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異世界に行ったら同棲生活に突入しました  作者: 佐竹アキノリ
第二章 雪の女王と紅の姉妹
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第二十三話 初めての依頼

 宿はギルド会館から近いところに取ってあるため、すぐに行き来は出来る。会館に足を踏み入れると、いつもの受付のお姉さんを発見した。

 シソウは周囲を見ながら、子供であると舐められることも少なくなったなあと思う。それは恐らく立ち振る舞いや魔力が冒険者として高い位置に存在するからだろう。美女二人を侍らせているというのに、絡んでくる輩もいない。


 それから受付に行って、二人の分の冒険者証を作成する手続きに取り掛かった。彼女たちは書類に必要事項とそれぞれ名前を記入する。苗字がないのは、正式な子ということもなく、加えてあの屋敷の借金を被る可能性を下げるためだろう。シソウが名前の所をじっと見ていると、マーシャが首を傾げた。


「……あ、もしかして、私にもオオアサって書いて欲しかったのかしら? でもそれだと結婚できなくなるからだめよ」

「そんなこと微塵も思ってないから」


 それから二人は血を一滴渡し、それにて登録が終了する。血液に魔力が含まれている、ということは、虚血になった場合そこの魔力が低下するのだろうか。そうであればうっ血した場合はそこに魔力が集中することになる。

 ならば魔力を扱うということは不健康なのではないか、との考えに至るが、そもそも魔力とは何なのかを理解していないのだ。定性的な実験でもしない限り、どうであるかは分からないし、それを調べる術もまだ知らない。


 待合室で薄い茶を啜りながら、冒険者証が出来上がるのを待つ。その間に特にすることは無かったので、そういえば、と気になった事を聞くことにした。


「マーシャって、剣は使えないの?」

「うーん。ナターシャちゃんみたいに手順通りにしたわけじゃないから、定着率がすごく低いみたい。だから魔法は得意だけど、剣はちょっと」

「へえ。じゃあ俺とは逆だし、相性いいんじゃないかな」

「そ、そうね! うん。私頑張るわ!」


 マーシャは一転してきゃっきゃとはしゃぎながら、シソウの手をぶんぶんと振る。彼女のテンションの高さにシソウはついて行けなかった。黙っていれば普通の美人なんだけどなあ、と思っていると、受付のお姉さんが冒険者証を持ってきた。ナターシャとマーシャにそれぞれ手渡して、間違いがないことを確認する。


 二人に渡された冒険者証に書かれたレベルは、どちらもシソウより高かった。特にマーシャは定着率が低い分レベルも高く表示されるのに加えて、シソウの『複製』による魔力も含まれるのか、一回り以上高かった。


 彼女たちはさして気にした様子もなくそれをしまった。このままでは力におぼれてしまうかもしれない、そんな杞憂を抱いたシソウは、先駆者として基本から教えてあげなければ、と意気込むのであった。彼も冒険者としてはそれほど経歴が長いわけではないのだが。


 早速席を立って、依頼の掲示板に向かった。相変わらず目ぼしいものは何もなく、変わり映えはしない。とはいえ農地開拓のための伐採など、大雪境が良い状況に変わってきていることが窺えるようなものが増えているのは喜ぶべきだろう。


 早速シソウは一枚の紙を手に取った。そこには屋根の雪下ろしと書かれていた。


「あの、シソウくん? 私冒険者になったのよね?」

「もちろんだ。だからと言って、急に危険な依頼なんて出来るか。俺だって薬草の採取から始めたんだ。……それにいいか、雪かきを舐めてはいけない。毎年必ず屋根から転倒して死亡する事件が起きている。それに軒下のつららが直撃すれば致命傷になるし、落雪によって埋まり死亡することもある。それくらい危険なんだ」

「は、はあ……」


 シソウは意気揚々と受付へと向かった。お姉さんはなぜ上位の冒険者がこんな依頼を、と思ったのだろうが、それを表情に出すことはせず、にこやかに受理した。


 それからすぐに依頼された地域へと向かった。中央より東に位置する住宅街は、高齢者が多い地域で、ほとんど除雪はされていない。そのため家の前にも雪が積もって出られなくなっている家もある。その地域一帯を任されたのだから結構な重労働であるが、それはあまり問題はなかった。


