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異世界に行ったら同棲生活に突入しました  作者: 佐竹アキノリ
第二章 雪の女王と紅の姉妹
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第二十四話 マーシャとキョウコ

 森の中、銀色の刃が煌めくと、断末魔と共に炎が上がる。傷口は焼け焦げ、血飛沫が上がることなく魔物は命を失った。

 こうしてマーシャとナターシャが魔物を狩っていると、魔物はウェルダンどころか炭になってしまっていた。畑の肥やしにでも撒こうかとも思ったが、あれほどの成長速度があるなら必要ないか、と放置することにしている。そのためそろそろ何か大物が出ないかと期待するのであった。


 暫くすると、森の奥からがさがさという音が聞こえた。そしてひょっこりと茶色い体躯の獣が姿を現した。その熊のような姿をした魔物は、以前見たものよりも一回り程度小さいため、その子なのだろう。


 シソウは二人に手を出さないように告げて、熊へと近寄っていった。それは親を殺したことへの責任や罪悪感といったものではない。単に二人が手を出すと消し炭になってしまうからだ。肉や毛皮など、使える部分は多いのだから。


 シソウは熊へと無手で近づいて行く。熊が駆け出すと、シソウは歩みを止めた。そして熊がシソウへと飛び掛かったほんのわずかな瞬間に、『加速』してその背後に回った。振り向く間も与えず、金剛石の刀を『複製』して一気に首を落とした。


 流れ込んでくる魔力から、以前の魔物と大した差があったというわけではなかった。それにしても物足りなく感じてしまうのは、彼自身のレベルが上がったからだろう。さっさと血抜きをして、『複製』したリアカーに投げ入れて、街へと戻ることにした。


 昼過ぎに街を出たため、そろそろ日は暮れ始めている。シソウとマーシャがリアカーを引き、ナターシャはその上に腰かけていた。ナターシャは熊で隠れているため、二人からは見えない。ちょっとした気遣いであった。


 来た道を引き返すと、いくつもの魔物の残骸が目に入って来る。シソウは冒険者になったばかりの頃であれば、相当苦戦したんだよな、と思い返していた。確実に強くなっている、その実感を得つつも、どこか物足りなさを感じていた。それは身近に才能に溢れる二人がいることも関係しているのだろう。


 森を抜けると、キョウコの農園の辺りに出た。そこでは兵士たちが見回りや収穫の手伝いをしており、シソウは彼らに解体を任せることにした。シソウもいつまでも人任せでいる訳にはいかない、と練習してはいるのだが、数日で上手くなることもなく皮を駄目にしてしまうので、大きな獲物は任せることにしていた。


 早速兵士たちは肉を捌いていく。数日間熟成した後に食べた方が旨いのではないかとシソウは思うが、それより腐敗する心配の方が大きいためその日のうちに食べてしまうらしい。風魔法で真空を作り出し、無菌状態にするという保存方法もあるらしいが、そこまでこだわるものでもない。


 そんなわけでその日は兵士たちも含め、キョウコの屋敷で晩飯を取ることになった。農園で働く兵士たちはキョウコたちを子供と侮ることもなく、仲が良い。和気あいあいとした雰囲気の中、シソウは席についてその様子を眺めていた。マーシャとナターシャは農場の子らと料理をしているため、その隣にはいない。


 彼女たちは料理が出来るのだろうか、と思ったが、ナターシャは一応一人暮らしをしていたため難なくこなせるらしい。シソウはただ感心して、そして手持無沙汰になっていた。そろそろ料理くらい覚えようかな、と思わなくはないが、完成品を複製出来る以上、その時間は他のことに当てた方がいいように思われた。


 そうして何をするでもなくぼうっとしていると、奥からキョウコとマーシャが料理を持ってきた。他に親しい知り合いがいるわけでもないシソウは二人を目で追った。キョウコはその視線に気が付くと、料理を置くなりすぐにシソウの元に行った。


「シソウお兄ちゃん、あのね、私もナターシャさんと一緒に作ったの!」

「おう、偉い偉い」


 シソウの隣に来たキョウコの頭を撫でると、彼女は嬉しそうに破顔した。こんなひと時もたまには悪くはない。

 それから食事と風呂を済ませると、シソウはキョウコの父の部屋へと向かった。これといった物はないが、十分な広さがある部屋だ。今はシソウが借りている。


 誰かといるのが嫌いというわけではないが、人生全体でみると一人でいる時間があまりにも長かったため、こうして一人でいると落ち着くのだった。ここ最近はシソウにとって変化が大きく、気持ちを整理するためにも丁度良かった。


