それぞれの使命
「どう言う事? 何で天使が人間を滅ぼすんだよ」
「…………」
リラフィエルちゃんは顔を伏せたまま黙り込んでしまった。只事じゃない事をなんとなく察した俺は、それ以上の疑問をとりあえず飲み込んだ。
暫くして、静かに続きを話し始める。
俺は最初、罪深い人間への罰だと思った。この世界に転生してまだ数日しか経ってないけど、俺は理不尽にも追放された。
この事実だけを考えても人間は罪深い。
滅ぼされて当然だと思った。
天使は、人間よりも神に近い存在。神や天使は正義。
正しく導いてくれる偉大なる存在。
人間は神や天使に導かれし者だとそう思ってた。
結論を言えば本能レベルで洗脳されてたって事だ。
アーディルを生み出す為だけに、何度も生まれ変わらせて、人生を繰り返させる。アーディル生産機、それが人間。
「あたしは知らなかった。人間がアーディルを生み出していた事も、上位の天使様達がそのアーディルを搾取していた事も……何も」
人間が牛や豚を育てそれを食べるのと同じで、だったら〝天使が人間を滅ぼしてアーディルを奪うのは間違ってる〟なんて人間は言えるのか?
凄く複雑な気持ちだった。
ん? ちょっと待てよ。
話を聞いて思ったんだが……。
「その話を何で人間の俺に? 俺達は敵同士って事になるだろ?」
「…………わからない。もしかしたら、あたしはとんでもない間違いをしたのかも知れない」
だけど、とまた物思いに耽ける。
「……あたしは、自分の正義を……貫きたいって言うか」
「自分の正義……」
「アーディルは天使の力の源なの。とても大事なもの。だけど勝手に奪って良いものじゃない………………と、思う」
「俺達人間にしか生み出せない力か」
力……。
そう言えばまだ言ってなかった事があった。
「これは偶然なのか? 転生して俺は神喰と言うアビリティを身につけたんだ。もしかしたらそのめちゃくちゃなパラメータ設定をした時に」
「わ、わざとじゃないから! 一応言っとくけど! ……それよりカミグライ? 聞いた事ないアビリティね。どんなアビリティなの?」
「きっとそうなんだ! このタイミングで神喰に目覚めた事、これは運命なんだ! 天使を止めろと!」
「ちょっと聞いてる? と言うか人間のあんたがたった1人でどうにかなる訳ないじゃない! ましてや超絶子供だし! ふざけるのも」
「ふざけてなんかない!!」
急に怒鳴るように声を張り上げたから、リラフィエルちゃんびっくりして固まっちゃったけど、俺はふざけて言ったんじゃない。
「天使が人間を滅ぼす? だったら俺が天使を滅ぼす!」
感じるんだ。人間を守る為にこの力を使えって言われてるような気がして。
俺達人間は食べる為に家畜を育てる。
だが牛や豚と決定的に違うのは、人間は意思疎通が出来る。話し合えば問題が解決出来る事もあるんだ。
一方的に力で捩じ伏せる事は正義とは言わない。
俺の考えが間違ってるとしても、心の中の正義を貫きたい。
そう。
それはきっとリラフィエルちゃんの存在、そして言葉が目覚めのきっかけだったのかも知れない。
「元々ミスを償う為にあんたの人生を見届けて、必要ならサポートする為にここまで来たんだけどね。天使の秘密を人間に話してしまったし……時間操作魔法を許可なく使ってしまったし……色々と掟を破っちゃったからもう戻れない……かな」
「時間操作魔法?」
「うん……。天使様達が下界に降りて来る前の時間軸を使ってメルティシア(ここ)にきて、あんたに伝える為に……ね」
「伝えるって何を?」
「ごめんなさいって」
人間狩りが始まったら、俺にはもう会えないと思ったから掟を破ってまで時間操作を使った。天使の秘密や人間狩りの事は言わないつもりだったらしい。
「だけど……何でかな。言っちゃった。あたしも心の何処かであんただったら何とか出来るんじゃないかって思ってたのかも」
きっとリラフィエルちゃんも感じてたんだ。
元々別々に回ってた俺と言う歯車とリラフィエルちゃんと言う歯車の歯が、この時カチッと嵌ったような。
「思ったんだけど、また時間操作を使って天界に戻れば、掟を破った事にならないんじゃないの?」
「時間操作は基本天界でしか使えないし、下界で使うには大量のアーディルが必要なの。仮に今時間操作を使えたとしても天界は時間の概念が存在しない領域だから」
「よく分からないけど、使っても意味がないって事?」
「そう。だからもうあたしは掟破りとなってるはず」
「天界に戻っても、居場所がないのか」
「重罪だから魂の消滅かなきっと……でも覚悟は決めて来たから」
魂の消滅って……。
リラフィエルちゃん、そこまでして……。
「大丈夫! そんな事にはならないし、させないから」
「……え?」
「今、俺の前にいるのは天使リラフィエルじゃなく、仲間の…………」
自分が天使だって考えて悩まないように……せめて俺と一緒にいる時ぐらいは……。
「な、なに……? じーっとこっち、み、見ないで」
「…………そう! リラ! リラだ! これからはそう呼ぶ事にする!」
「は、はあ!? 何勝手に決めてんのよ。リラ……? 人間がよく使ってる…………あ、愛称ってやつ…………?」
「俺の事はゼンと呼んでくれ!」
「あんた、なんかキャラ変わってない?」
「あんたじゃなくて、ゼン」
「な、何と呼ぼうがあたしの勝手でしょう!?」
5日後にやって来る天使達に備え、神喰の力を最大限に使い熟せるようにしないとな。
だったらまずは……この島から脱出か。
「ゼン! あそこ!」
指差したところに目を配ると……。
「あ、2回建ておじさんか。ん? 肩に人らしき何かを担いでるな」
って、あれ?
「今、俺の事ゼンって呼んだ? 呼んだよね?」
「う、うるさい! それより担がれてるあの羽の生えたのきっと〝フェアリー〟だよ! 食べるんだわ!」
そうだ……確か羽が大好物とか言ってた気がする。
「助けよう!」
俺達は森の中をササッと移動しながら追跡を試みた。