犬《チビ》②
「ってか簡単に飼うなんて決めて良いんですか?」
犬をこの空き教室で飼うことについて大嗣はまだ納得してなかった。
「良いに決まってんだよ。ばれなきゃいいんだよ」
会がばれることなんてありえないと言う謎の自信に満ち溢れた様子で笑いながら言った。
「いや・・・でも」
「何がそんなに気に入らないんだ?」
新が楽しそうに笑みを浮かべながら言った。犬をここまで連れてきたことを褒められたのがよっぽどうれしかったようだ。
「確かに今日一日全く誰にも気付かれなかったのはすごいと思いますが、餌とかどうするんですか?散歩は?」
「う・・・」
会はうろたえた。飼うという事で頭がいっぱいで全然考えてなかったようだ。
「餌はともかく、散歩は一度外に行かないといけないんで見つかっちゃいますよ」
「た、確かにその通りだね・・・考えてなかった・・・」
空もうつむき暗い表情で深刻そうに言った。
「生き物を飼うって言うのはそれだけ大変なんですよ」
呆れてため息をつきながら大嗣は言った。
「すみません・・・お母さん」
「誰がお母さんじゃ!」
確かにお母さんみたいなこと言ってしまった感は大嗣も感じてはいたが、会に改めて言われるとツッコまずにはいられなかった。
「俺たちは勝手に空き教室使ってるのに、その上犬を飼うなんて・・・万が一見つかったらどうするんですか?」
大嗣は追い打ちをかけた。
ちょっとかわいそうな気もしたが、罪悪感は無かった。なぜなら正論だから。
「で、でも・・・やってみなくちゃわからないっす!!」
「!!?」
ここで反論してきたのは鶴美だった。すごい勢いで言ってきたので、大嗣は驚いた。
「そ、そうだ!」
「そーだよ!やってみなくちゃ分からない!」
「俺たちはお前が入学するずっと前からこの教室で色んなことをしてきたんだ!それにばれたことは一度もない!だから大丈夫!」
空と会、そして新が鶴美の一言で活気を取り戻してきた。根拠は何もなかったがその勢いに大嗣は押されかけた。
「・・・・う・・」
大嗣は考えた。しかしどんな事を言っても勢いで全て蹴散らかされる気がした。
「わ、分かりましたよ・・・ただ絶対にばれないようにしてくださいよ。それが第一条件です」
「分かってるッすよ~」
大嗣が飼うことを許可した途端に急にご機嫌になって鶴美は笑顔で言った。
「よ~しチビちゃん!今日から君は私たちの仲間だよ~」
『ワン!!』
「ちょ・・・声大きい」
会が犬と戯れた途端大きな声で鳴いてしまった。
・・・幸先不安だな
大嗣はもっと粘って説得すべきだったと若干の後悔を抱きながら、今日の活動は終了した。