こちら異世界転生緊急処理局第三班! 〜後輩が勇者より先に聖剣を抜いた〜
仕事終わりに後輩とダイナーで夕飯とも朝食ともつかない食事を取る。それが鳴海の疲れ切ったルーティンワークである。
「今月何件目の処理だっけ?」
鳴海が後輩である田中に聞けば、彼は口一杯に詰めていたハンバーガーを飲み込んでから答えた。
「八件目ですね」
「地球のトラック運転手に同情するわ……」
「将来なりたくない職業ランキング入りしちゃいますよね」
「トラ転させるならトラックの運ちゃんの方がいいと思うの、だいたい猫か飛び出した子供をかばった子が来るけど、一番の被害者は運ちゃんでしょ……」
「それはお上の采配としか言えないっすねえ……」
ふわふわしたこの後輩も、この仕事に馴染んできたらしい。鳴海が泣きそうになりながら指導したかいがあった。だがしかし。
「それで君がやらかした件数は覚えているかな???」
「目が怖いです、今月は四件しかやらかしてません!!」
「六件だよ! なに勇者に勝手に聖剣渡してんのよ、フラグ立つ前に渡したせいで聖剣の名前文字化けしてたわ!!」
「いや、RTAさせようかと」
「勝手に開催すんなRTAを!! ステータスオープンしたときの勇者の顔ドン引きだったわ!!」
鳴海と田中の業務内容は、転生者の与えられた職務を円滑に進めるためのサポートである。大体が勝手なお上が転生させた人物の尻拭いでもあるが。
「問題は文字化けだけだったしステータスの数値は見えてたので実際問題早く解決しましたし、人事評価上がりましたよ」
「解せない……」と鳴海は頭を抱えた。清々しいまでの成果主義。助かると言えば助かるが、それでもドジっ子後輩の評価が上がるのは解せないにもほどがある。
「一体どこを見て人事評価が上がったのよ」
「発想の柔軟性です」
「クソ〜ッ!! 結果さえ出せば課程を評価しないクソシステム〜ッ!!!!」
「先輩、仕事は努力より結果ですよ」
「殺すぞ」
「ド直球のパワハラやめてください」
このポヤポヤ男、ドジっ子のくせになんか運は良いのである。余計にムカつく。
「でも田中くん四件目でうっかり聖剣抜いちゃったから懲罰ものだよね???」
鳴海が顔をバッと上げて田中を見れば、彼は付け合わせのポテトを呑気に咀嚼していた。
そう、この田中、転生した勇者候補の目の前で村人に扮したまま「これが聖剣ですぜ、ほら、このとーり普通の人間には抜け──た?」とやらかしたのである。勇者候補も「えっ?」となってたし、田中も「えっ?」となっていた。鳴海はひたすら頭の痛みと戦っていたが。
「でも聖剣が『まあお前でもいいか』って妥協してくれたのでなんとかなりましたし……」
「聖剣って妥協してくれるんだ」
「バカと紙一重の素直な男が好きみたいです」
「ダメ男が好きなのその聖剣?」
「まあ一応報告上げたら始末書出せって言われましたけどね…」
「ざまあみろ」
「そしたら『始末書出せて偉いね!勇者として活躍したし特別手当出しとくね!!』って言われました」
「万年人手不足で評価基準が赤ちゃんになってる……」
鳴海はテーブルに突っ伏した。冷えたコーラの入ったグラスの結露でビチャビチャしている。世知辛い世の中だ。
「世の中運だけで渡っていけると思うなよ……」
「コーラに酒入ってました?」
「切実に転職したい」
「いや、ただのコーラだなあ」
「勝手に飲むなコノヤロウ! セクハラだ!」
「でも聖剣、『アレよりアンタの方が好みよ♡』って言ってたんで、どのみちあの転生者には抜けなかったかと」
「まさかのオネエ聖剣」
「宿屋のドアに立てかけていてもいつのまにかベッドに潜り込んでくる怪奇現象がありました」
「邪剣では?」
鳴海は田中が聖剣を抜いたあと、勇者候補とともに魔王討伐に向かわせた。鳴海は居残りだ。上司に怒涛の報連相が待っていたので。まさかそんなことになってるとは思わなかったのである。
「フン、おもしれー聖剣……」
「投げても戻ってくるんでブーメラン戦術で魔王を倒しました」
「魔王可哀想すぎるでしょ」
「いや、職場まで着いてこようとしたのでなんとか逃げ出してきましたよ……」
「いや、変わった杖だなあと思って見てたんだよね。たしかに剣だねそれ」
鳴海の言葉に田中は飛び上がり、座っていたソファの横に立てかけられた聖剣を見つけて「ギャーッ!!」と叫んだ。鳴海のテンションがジワジワと上がってくる。非常に愉快。
「鳴海さん助けて!!」
「上司に連絡してくるわー」
「鳴海さん!!」
「すみませーん、田中くんが『第六世界』から聖剣持ち帰ってきちゃったんですけど」
「鳴海さーん!!!!」
30分クオリティ。
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