど、これは流石に・・・どうしよう。 成す術もなくすごすごと布団の上に座り込む。
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そもそものこの状況の原因はあの雅と名乗る男であろう。ついでに鳩尾の痛みもあいつのせい。
恐らくというか絶対あいつの鳩尾への一発で私は気を失ってここに運ばれたに違いない。
えっとあいつは私をなんて呼んだ?
そう、「姫」 どこのホストだよ。
というか姫なんて仰々しい名前で呼ぶならもっと丁重に扱いなさいよ。 か弱き乙女に鳩尾一発なんて男の風上にも置けない行為だし。
ぽこんぽこんと音を響かせながらあいつの代わりに枕を殴ってもしょうがないと知りつつも、ストレスを向ける方向がここしか思いつかなかったから枕を殴り続ける。
何も出来ないのならばこれからの事を考えよう。
部屋に食事も水も明りになりそうなものもない事から、近いうち少なくとも日が暮れる前にはこの部屋に誰かがやってくるんじゃないかと思う。そうしたらこの状況について説明願おうじゃない!
そして、早く私を家族の元に帰して。
「姫様」が目覚められたようですね。
少女はすくっと立ち上がると音を立てずに歩きだした。