表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/94

第九話「新たな命と恐ろしい予言」

# 第二部 第九話「新たな命と恐ろしい予言」


翌朝、メルベルが洗面所へ向かうと、アザリアがトイレの前で青い顔をしていた。


「どうした?」


慌てて駆け寄るメルベルに、アザリアは弱々しく微笑んだ。そして、少し恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに言った。


「えへへ……来たかも」


メルベルは一瞬、言葉の意味を理解できなかった。しかし、すぐに気づいて顔が輝いた。


「おお!本当か!?」


「たぶん……でも、まだ確かじゃないから」


「すぐに医者を呼ぼう」


メルベルは興奮を抑えきれずに、使用人に医者を呼びに行かせた。


ハロルド医師が到着し、慎重にアザリアを診察した。しばらくして、彼は穏やかな笑みを浮かべて告げた。


「二ヶ月目ですね。おめでとうございます」


その言葉に、部屋中が歓声に包まれた。


アジョラは、まるで天にも昇るような表情だった。


「まさか、まさか二人目の孫が……」


彼女の目には涙が浮かんでいる。息子を諦めていた26年間、そして今の幸せ。全てが夢のようだった。


「すべてが順調すぎて、怖いくらいね」


アジョラは震える声で呟いた。


それから数ヶ月が経った。


医師の検診で、胎児が男の子だと判明した日、メルベルは平静を装いながらも、心の中で小さくガッツポーズをした。


(男だ!)


しかし、次の瞬間、自分の頭の中に訓練スケジュールが無意識に浮かんできて、愕然とした。


(俺も結局、親父と同じことを考えているのか……)


朝の鍛錬、剣術の基礎、体力作り……。気がつけば、自分が受けた訓練の内容を、息子用にアレンジしている自分がいた。


夕方、祝いの席が設けられた。


ニイナには特別に仕立てた可愛らしい着物を着せて、アジョラが嬉しそうに話しかけている。


「ニイナちゃん、お姉ちゃんになるのよ。弟を大切にしてあげてね」


「おとうと?」


まだ言葉もおぼつかないニイナが、不思議そうに首を傾げる。


その時、ナブとリーナが到着した。


「おめでとう、メルベル!」ナブが豪快に肩を叩く。「男の子だって?いいなあ」


「ありがとう」メルベルは苦笑した。「でも、どう育てるか悩むな」


酒が入り、話が弾む中で、自然と話題は男児の教育に移っていった。


「やっぱり、剣術は基本だろう」ナブが熱く語る。「俺が直々に教えてやってもいいぞ」


「いや、俺の流派を継がせないと」メルベルも負けじと言い返す。


女性陣が不満そうな顔をした。


「もっと優しく育てなさいよ」リーナが口を挟む。「音楽とか詩を愛する、心豊かな少年にした方がいいわ」


「そうそう」アザリアも同意する。「ニイナと同じように、普通の子として」


「一応はするよ、一応は」メルベルは慌てて言った。「でも、鍛えておかないと、いざという時に困るし……」


ナブが頷く。


「そうだな。今度、神殿に幼年部を設けて、学校を作る話があるんだ。その第一期生にしたらどうだ?」


「いいアイデアだが……」メルベルは考え込む。「素性を明かすと、まだちょっと困るかもしれない」


「いや、最近は不心得者もいなくなったし、大丈夫だろう」


男たちは、まだ見ぬ男児の姿を思い浮かべながら、あれこれと教育論を戦わせた。剣術の流派、体力作り、学問の重要性……。


「お前たち、気が早すぎるわよ」


アザリアが呆れたように言うと、一同は笑い声を上げた。


夜も更けて、ナブたちを客用の寝室に案内した後、メルベルとアザリアも寝室に戻った。


「楽しい夜だったわね」


アザリアが幸せそうに呟く。メルベルも頷いた。


「ああ、久しぶりに騒がしくて良かった」


しかし、眠りについてしばらくすると、またしても予知夢がメルベルを襲った。


今度の夢は、前回とは違っていた。


自分は戦っていない。ただ、見ているだけだ。


目の前で、自分によく似た少年が戦っている。まだ十歳になるかならないかの幼い顔。黒い髪と、メルベルと同じ瞳を持つその子は、必死に剣を振るっていた。その手にあるのは、メルベルの流派の曲刀ではなく、真っ直ぐな直剣だった。その構えと動きは、どこかナブの剣技を思わせる。


相手は、前に見たあの黒い甲冑の少女だ。


少女の剣技は鋭く、容赦がない。黒い炎を纏った剣が、少年を追い詰めていく。


少年は必死に応戦するが、実力の差は歴然としていた。一撃、また一撃と、少女の剣が少年の体に傷を刻んでいく。


血が飛び散る。少年の顔が苦痛に歪む。


「ガレス!」


メルベルは叫んだ。なぜその名前を叫んだのか、自分でも分からない。それは父の名前だった。しかし、なぜか少年に向けて叫んでいた。


目が覚めた。


また汗びっしょりだった。心臓が激しく脈打っている。


隣でアザリアが心配そうに見つめていた。


「また……?」


メルベルは頷くことしかできなかった。


確信があった。これは予知夢だ。間違いない。


そして、恐ろしい理解が脳裏を貫いた。


(あの少女は……ニイナだ。そして少年は、これから生まれてくる息子)


自分の子供たちが、将来殺し合うことになる。その光景を、予知夢は見せているのだ。


なぜ?どうして自分の子供たちが戦わなければならない?


「メルベル、大丈夫?」


アザリアの声で我に返る。


「ああ……大丈夫だ」


嘘だった。全く大丈夫ではない。しかし、この恐ろしい予言を、今アザリアに話すことはできなかった。


窓の外はまだ暗い。夜明けまでまだ時間がある。


メルベルは目を閉じたが、もう眠ることはできなかった。脳裏には、血まみれになった息子の姿と、憎しみに満ちた娘の顔が、交互に浮かんでは消えていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