修行開始
俺達はラムリース城、謁見の間で王様にこれまでの経緯と、俺やリラ、レエナが何者なのかを全部話した。
ロゼルスの王様と違って、ここの王様は見窄らしい格好の俺を軽蔑する事もなく、また黒い翼のリラについても触れなかった。そればかりか優しく迎え入れてくれたんだ。
「明日には天使様が我々人間を殺しにやって来ると。う〜む……俄には信じられんが……我が娘を救っていただいた恩人じゃ。その言葉を信じ、我々ラムリースは小さき救世主と運命を共にしよう」
ところで、と王様は続ける。
「ミュティアからアビリティを継承したリラフィエル様は、新たな大聖女となる事を国民に伝えねばならんですじゃ。リラフィエル様良いですかな?」
「……大聖女としてまだ力不足ですが、承知致しました。ラムリース王」
天使襲来まであと1日。
王様との謁見を済ませた俺達は、ミュティアとここで別れる事になった。
そら王女だもんな。仲間が減るのは寂しいが、また会いにくればいいだけの話だし。
城門まで見送ってくれるらしくて、他愛無い話をしながら歩いていた。
「短い間でしたけれど、本当に有り難う御座いました。正直明日が来るのが怖いですが、皆さんを信じて私も自分で出来る限りの事で尽力したいと思います」
「大丈夫だぜミュティア! 俺がみんなを守ってやっから!」
「ええ」
ん? どうしたミュティア。
微笑みながら目の前に来たんだが。
じっくり見た事なかったが、なんともまあ……ふつくしい……。
なに? あれ?
え、え? 抱っこされた。
チュ。
「え!?」
「頑張ってね。小さな救世主様」
俺の脳内で何回もさっきの場面がリプレイされ続ける。
あぁ……これは……とろけりゅ〜。
もう一生左頬は洗わん!
「う、うう……うぅぅっほほぉぉぉぉーーーい♪」
「う、嘘……」
「レエナも! ミュティアたん、レエナもチューして欲しいのですぅ!」
「貴女も頑張ってね。チュ」
「はわわぁ〜ん☆ ハイなのです! あれれ? リラたんはチューしてもらわないのですか?」
「あ、あたしは大丈夫!! …………あんな自然に…………どうやったら…………んっとに超絶ヘンタイなんだから…………なによ………………き、キスくらいで喜んで…………」
リラがなんかブツブツ呟いてるんだが、それには触れずにほっといて、と。
俺達はミュティアと別れ城門を後にし、王様から聞いていた修行場へと向かった。
修行場と言っても普通の修行場とは違うらしくて、王の許可が無ければ入る事が出来ない特別な場所みたいなんだ。
〝久遠の鍛錬場〟って王様言ってたっけ?
王都を出て東に歩いて行ったところにある洞窟の最奥にあるらしい。
その奥には鉄の大扉があって、扉を開けると別の空間に飛ばされて個々で修行に励む事が出来るんだと。
「洞窟の最奥って言ってたから深いのかと思ったら、もう扉が見えたぞ」
「あの扉の先が、久遠の鍛錬場なのです?」
「ああ、そうみたいだな」
「あたし達それぞれが別の空間に移動して、個々で鍛錬に励むのね。ミュティアも聖女の修行をここでやってたっていってたわね」
扉の前には台座があって、近づくと「ブン」って音と共にディスプレイが浮かび上がったんだ。
こんなファンタジー世界で、地球にありそうなテクノロジー。
不思議と違和感を感じないんだよな。この世界に来て戦闘ログとか、ピンチになったらフワッと視界に現れる〝ステータス〟とかゲームみたいな仕様の世界だもんな。
「部屋を色々設定出来るみたいよ。…………これは環境の設定ね。とりあえずデフォルトの大草原で設定しておくわね……っと」
「なんかよく分からんが、任せるよ」
光るキーボードに触れてテキパキと熟してるんだが、リラもこの世界に来たのは初めてのはず。
なのに、何で使い方が分かるのかと聞いてみたら、天界にも似たようなシステムがあるみたいで、メルティシア語は勉強の賜物だと。
メルティシアだけじゃなく、他の世界の言葉も分かるんだってさ。
「6時間後にここに戻ってこられる様に設定したわ」
「6時間か……よっしゃあ!」
「ゼンたん、リラたん、レエナもっとカチコチに強くなって戻って来るのです!」
「ああ! 期待してるぜレエナ! そんじゃ、俺から行くぜ! お前らまた後でな!」
ガチャ。
扉を開けて入ると、果てしない草原がずっと向こうまで広がってた。
それ以外は何もない。
〝お前の弱点はな、お前自身が弱い事だ〟
見習い天使のリューエルが俺の心臓を貫いた時、奴が放った言葉。
今でもあの貫かれた感覚は覚えてる。
俺の弱点、それは俺自身が弱い事。それを聞いた時、確かにそうだと思ったんだ。
レベルが100になっても戦法はほとんどヴァルガントを召喚して戦ってもらう事。
今までヴァルガントだけで倒せてしまっていたから、リューエルの言葉はマジで目から鱗だった。
と言うわけでこの6時間の修行は俺自身を鍛える事に使う事にした。
「とりあえず、狼炎に相手になってもらうか」
{ゼン←召喚【霊神狼炎】を召喚した}
∟{St100→[100]をリザーブした}
「うっしゃあ!! 久々の召喚だぜぇ!! 修行すんだろ? くぅぅ〜! ウズウズしてきやがる!! なあ主、早く修行やろうぜ! 試合すればいいのか?? なあ!」
確かヴァルガントってのは俺の心のイメージと言うか、俺の一部が反映されるんだっけか。
こう言う一面も持ってるんだな……俺ってうざかったのか。
「分かってると思うが、俺を鍛える為にお前を呼んだんだからな」
「わあーってるって。確かにオメェ自身はクソ弱ぇから鍛える価値はあるっちゃあるが、オレサマがいれば問題ねぇよ」
「クソ弱ぇってお前なぁ〜仮にも俺はお前の主だぞ。もっと言い方があるだろ」
「いいから聞けよゼン。オメェは強くなる必要はねぇ。オレサマを出してくれれば全部片付けてやるよ。天使でもなんでもな」
「お前が強いのは分かってる。言っただろ? 今回は俺自身の修行だって。ちょっと試したい事があってお前を呼んだんだよ」
「試したい事ってなんだよ」
リューエルとの戦いからずっと構想してきたものがある。
それは召喚の普段の使い方を覆す新しい使い方。
実現出来れば、俺の弱点は……無くなる!