 複製した斧に魔力を込めて質量を増大させ、それをぶんぶんと振る。以前と比べると比較的楽に振ることが出来るようになっていた。それはレベルが上がったことだけではなく、筋力が上昇したこともあるだろう。


 ひたすら肉体を鍛えながら、今後のことを考える。いずれ大雪境は戦争に突入するだろう。そして出来ることならその前に後顧の憂いを取り除いておきたい所であり、魔物のボスを狩り尽くせるかどうかが肝要だろう。そしてシソウにとっては、そのボスとの戦いは強くなるための手段であり、進んで受けに行きたいものであった。


 とはいえ、さすがに一人で勝てるとも思えず、思案した結果、討伐に赴く騎士たちに同行させてもらうのが一番いいという結論に至った。迷惑かもしれないが、彼らの戦闘技術を見ることもできる。明日行ってみよう、とシソウは決めるのであった。


 そうしていると、扉がノックされて、開いた。入ってきたのはキョウコとマーシャである。シソウは思わず息を飲んだ。マーシャは上気して真っ白な頬がほんのりと赤くなっていた。乾かしたばかりの髪は動くたびに揺れて美しい。その婉然とした姿は、見る者を魅了するものであった。


「キョウコちゃんがシソウくんと一緒に寝るって言うから、私も来ちゃった」

「ああ、そうなんだ」


 シソウは冷静ではなかったので、言われるがままに納得してしまった。シソウは斧を消して、ベッドに入った。それからキョウコが真ん中に入って、その後ろでマーシャはキョウコをそっと撫でた。


 こうしていると、子供を挟んで寝る夫婦のような気がして、シソウはつい意識してしまった。シソウは寝付くまで暫く時間が掛かった。





 翌日、大雪境は久しぶりの悪天候であった。吹雪がひどく、外出はともかく、魔物を狩りに行くような天候ではなかった。そのため一日、屋敷で過ごすことにした。


 シソウは朝食と軽い運動を済ませると、以前から予定していた、ナターシャの屋敷で見たモータの改良を行うことにした。原理は電動機と発電機を繋げた電動発電機と同じものであるため、魔力を機械エネルギーに変換する構造を理解してしまえば、もしかすると直接魔力を電気エネルギーに変換することが出来るかもしれない。


 そして電力から魔力への変換や、エネルギー貯蔵も可能になるのではないか。そうなれば世界のあり方を変える技術革新となるはずだ。魔力と言う便利なものがあるせいで電気製品がほとんど普及していないこの世界で、科学が台頭する日となるだろう。


 シソウは今納屋にいるため、誰かが来ることは無いだろう。ゆっくりと発電機の複製を始めた。予めキョウコに大きいものを置く許可は取ってあったので、遠慮なく魔力を込めた。そして部屋の三割程度を占める巨大な発電機が複製された。


 まず発電機側の配線を見て、ショートして火災にならないことを確認する。それから魔力を機械エネルギーに変換する機構を探る。どうやらその中心となっているのは、回転子のようだ。金属というよりは石に近いそれの周りは、僅かな空間を隔てて筒が取り囲んでいた。その筒には120度ずつ離れて三本の長い棒が埋め込まれている。


 どうやら魔力に反応して引き付けあう魔力特性を持った素材を使っているらしい。そのためステッピングモータのように、三か所を交互に引き付けることで回転させるようだ。


 初めてみる魔力特性を持った素材は収穫であったが、モータを回転させる原理は既知のものであったので、電力から魔力に変換するという案はすぐに消滅した。とりあえず物は試しだと、『引力』の特性を持った石のような素材を『複製』した。


 ビー玉サイズのものを二つ。片方に魔力を込めるが、何も反応はなく、もう片方に魔力を込めた瞬間、それらは引き付けあった。それから何度か定量的に試してみると、引き付けあう力は込められた物体間の魔力の乗算によるものであることが分かった。


 シソウは一つを宙に投げ、もう片方に魔力を込めて引き付ける。速度を上げて落下してくる素材が手の横を通り過ぎる時に、手にした素材に魔力を込めた。それによって落ちてきた素材に円運動をさせると、ヨーヨーのように上へと向きを変えて飛び上がらせることに成功した。


 体の周りをくるくると回してみたり、シソウは久しぶりに子供らしい遊びをしたためか、それに夢中になっていた。そしてモータは放置されることになった。


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