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第三十三話 魔法道具

 すっかり話し込んでしまったため辺りは暗くなり始めていた。侍女の方がそろそろ、と促すと、セレスティアは渋々納得した。そして宍粟へと小さく微笑んだ。


「シソウ様、明日もお話をお聞かせ願えますか?」

「ええもちろん何なりと。セレスティア様のためにこの宍粟、努力は惜しみませんよ」

「シソウ様は大げさですね、ふふ。あの……私のことはティアとお呼びください」

「承知いたしました、ティア様」


 彼女が眠りに就くのを確認してから、宍粟はテレサと部屋を出た。それからアリスを迎えに行って、夕食を御馳走になることにした。さすがに世話になるわけにはいかないと思ったが、この城から出られない以上、そうするしかなかったのである。アリスは一人で心細くないだろうかと思っていると、部屋の中に騎士を招き入れて話を聞いていた。近衛の騎士が十四の少女を侮ることなく素直に従っているところからは、彼らの人間性の素晴らしさと彼女のカリスマ性が窺えた。


 それから騎士に案内されて、広々としたホールへと案内された。しかしそこにはこれといったものがなく、ただテーブルとイスが置かれているだけであった。宍粟が思う王族の暮らしとは全く異なっていて、これがどうでもいい客を通す部屋なのだろうかとさえ思った。しかし宍粟のその考えは裏切られることになった。


 彼らが席について食事を待っていると、この国の王、ザイン・ルナブルクが入ってきたのであった。そして旧友と会話するかのようにごく自然に話しかけてきたのであった。どうやら、この部屋は王たちが使用している晩餐のための部屋であったらしい。宍粟はまさか王の相伴に呼ばれるとは思ってもいなかったので、すっかり面食らっていた。


「シソウ殿、此度は我が娘セレスティアを救ってくれたこと、誠に感謝している」

「王女様が回復なさったことは、私にとっても本望でございます」


 宍粟は冷静になっているため、相手が王であるということに対して慇懃な態度を取るように心がけていた。もしかすると、昨晩の態度は不敬罪に当たるかもしれないと思ったからだ。また、王ザイン・ルナブルクも同様に、娘が回復したことで落ち着いていた。

 王から感謝の言葉が述べられていると、やがて料理が運ばれてくる。皿にこじんまりと乗せられた料理がいくつも出される様はまるでフランス料理だと宍粟は思った。しかし彼はフランス料理は食べたことがなかったので、全て想像である。


 王ザインはアリスが無邪気に喜んでいるのを見て、自分の娘の姿と重なったのか、目を細めて気兼ねなく食事をするように言った。アリスは元気よく返事をして、色取り取りの野菜が盛られた前菜を口にする。


「んー、とってもおいしいです!」

「それは良かった。どんどん食べてくれ」


 宍粟も自分の前に置かれた料理に手を付け始める。緊張で味が分からないかと思ったがそんなことはなく、繊細な味付けの料理は日本にいた頃でさえ食べたことがないほど美味であった。流石は王族、と納得してしまう。

 隣りのテレサを見ると、非常に洗練された動きで食事をしていた。宍粟は自分の教養の無さを恥ずかしく思いつつも、舌鼓を打つ。それから王ザインはようやく本題とばかりに、宍粟に語りかけた。


「それで、何か褒美を取らせようと思う。何か望むものはあるか?」

「私にとっても、セレスティア様がお元気になられたこと以上の褒美は御座いません」

「そう畏まらんでもよい。王としても恩人を何もせず返すということはできないのだ」


 宍粟は望み、と言われてもぴんと来るものはない。テレサやアリスと一緒に居るだけでこれ以上の幸せを望むのは贅沢だと思うからだ。アリスに城をプレゼントしたいとは思うが、それをこの場で言うことは、王族に出ていけと言ってるのに等しい。先日のように騎士にレベルを上げてもらうというのも今後のことを考えるといいかもしれないが、それでは意味がないような気がした。


「では僭越ながら申し上げます。国庫には魔法道具が保管されているとお聞きしました。私は魔法が使えませんので、一度使ってみたいという思いが御座いました。そこで拝見する許可を頂きたく存じます」

「シソウ殿は魔法が使えるのではなかったのか?」

「いいえ、私は通訳魔法さえ使えませんので、こうして言語を習得した次第でございます。拙いところは何卒ご容赦ください」

「なるほど。しかしあれは使用回数に制限がある。容易に使わせることはできないぞ」

「構いません。見て触れてその英知を感じることが出来れば幸いで御座います」


 宍粟はほっと一息吐いた。これは失礼に当たるのではないか、という危惧は杞憂に終わったのである。どんなすごいものがあるのだろうか、とは期待に胸を膨らませながら、料理を口に運んだ。

 それから騎士数名と文官らしき人物を伴った王直々に国庫へと誘われた。厳重な鍵が掛けられた部屋の中には、金銀財宝の類があった。しかし宍粟はそれらに全く興味を示さず、魔法道具を探していた。どうせ『複製』したところで、盗難を疑われて売却などできないのだからと宝石などには何の価値も見出せなかったのである。

 文官が案内する先には、小さな机の上にいくつかの小道具が置かれているだけで、目ぼしいものはなかった。しかしそれらからは魔力が感じられたので、魔法道具であることは一目で分かる。


 王の命令を受けて、文官は説明を始めた。一つ目に取り上げたのは、手のひらサイズの小さなランタンであった。炎の精霊の加護を受けているらしく、魔力を込めると周囲が温かくなるらしい。その場の特性が変わることによるそうだ。次に、小さな管。水の精霊の加護によって水が出るらしい。

 宍粟はこのあたりで、王がすぐに承知した理由を理解した。魔法道具は多少便利な道具で、歴史的な価値はあるが実質的な価値はないのだろう、と。

 それから小さな緑の指輪を示した。これは大地の精霊の加護によって、種子を急速に成長させることが出来るそうだ。それは通常の植物と変わらず食べることも出来るため、遺伝子組み換えなのではなく、ホルモン分泌の亢進だろうか。


 宍粟はそれらの魔法道具を手に取ってみるが、見た目は普通のものと変わらない。しかしこれらはロストテクノロジーであり、これだけの技術力を便利道具に使うということから、より高度な技術力を持っていたと想像できる。

 

 それから一度だけ身代わりになってくれるというミサンガを紹介してもらった。これは一撃で壊れてしまうらしい。そのため投擲などに対しては効果を発揮するが、刺突などを受けるとミサンガが破壊された後も力が加わり続けるため、ほんのわずかな時間稼ぎにしかならずほとんど意味をなさないらしい。

 宍粟はようやく価値のあるものが出てきた、と思った。一つで役に立たないなら三本の矢作戦である。大量に身に着けていれば身の安全は確保できるのだ。

 そして宍粟が次を心待ちにしていると、文官が告げた。


「魔法道具の説明は以上になります」


 宍粟は思わず「使えねえ!」と叫びそうになるが、王の手前で滅多なことは言えず、感動した振りをしておいた。それから国庫を出て、閉じていく扉の向こうにある宝石を見ながら、こんなことなら金でも貰った方が良かったかな、などと考えるのであった。

 彼の魔法道具で成り上がる計画は、早くも頓挫していた。


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