プロローグ ー雅ー
さあ、古から廻り続ける環の次の一巡りを始めましょうか。
―嗚呼、怖がらないで下さい。私は決してアヤシイ者ではありません。
ほら、手だって指が五本有りますし、二本の足でちゃんと歩くことができます。
…まだ信じていただけないようですね。しょうがない、これでいかがですか?
ぷつり
ほら、ご覧の通り貴方と同じく血も赤いのですよ。
ああ、やっと信じていただけましたか、よかった。
先程も申した通り私は決してアヤシイ者ではありません。
えっ、早く要件を言ってくれと。分かりました。貴方は意外とせっかちなのですね、 いえいえ何でもありません。
それで要件なのですが、貴方をお迎えに上がりました。何故って、貴方は私たちにとって必要な方なのです。
ああ、そう。貴方はこの世界でなんと呼ばれているか知りませんが、私は貴方の事を「姫」と呼ばせていただきます。 ええ、そのままの意味です。貴方は私たちにとって姫という名に相応しいお方なのです。
ですから先程も申したでしょう、貴方は私たちにとって必要な方だと。
ああ、私としたことがすっかり忘れていました。どうぞ私のことは「雅」とお呼び下さい。 私が何者かと。私は貴方の臣でございます。今のところは。
ええ、実はですね、私は貴方の…あぁ、もう時間がありませんね。この続きは後ほどということに致しましょう。では参りますよ、私たちの世界へ。えっ、ヒトチガイではありません。確かに貴方が姫です。
あっ、逃げないで下さい。本当に時間がないのです。あぁ、しょうがない、すみませんが少し大人しくしていて下さい。
―ドスッ!
己が腕の中で目を閉じる少女を一瞥し少年はひとつ微笑んだ。
―さあ参りましょうか、私たちの世界へ