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ルーエルの黎明 そして……

「明るい……朝日?」


 まぶたの上から当たる眩しい光に目を開く。目の前には何処までも続くような白。夜が明けたのだろうか。だとすると随分と眠っていた事になる。が、どうやらその心配はなさそうだ。身体が全く動かない。それ程時間が経っているのなら、少しくらい回復しても良いだろう。それがないという事は、


「まぁ、死にましたかね」


 制御も安定しない大魔法をぶっつけ本番で使ったのだ、そうだったとしても無理はない。もしくは、力の使いすぎで人間としての意識が消えかけているか。どちらにせよ、あまり良い状況ではなさそうだ。

 しかし後悔はない。私は自分の守りたい物の為に、できる事の全てをやって見せた。この戦いで使い捨てられるはずだった命を限界まで燃やした自信がある。父に頂いたこの命、やっと有効に使えた、やっと胸を張って父の元に行ける。ただひとつだけ心残りなのは、皇女が助かったかどうかが分からない事か。


「……あら?」


 ふと、視界の端に一つの影が現れる。流れるような黒い髪をなびかせながら、優しく微笑みかけてくれる少女。あの笑顔に、私は何度助けられた事か。


「迎えに来てくれましたの? それとも見送り?」


 できているかは分からないが、精一杯笑顔を作ろうとする。生死は未だ分からないが、最後に顔を見る事ができて良かった。後は向こうについてから確認する事にしよう。そろそろ眠くなってきた。


「さて、そろそろそちらに参りますわ、お父様……いえ、イーヴン……」


 今、会いに行きます。あちらでは一緒にいてくれますか? イーヴン・フェアブラッド、私が唯一、愛した男……。


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「闇の上級魔法……派手にやってくれたな、ルーエル……!」


 顔を庇っていたマントを下ろしながら、私は呟いた。周囲を見渡すとあれだけいたはずの妖魔は一体もおらず、地に伏した死骸ですら綺麗になくなっている。充満していた邪気も今は全く感じない。


「誰か! 生き残った者はいないのか!?」


 私の呼びかけに応える者もない。当然といえば当然か、術の発動以前に我が隊はほぼ全滅していた。生き残った者達も、弱った身体ではあの術から逃れる事はできまい。私とて、咄嗟に結界を多重に展開しなければどうなっていたか分からない程だ。そして、発動させたルーエル自身もただでは済まないだろう。ソウルイーターの力を用いれば確かに可能な魔法。しかし、アレの魔力は持ち主の心を蝕み最後には身すら魔に堕とす。これだけの力を発動させれば、既にルーエルに人としての意識が残っているとは思えない。アレの魔法は、文字通り全てを喰らい尽くしてしまった。


「決死の攻撃……父と運命を同じくするか、ルーエル」


 彼女にはできれば生き残って欲しかったが、当初からこの作戦で生存できる人間は私程度のものだろうとは分かっていた。影姫が予想通り動いてくれたお陰で被害と成果は予想通り、いやむしろ上級妖魔を一体討伐できた事を考えれば、成果は予想以上と言えるだろう。


「あとはリアナの連れた影姫が機能すれば」


 二箇所で妖魔の戦力を削れば十分だ、後は私とリアナ、二人の聖騎士が本国にて待機している本隊と合流すれば、万全の状態で本物の皇女を護衛できる。まさしく完璧な作戦だ。


「そう、あまりに完璧で……最悪な筋書きだ」


 自嘲気味にフッと笑う。歯を食いしばり、地面を思い切り殴りつけた。無論そんな事をしても手から血が滲むだけ、苛立ちも晴れず、なんの意味もない。頭では分かっていても、憤りを留める事はできなかった。


「フェアブラッド、済まぬ……貴様との約束、守れなんだ」


 脳裏にイーヴン・フェアブラッドの事が蘇る。剣の力に頼りすぎ、日に日に凶暴になる精神。時期に身体までが蝕まれ、討伐が行われた際には、魔法を使う度に身体が異形に近づいていた事を今でも覚えている。しかしそれでも剣を砕いた瞬間、あの男は鉄の意志で自我を取り戻して見せた。あの時のフェアブラッドはある種誰よりも騎士だった。だからこそ、その最後の言葉には報いたいと思い続けてきた。


『シェルフォート様、最後にお頼み申したい……娘の、ルーエルの事をお願いできないか』


 あの時は干渉する前にルーエルが失踪してしまい、叶わなかったが、今度こそ……そう思っていたのだが。今度もこのザマだ、まったく自分が情けない。


「同志一人助ける事もできず、何が聖騎士だというのだ」


 どれだけ強い力を持っても、どれだけ国を救う事ができても、自分の大切な物は何一つ守る事ができない。聖騎士とはなんとも皮肉な存在である。


「リアナ……」


 ふと、娘の顔を思い浮かべる。別働隊で任についている彼女は無事だろうか。ふと、嫌な予感が心を過ぎった。私はそれを必死に振り払う。大丈夫だ、彼女にはミックが付いている。少し助平なところもあるが、アレも立派な神聖獣、必ずやリアナを守り抜いてくれるだろう。


「そうだ、リアナにはこれより本隊と合流し、皇女を守る使命があるのだ。このようなところで死んでもらっては困る」


 結局は国の為か。一瞬そう思ったが、すぐに振り払った。国の為で何が悪い、私達はその為に力を授かったのだ。甘えた考えはよせ、余計な感情は捨てろ。私はファンヴェル・シェルフォート、玄武の神聖獣を賜った、誇り高き聖騎士だ。


「待っていろ、リアナ。今そちらに合流する!」


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