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異世界に行ったら同棲生活に突入しました  作者: 佐竹アキノリ
第二章 雪の女王と紅の姉妹
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第二十五話 駐屯地へ

 翌朝、昨日の吹雪が嘘であったかのようにからりと晴れていた。シソウは朝食を済ませると、キョウコに見送られながら、マーシャとナターシャと屋敷を出た。向かう先は、王城である。


 暫くして城が近くなってくると、シソウはマーシャたちに近くの喫茶店で待っているように告げた。


「えー。私も一緒に行くわ」

「出自はどうするんだよ。誤魔化せるほど他国の知識もないだろ? すぐ戻って来るからさ」


 ナターシャがまだ文句を言っているマーシャを引っ張っていくのを見ながら、シソウは城へと向かった。門番の兵士もシソウの顔を覚えているせいか、取り調べもなく敬礼をして通してくれる。

 ただの冒険者がこうして自由に城に出入りできるというのは妙な気分であったが、そこで元々は護衛で来ているということを思い出して、その役目を何も果たしていないと顔を顰めた。


 シソウは中に入ったものの、誰に話をすればいいのか分からず、ただうろうろと城内をうろついていた。相変わらず政治的な面は人任せであったため、そろそろ覚えなければと思いつつも、やはり興味が持てずにいるのであった。

 暫くうろついていると、警備の騎士の中に見知った顔を見つけた。大柄で爽やかな笑顔が人好きする青年で、ベネットと会話していたのを以前見たのである。シソウは直接面識はないが、知り合いの知り合いということは知り合いも同然だと、途方に暮れていた彼は思うのであった。


「あのー、すみません。ちょっとお聞きしたいことが」

「はい。ああ、テレサ様ですか。今は施設の方に」

「あ、そうじゃなくて」

「セツナ様なら今は自室におられますよ」


 シソウは自分がどう思われているのか分かったような気がした。確かに二人を頼ってばかりであったが、それ以外にもこの城でしたこともあるはずだ。そうして思い返してみるが、やはり二人に会いに来ることしかなかった。あれ、おかしいな、とシソウは思いながらも、当初の目的を果たすべく、青年に話を続けた。


「いえそうではなくて。魔物の探索に参加させて貰えないかなと」

「探索ですか。そうですね……。西国への街道の途中には所々駐屯しているとは思いますが仕事は定期的な巡回だけで、索敵はほぼ騎士が単独で行っておりますので……」


 要するに、兵士は見回りをするだけで、ボスの探索は騎士しか行っておらず、それも個人の裁量に任せているということらしい。そのため、シソウもそれに参加しようと思うのであれば、自ら同行する騎士を見つけなければならないということだ。


 人付き合いが苦手なシソウは、途端に面倒くさくなってきた。騎士が単独で行うのであれば、自分も単独で行ってもそれほど違いはないのではないか、と。とはいえ、彼らとシソウではレベルが一回り異なる。


 シソウは青年に礼をして、城を出た。とりあえず、現地に向かって魔物の様子を見てから決めよう、と。帰りに喫茶店を外からガラス越しに見てみると、ふて腐れたように外を眺めていたマーシャと目が合った。彼女はシソウを見つけると、目を輝かせて手を振った。

 シソウは中に入って二人の元へと向かった。マーシャはシソウが何かを言う前に、飛びついた。


「シソウくんっ! 会いたかった!」

「おいおい、どうしたんだよ。今日はいつもよりおかしいぞ」

「先ほどから頻繁に声を掛けられて、辟易してたところなんだ」


 そう言うナターシャは肩を竦めた。この北国では見慣れない、二人の髪の色も相まって、人目を引くのだろう。何より黙っていれば傾国の佳人なのだから、そんな二人がいれば声くらい掛けてもおかしくはない。シソウとて、マーシャの中身を知らなければ、間違いなく理想的な美人だと思うだろう。

 マーシャはシソウに抱き着いたまま、その不快感を吐露していた。そのたびに真っ赤な髪がふわりと揺れてシソウの前に甘い香りを撒き散らした。だというのにシソウは店内の視線を集めて居心地が悪く、肩を落とした。


 それから店を出て、西国へと続く街道を行く。雪は踏み締められた跡があり、時折兵士たちも行き交う。それは魔物への警戒だけではなく、戦争の気配が漂っていることもあるだろう。

 以前西の森に向かった時は、南寄りに入っていったためこういった光景は見られなかった。しかしこうして兵士の数が多いと、ギルド会館の受付のお姉さんが安全だと言った理由も納得できた。


 それから街道沿いにしばらく行くと、兵士たちが駐屯している姿が目に入った。何も街からそれほど遠くないのだから、無理に野営しなくても、とは思うが、よくよく考えてみれば武器や応急処置、それから食料の補給など、その拠点とする場所があった方が楽なのだろう。それはシソウにとって無関係なことであったので、すっかり失念していた。


 それから暇そうな兵士に話を聞くと、どうやらこの周囲は魔物がほとんど出ないらしい。街の近くだから当然か、と思いながら、シソウは更に街道を行く。いくつかの駐屯地を通り過ぎると、次第に寒々しくなってきた。恐らく、魔物の影響だろう。

 そこで見つけた駐屯地では、警備も厳重で緊張した様子が見られた。兵士たちの中には騎士たちもいる。早速シソウは近くにいた兵士に声を掛けた。


「あのー。随分警備が厳重ですね。魔物が多いんですか?」

「ん? ああ、セツナ様のお気に入りか。ここは大雪境とカルカスとの丁度中間だから、あいつらとの衝突の可能性も考慮してるんだ」


 カルカス、というのは西国の名前だろう。ここより西の地域はその国に主権があるのか、それとも他国の被害まで請け負う必要はない、ということなのか。どちらにせよ、ここが端であるということに変わりはない。


「ところで、セツナ様のお気に入りってなんですか」

「そりゃお前、城の中じゃ有名だぜ。公明正大で通ってるセツナ様が、肩入れしてるって。ああ、妬んでるってことじゃねえぞ。お前の働きは周知の事実だからな」


 それは嬉しいやら、困ったやら、どうして反応すればいいのか分からなかった。セツナに気に入られたというのはこの上なく嬉しいが、シソウは名声に拘ったことは一度もない。

 今までもこれからも目標である強くなり上を目指すことは、その事実を追い求めるものであって、認められるということではないからだ。そのため、却って面倒な肩書が増えたという思いの方が強かった。


 彼は今休憩中だと言うので、話を聞くことにした。彼は大した美味しくもない保存食を持ってきて、これが騎士様も食べる最高級品だ、と笑った。シソウは御馳走になるだけも悪いかと思って、空間魔法云々を告げて食事を『複製』した。


「じゃあこの周辺が一番魔物が多いんですね?」

「狩っても狩ってもいくらでも湧いてきやがる。ま、おかげで失業もしねえ」


 兵士はラーメンを啜りながら答える。シソウはしるこを啜りながら尋ねた。


「ボスとかは見つかってないんですか?」

「今のところねえな。……これ旨いな、お代わりくれ」


 シソウは更に複製して彼に渡す。気が付けば休憩中の兵士たちが集まって、シソウは全員分の食料を複製することになった。ここまで街から離れると、食料を届けるのも大変なのだろう。彼らは温かい食事に舌鼓を打つ。


 そうして彼らから情報を集めると、どうやら現れる魔物も異なるようなので、肩慣らしに周囲の魔物を狩ることにした。兵士たちと談笑している二人を連れて、森の中へと歩き始めた。

 冷え冷えとした空気は、程よい緊張感を生む。この先に敵がいる。シソウは興奮を隠すことが出来なかった。


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