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メガネ

 チャイムが鳴った。放課後の始まりである。

「お、おはようございます・・・」

 息を切らして大嗣たいしは教室に入ってきた。

「たいちゃん!ちゃんと来てくれたんだね」

 うれしそうに笑いながら会は言ってきた。今日も笑顔の似合うかわいい女の子だ。

「いや・・・どっかの誰かさんが玄関で目を光らせてるんですから・・・帰れませんよ」

 帰ろうとした大嗣は玄関に立っているそらを見つけて、気付かれて蹴られる前に急いで教室に来たのだ。

「まぁなんにせよ、せっかく来たんだからゆっくりしていきなよ」

「そうですね」

 大嗣はイスに腰掛けた。

 しばらくして、玄関で待ち伏せしていた空も合流したが、特に何かするわけでもなく静かに時間は過ぎて言った。

 会話も時々「今日は紅茶を淹れてみたっす」「ああ、ありがとう」と言うのを鶴美つるみとした程度で、それ以外は各々自分のやりたいことを黙々とやっていた。

 ・・・やりたいことをやりたいように自由にやるって言うのは本当みたいだな。

 大嗣はそんなことを思いながら、自分も本を読んでいた。

「そういえばさ~」

 唐突に沈黙を破ったのはあいだった。

「どうしたんですか?」

「いやあのね~今この部屋には男子二人、女子三人の計五人いるわけじゃん」

「そうですね。それがどうかしたんですか?」

「メガネキャラが誰もいない!!」

 会は一人一人指を指して大きな声でそう言った。

「え?」

 確かに女子三人はメガネをかけていない。もちろん大嗣も。そしてこの場にいるにもかかわらず誰にも相手にされていない新もメガネをかけていない。

 しかし、だからと言って大嗣には会が何でそんなことを言い始めたのか分からなかった。

「確かにそうだね」

「え?」

 なんと空は会の話に乗ってきた。

「私も思ってたっす。今日、そんな話題が出ると思ってメガネを持って来てたっす」

「超能力者か」

 大量のメガネをカバンから出す鶴美に対してすかさず大嗣はツッコんだ。

「お~みんなでかけてみよう」

「「おお~」」

 会の掛け声に空と鶴美が合わせて声を上げた。

「どう、たいちゃん?似合う?」

 会が縁なしのインテリチックなメガネをかけて訊いてきた。

「え?う~ん・・・」

 大嗣は会の顔を良く見つめた。

 似合ってはいるが・・・

「会さんはそう言うクールなタイプじゃなくて、明るいかわいい系の方が似合うと思います。ほらこの赤縁メガネなんかどうですか?」

 大嗣はちょうど見つけたメガネを渡して言った。

「そうかな?これはつるちゃんの方が良いんじゃない?」

 一度そのメガネをかけた後、それを鶴美に渡しながら会は言った。

「そうっすかね・・・どうっすか?」

「・・・似合ってはいると思う・・・けど・・」

「なんっすかたいちゃん!?その歯切れの悪い感じは」

「いや、つるちゃんはメガネかけないのが一番かなって・・・」

 大嗣は鶴美を怒らせてしまったと思い、申し訳なさそうに言った。

 実際、運動部系な雰囲気を出す鶴美は裸眼が一番だった。

「私のはどうかな?」

「空さ・・・ん?はぁ!?」

 空の方を見た大嗣は驚きの声を上げた。

「それどこのSM女王ですか!?ってかメガネじゃなくて仮面でしょ?よくありましたねそんなの」

 空が欠けていたのは目の部分だけ隠す仮面であった。もう、鞭と蝋燭を持たせたら完璧だった。

「違うのか?」

「どう見たって違うでしょ・・・」

 キョトンとする空に呆れて大嗣は言った。

「空にはこれはどう~?」

 会が出してきたのは黒縁のメガネだ。

「そうですね。それは似合うと思いますよ」

 空は会からメガネを受け取ってかけた。

 大嗣の思った通り、美人の空がそのメガネをかけると、お姉さんや上司的な頼りになる女性になった。

「でも、一番似合いそうなのは・・・」

 みんなの目が一斉に大嗣に向いてきた。

「え?」

「「「たいちゃ~ん」」」

 女子三人が大嗣に襲い掛かってきた。色んなメガネをかけさせてきた。

「これなんかどうだ」

「おかしいでしょ!!」

 空がかけてきたのは星形のバラエティーメガネだった。

「これは~?」

「サングラスでしょ、これ?」

 会が持ってきたのはどこかのターミネーターを彷彿とさせるサングラスだった。

「これなんかどうっすか?」

「だから仮面でしょ、これ!?メガネキャラどこ行った?」

 鶴美が持ってきたのは謎の仮面だった。なんと言い表せていいか分からない派手な仮面だった。

 しばらく、この謎のボケとツッコミの応酬を続けた。

「「「キャ~!!」」」

 最終的に落ち着いたのはシンプルな縁なしのメガネだった。

「うん。いいよ!ヤバいよ!」

 興奮した会が叫んだ。

「イケメン最強っす!」

 鶴美も同様だった。

「・・・・・」

 なぜか空は笑っている。最高傑作の化学兵器でも作ってしまったマッドサイエンティストのようだ。

 その最高傑作と言うのは大嗣のことだ。イケメンの大嗣がメガネをかけ本を読む。もはや最強だ。敵はいないだろう。

 しかし、大嗣は自分のその姿を見ることができないため全く女子三人に共感できなかった。

「一等賞!!」

 大嗣は勝利したボクサーのように腕を会に持ち上げられた。

 しかし、大嗣には何が何だかわからなかったが、今日の放課後は大嗣が一番メガネが似合うと決まって幕を閉じた。


 ちなみに、色んなメガネをかけてボケようとしていた新は見事全員にスルーされてしまっていた。


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