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第二十六話 反撃

 テレサは宍粟の隣まで来て、地に手を付いた。その瞬間、宍粟の集めた魔物の直下の地面が隆起し、急な斜面が形成され始めた。そして勾配に従って魔物が大樹の外へと放り出されていく。

 宍粟が唖然としていると、テレサはすぐさま魔物へと熱波を放った。枯れ木のような魔物は瞬時に消し炭になり、巨木のような魔物は暫く耐えたもののそれ以上抗うことは出来なかった。


 その光景を暫し眺めていると、無数の魔物の魂と魔力が流れ込んできた。魂は魔力と引き合うようで、死亡した魔物の近くにいるものほど多く得られる。しかし魔物に一切傷をつけていない場合は、魔力の残滓がないため引き合うことは無く、魂を得ることは出来ない。

 すなわち、魔物の魂はテレサが倒したにもかかわらず、宍粟にも相当な量が分配されたのである。


「アリス! 貴方もそちらの方々のサポートを!」

「はい!」


 アリスはテレサの魔法を真似て魔物を大樹の射程外に放り投げていく。しかし、それほど慣れていないせいか何匹か取り残しがあった。それをクゼンたちが蹴り飛ばしたり投げたりして全て範囲外に出すと、エリナは魔力を集中させ始める。数秒後、敵の集団に火の雨が降り注ぎ、魔物はのた打ち回った。


 宍粟の中の魔法使いのイメージはテレサとアリスでしかなかったので、魔法使いとは瞬時に魔法が使えて、高威力であるという印象が強かった。しかしエリナは一般的な魔法使いであり、発動まで暫く時間が掛かる。これが普通であるのだが、テレサが目標であり基準だとしている宍粟はイメージとの乖離を修正するのに時間がかかった。


「おいシソウ! 聞いてねえぞ! そんな魔法使いがいるなら突っ込んでいっても大丈夫じゃねえか!」

「あの騎士の状況を見てもまだそう言えるのか?」

「あ、いや、それは……まあいいやとにかく頼むぜ!」


 宍粟はよくこれでクゼンがリーダーをやっているな、と思う。リーダーがこれなのだから他のメンバーも同様だろう。エリナは相当苦労しているな、と慮った。

 騎士たちは既に三割ほど脱落している。しかし既に巨木に達するところまで至っていた。同様に冒険者たちも数を減らし、半数ほどになっている。ここまでしても、あの大樹の魔力はまだ三割ほどしか減っていない。全ての魔物を外で倒せばいいと思わないでもないが、あの大樹は戦闘能力がないものの魔力の回復が早く、持久戦に持ち込むのは得策ではないらしい。


 そうしたやり取りをする中、宍粟は大量の魂を経て肉体が強化されるのを感じていた。隣のテレサも魔物から魔力を得て、疲弊した様子はない。これならすぐにでも二回目に移るのは可能である。

 しかし宍粟が魔物を集めた部分だけ魔物の密度が薄くなっており、集めるにしても移動する必要があった。どうしようか、と悩んでいるとテレサは宍粟の胴体に手を当てて回復魔法を使用した。すっと痛みが引いていき、そして体の疲労も取れると、先ほど魔物の中にいたことによる緊張は(ほぐ)れていった。


 宍粟はクゼン達の方に行き、彼らが取り残している魔物を引き連れてアリスの所へと向かう。既に大部分の魔物は倒されているので、彼らも大規模な行動をせず黙々と作業をするかのように魔物を処理していく。

 アリスは宍粟が連れてきた魔物を土の隆起で押し出すと、そこに火球を放った。枝の魔物はあっさりと火が付き、のた打ち回るせいで他の魔物にも飛び火していた。


「魔力は大丈夫?」

「はい! たくさん倒しているので、大丈夫です!」


 宍粟はほっと一息ついて、大樹の方を見た。そこではまだ戦いが行われており、その激しさは増している。宍粟が一人で行くなら構わないが、そこにアリスを連れていく気にはなれなかった。




「大樹まであと少しだ! 進め!」


 大隊の隊長が叫んだ。彼はこれまで千に近い魔物を屠っていたが、それによる魔力の回復はほとんどなかった。魔物が地に崩れると、すぐに大樹がその魔力を回収してしまうせいである。しかし彼は鍛え上げた剣の技術と経験と勘で疲労を感じさせることなく敵を倒していく。それは彼が若くして隊長の地位にまで上り詰めるだけの才能を持っているからこそなせる技であった。


 一方、それほど慣れていない兵士たちはついて行くのがやっとで、何度倒しても起き上がってくる魔物に押されつつあった。冒険者も同様の有様で、その先頭に立って敵を軽々と叩き潰すファーガスがいなければ戦々恐々としていただろう。


 ファーガスは冒険者たちの手前、余裕を見せていたが、実際のところ状況は芳しくない。さきほど巨大な魔力が感じられて新たな魔物かと思い、撤退を進言しようかと思ったくらいだ。幸いそれは人のものであったが、何故かその主はここから離れた所にいる。まず自分の身を最優先とするのは冒険者ならば特に珍しいことではない。しかし、あれほどの力がある冒険者はあの中にはいなかったはずだ。


 大樹への攻撃としても有効であるほどの魔法使いなら、騎士たちの中に組み込まれているのが妥当である。そこでふと今朝あった女性を思い出した。噂でよく聞いていた彼女ならば容易いことかもしれない、と。

 彼らが数を減らしてくれるのであれば、進むだけだ。ファーガスは巨大な両手剣を振り上げ、一気に魔物へと叩きつけた。


 やがて騎士たちは大樹の麓へと辿り着いた。そしてそびえ立つ大木を前にして、円陣を作り始めた。その中心にいる人物たちは魔力を集中させていく。彼らを守るようにして魔物を退ける騎士たちは相当な手練れ揃いで、魔物相手に一歩も引かない。そして魔法使いたちは、一斉に大樹へと炎を放った。


 その場から逃げることが出来ない大樹は炎に包まれ、木の根元から段々と燃え上がっていく。初めは抵抗するように魔物を降らせていたものの、やがて身動き一つ取らなくなった。観念したか、と誰もが思ったとき、大樹はその内部から破裂するように燃えている樹皮を吹き飛ばした。それは丘の麓まで降り注いでいく。熱と爆発の衝撃で討伐隊に少なくない被害をもたらした魔物は、それが最後の足掻きではないことを見せつけようとしていた。

 大樹は新たな母体となるべく大きく膨れ上がった種子を撒き散らし、その場に崩れていく。空に舞い上がった種はゆっくりと地面に落ちて芽を出した。そして魔物の残骸の上に新たに降り注いだ種子は、その魔力を吸い取って成長していく。このままでは切りがないのであった。


「全員、一匹たりとも残すな! あとはこいつらを倒して終わりだ!」


 騎士たちはすぐさま魔物へと襲い掛かった。もう戦いの終わりも近い。誰もが勝利を確信し、最後の力を振り絞って剣を振るった。

 

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