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青い川から赤い川へ流れ、白い白い、と僕は言った。

掲載日:2026/09/12


 冬でも最低気温は15度以上。

 そんな熱帯雨林(ジャングル)で、凍えた話をしよう。



 僕は当時、青い川(レルサフ)って、呼ばれてた。

 子供は、そういう名前をつけられる。


 臆病なピューマ(オンピオンピ)

 けたたましいクモザル(カッカラビィ)

 短い蔓(テテヅ)短い大蛇(ボアヅ)


 自然に持ってかれないため。

 自然ならざる名は、自然に取り込まれる。


 小舟(カヌア)山刀(マチエテ)竈門(ベルディエ)

 そんな名前は、決してつけない。


 まあ、僕は、自然に。

 持ってかれちゃったんだけど。




 ジャングルは暑い。

 ヤシの葉を束に日影に。

 ゆりかご、という歳では。

 もう、ないけど。

 僕は、小舟(カヌア)の上、揺ら揺られ。


 鳥や猿の声、虫や風の音。

 うっとうっとと、眠りこけ。



 目が覚めた。流されていた。

 小舟(カヌア)(もや)ってなかった?


 雨季には、まだ早い。

 なのに川幅が広くなって。


 ただ、この時の僕は、ちっとも怖くなく。

 だって()ってのは。

 遡っていけば、帰れる。

 なんて。そう思ってた。


 船上にはヤシの実。

 魚籠の中に獲った魚(カージナルテトラ)

 食料はあったから、どうにかこうにか。


 

 三日三晩。流された。

 そのとき僕は、(ロア)まで数えられたから。

 間違いない。


 僕は、世界の狭間を見た。

 青い川(レルサフ)

 赤い川(レメルビ)


 (サフ)の水と()の水が。

 混ざり合うことなく。

 二つの色の違う()が、

 ずっとずっと、続いていた。


 大蛇(ボア)長い大蛇(ボアデ)長い長い大蛇!(ボアデデ)

 そう思った。


 僕は、大蛇(ボア)の背を小舟(カヌア)で渡った。

 青い川(レルサフ)から赤い川(レメルビ)へと。


 赤い()水に、手を入れると。

 青い(サフ)水とは違って、冷たくて。

 けれど、優しく感じて。

 なんだか不思議な気がした。



 赤い川(レメルビ)の岸に着いた。


 知らない鳥の声。知らない猿の声。

 知らない虫の音。知らない風の音。


 僕にとって、全くの新世界。


 小舟(カヌア)が流されないよう。陸まで引っ張って。

 初めて見る長い蔓(テテデ)山刀(マチエテ)で切って。

 木にくくって。奥の方へ。奥の方へ。


 三日三晩。野宿をし。

 四、当時は数えられない。

 四日目の朝が来た。


 冷たい。とは違う。

 汗が乾く、水浴びをする。

 ヤシの葉を被さったときとも違う。

 初めての感覚。


 凍える。僕は、まだその言葉を。

 知らなかった。


 だから。


 ただ。


 白い(シジュ)白い(シジュ)白い(シジュ)白い(シジュ)白い(シジュ)白い(シジュ)

 うわ言のように唱え震えた。

 体に葉を巻いて。火を焚けるだけ焚いて。

 諤々と体を震え合わせ。


 意識も。

 遠く。

 遠。

 と。






 大人になってから知ったことだけど。

 青い川(レルサフ)赤い川(レメルビ)が混ざらないのは。

 水温や流れの速さが違うから。

 らしい。

 

 そして二つの川は酸性度も違う。


 青い川(レルサフ)は、酸性。

 酸性の川は、ボウフラが育たない。


 赤い川(レメルビ)はアルカリ性。

 よく、蚊も育つみたいで。




 そう僕は、ジャングルで。

 マラリアによって、凍えたんだ。



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