表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

前編 ー1

 

 ――目をあけると、視界が真っ白だった。


 さっきまで何の変哲もない地下富士にいたはずだ。現在の皇国に不足しているマグマ資源の採掘拠点を開発するため、30人くらいで事前視察に来ていた。今回はそこまで危険はなかったはずだけど、落盤にでもあったんだろうか。


 徐々に視界の白が収まってくる。白いと思っていたのは光が強すぎたらしい。

 やはり国家事業はちがうな。俺らじゃここまで電気をふんだんに使えないのに。……って。


「電球がない…。天井が青くて高くて光ってる……?」

「――おお、目が覚めたか。」


 誰だ?


「そこまで警戒した目を向けるな。……、まあ私がお前なら最大級に警戒するだろうから何も言えんな。私はチヅル。お前は?」

(すすむ)。真間進だ。……ここはどこだ?ここまでふんだんに照明を使えるなんて、よっぽどの豪農か富豪なんだろう。本京都か?」


 名前を名乗り、そのままの勢いで一気にまくしたてると、チヅルと名乗った女は面白いものを見るかのように目を細めた。


「進。お前は何を言っている?本京都などという地名はここにはない。京都ならあるけど、ね。」

「『京都』だって?!」


 その名前は聞いたことがある。そう。


『悪い子は京都へ流民送りになるよ――。』


 皇国に生まれる子供なら誰もが聞いたことがあるこれは、凶悪な犯罪者が送られると言われている無法の地。本京都をもじって、子供を脅すための作り話だと思っていたけど本当にあったなんて。


 それなら、目の前にいるこの女もまた。


 そう考えついたとたんに体は跳ね起きていた。反射的に右手が腰に伸びる。普段の仕事中にぶら下がっている小刀を取ろうとしたが、伸ばした手は空を切った。


 チッ、取られてるか。そう思うと同時に視界が下に下がる。――あれ、


「…急に動くからだ。まだ横になっていろ。」


 いくら男女差があるといっても、凶悪犯罪者相手に武器なしの丸腰、立ち上がっただけで目が回る貧弱男じゃあ勝てない。諦めてもう一度腰を下ろし、そのまま仰向けになる。背中にあたる敷物は緑色で、しっとりとしていた。


 いや、敷物じゃない。これは……草だ。


 一体なんだここは。草なんて貴重な植物資源、こんなにずさんに管理されていいものじゃない。俺みたいな一般市民がこんな簡単に触れないのに。


 そして『京都』という地があるとか、天井が知らない天井だとか。もしかしてここは……。


「…なぁチヅル、ここは『流民の地』なのか?」

「そうだな進。ここは、お前たち『地下の民』が言うところの『流民の地』で間違いない。」


 そうか、ここが。何というか、


「長閑だな。」

「そうか?......地下の民にはそう映るのか。」


 チヅルが何か言った気がしたが、それ以上に俺はこの目にしたことのない世界に心を奪われていた。


「なぁチヅル、天井が青くて光ってるのはなんだ?」

「天井?――ああ『空』のことか。」

「ソラ?」

「ここには天井はない。上にどこまでも広がっているんだ。それが『空』。今は昼間だから青く見えるが、夜になると暗くなってたまに星が見える。」

「ホシ?」

「ああ、地下にはそれもないな。夜になればわかる。」


 チヅルが教えてくれることは、どれも俺には新しくて。後から考えたら彼女と1対1のとても貴重な機会だったのに、目線が常に周りに泳ぎっぱなしだったと思う。何ともったいないことをしたものだ。


「進、そろそろ移動しよう。ここは長居するとよくない。」

「分かった。」


 ここはこんなに綺麗なのに。そう思ったが、ここのことはチヅルの方がよく知っている。だから、この時は特に疑問に思わず頷いた。

 起き上がると、今度はふらつかなかったのでそのまま一緒に歩く。


 しかし、辺りを見渡しても今いるところと同じような草っ原が延々と広がっているのみ。後ろが高くなっているけど、あれが富士山なんだろう。開発担当者が自慢げに言っていたからな。「マグマの上には山っていう土の塊が乗っている。」って。



 しばらく歩いただろうか。俺は、巨大な透明な箱と向き合っていた。その箱は人間が何百人と入れるほど大きく、現に中で人が動き回っている。……息がしにくくならないのか疑問だ。


 空中で人が歩いている!と驚いて、よく見たらそこにも透明な四角い筒が箱から伸びていた。


「ガラスは地下にもあると聞いたが。もしかして初めて見たのか?」


 なんと。俺の知っているガラスは、力を入れるとすぐに壊れるのに、いや、だからこそか。豪農がこぞって集めていた。

 それがどうだ。目の前のガラスでできた箱は何十人という人間に踏まれようともヒビすら入らず、そびえたっている。


「ガラスは知っているがこんなに巨大なものを見たことはない。これは、流民の地にはどこにでもあるものなのか?」

「どこにでも、というと語弊があるが、主要な地には揃っている。ほら、入るぞ。」

「入る、ってどこから…。」


 目の前のガラス箱は、一見して入れるような穴は見えない。


「ほら、こっち。」


 連れられてきたのはガラスの前。……ん?亀裂が入ってるのか。それにしてはやけに真っすぐすぎる気がするが。


 ウィーン


 っ驚いた。目の前が急に割れたと思ったら、中への穴が出来上がっている。


「驚かせたか。これはドアという。これは私たちが来たことを感知して開くから『自動ドア』だな。」


 ドアは知ってる。見たことしかないけど。

 でも自動ってなんだ。電気で動かすにしたってどうやって感知してるんだ?


「こんな所で立ち止まるな。今から移動するから。」


 歩みが止まった俺をチヅルが急かす。そんな彼女についてドアを通り、ガラスの建物の中へ足を踏み入れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