 一軒目は屋根の上にある雪をシソウが片っ端から降ろし、二人が炎の魔法で燃焼させることですぐに終わった。シソウは屋根から隣りの家の屋根に飛び移り、再び作業を始める。多数の魔物の魂によって強化された肉体は、疲れなど微塵も感じさせなかった。


 そうして昼前までに大半の作業を終わらせると、過ぎ行く人々の中に見知った顔を見つけた。シソウは屋根の上の雪をさっさと降ろすと、飛び降りた。


「キョウコ、買い物?」

「あ、シソウお兄ちゃん。早く帰ってきてって言ったのに」


 そう言ってキョウコは頬を膨らませた。こうして拗ねている分には子供らしく可愛らしい。本日二度目の朝帰りに対する苦言を受けながら、シソウはキョウコの方はどうかと尋ねた。


「上手くやってるよ。セツナ様がよくしてくれるの。貴族様も優しいし、みんないろんな得意なことがあって、分担してやってるよ!」


 シソウは上手くやっているようで何よりだ、と。そしてそのうち戻る旨を伝えた。そうしてシソウが立ち話をしていると、作業を終えたマーシャとナターシャがシソウの元へとやってくる。キョウコは怪訝そうな顔で二人を見た。


「シソウお兄ちゃん、その人たちは……?」

「冒険者だよ。今依頼で一緒に雪かきしててさ」


 こんにちは、とマーシャはキョウコへと柔らかい笑みを浮かべた。キョウコは元気良く挨拶すると、二人は談笑を始めた。兄弟がいないキョウコにとって、年上のお姉さんと言ったところなのだろうか。マーシャは人当たりがよく、子供にも好かれるようだった。これでたまにふざけるのさえなければなあ、とシソウは思わずにはいられなかった。


 それじゃあね、と手を振って駆けていくキョウコに、マーシャは笑顔で手を振った。それから三人は残りの作業を終わらせた。ギルド会館に戻って報酬を受け取ると、マーシャはその少なさに唖然とした。銀貨数枚を受け取って、以前シソウからもらった金の多さに驚くのであった。


「これだけなの?」

「これだけだ」


 釈然としない表情の彼女に、シソウはあっさりと告げる。派遣社員でもある冒険者は、誰でもできる仕事ならばその報酬はひどく安い。せめて魔物と戦わせてほしいと散々マーシャが言うので、シソウは東の森に向かうことにした。あそこならそれほど強力な魔物はいないだろうと。


 街を出て畑を抜けて、森の中へと足を踏み入れる。先日シソウが魔物を狩ったせいでほとんど見かけることは無い。冒険者と言っても、魔物との戦闘をしたがるものは少ない。依頼で討伐があれば受けるが、わざわざ魔物を狩るために出かけることはないのだ。そして討伐を目的とする兵士や騎士たちは、主に西側に赴いている。つまり、シソウ個人の働きであっても状況は大きく変わるのであった。


 深くまで行くにつれて出て来る魔物はマーシャの魔法一発で沈む。シソウはその魔力の流れを何とか感じ取ろうとしたが、魔力が変化したと思った時には既に敵は炎の中にあった。

 そしてナターシャもまた、敵へと強襲するにあたって、踏み込むのに風の魔法で勢いを加えており、いかに魔法が便利であるかを実感するのであった。


 しかしシソウとて、魔法は使えないが魔法武具を複製出来るようにすれば、瞬時の発動は可能である。二人の戦いを見ているとさらなる高みが見えてきて、思わず笑みを浮かべるのであった。


 シソウはマーシャの減った魔力を補充しながら、彼女をこの肉体的制限から解き放つにはどれほど強くなればいいのか、まだ見えてこなかった。しかし仮初であろうと複製できる以上、魔物を狩り魂を得て、いつか必ず彼女を自由にするのだと、意気込むのであった。



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