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小さな手


ーリラフィエル視点ー



「う…………ん……」



 目が覚めた。


 あたしは部屋のベッドで横たわっていた。


 ここが何処なのか、今どう言う状況なのか、最後の記憶を辿ろうとしてみたんだけど、意識がまだ朦朧としてるみたいで中々思い出せなかった。


 すると部屋のドアが開いて、ボサボサの黒髪にボロボロの布を纏った少年が入って来る。

 

 ゼンだわ。

 改めてだけど、あんた本当に子供になっちゃったのね。

 目が合うと満面の笑みで駆け寄って来た。



「よかったー! めちゃくちゃ心配したぞー!」


「あたしどうなったの?」


「気を失いかけて海に落ちてく所を何とか助けたんだ。そっからラムリースまでずっと浄化の輪を使ってただろ? レエナが言うには短い間に凄い技を連発したからじゃないかってよ」



 あたしが浄化しなかったら皆命を落としてしまうって必死だったから余り覚えてないけど。

 そっか、何とかここまで持ったのね。



「レエナとミュティアは?」


「2人はグニシスの葬式でラムリース城に行ってる。体は何ともないのか?」



 まだ体が重く感じるし、痛みもあるんだけど「大丈夫」と彼に返事した。



「全然大丈夫に見えねぇけど。お前、無茶してるだろ」


「…………な、なによ」



 ゼンの言葉にドキッとしちゃった。

 いつもはお気楽変態マンなのに、何深刻そうに真面目にこっち見てんのよ。

 な、なんか……見透かされたみたいで超絶恥ずかしいんだけど、でもちょっとだけ……嬉しいかも。


 え……? あたし今嬉しいって……思ったの……?



「お前の翼、真っ黒だし、それって連続して凄い技を使ったからなのか? なんで真っ黒になったんだよ」



 それは……。



「別に……何ともないわよ」



 ベッドから立ち上がって見せる。



「その言い方は何ともあるんだよ。言えよ、何で隠すんだよ」



 何よこいつ。

 見た目が子供だから余計に真面目な話をしてるとギャップを感じるんだけど。



「まさか……ミュティアが全身真っ黒になってたのと、同じ事が起こってるのか?」



 違う、そうじゃないの。

 だけどあたしは「違う」って言葉で返す事はしなかった。

 何だろう、彼の重荷になりたくないから?

 そもそもあたしって、彼の人生のサポートをする為にここまで来たはずなのに……余計な心配はして欲しくないって言うのが本音……なのかも。



「リラ、何か隠してるだろ」


「え? な、、何も……隠してなんか……」


「ミュティアを救ってからずっと変なんだよ。最初は疲れたからだと俺も思ってたんだ。だけど違うんだろ?」


「……………………」


「そんなに俺の事が信用できねぇのかよ。天使が攻めて来るって話を俺にしたのは、信じてくれたからだと思ってた」



 何だろうこの感覚。

 心の中を抉られるような苦痛。

 苦痛……なのかな? 天界にいた頃はここまで心が揺さぶられる思いをした事はなかった。


 こいつと接してると、何でこんなに揺さぶられるんだろう。

 心の中に入って来て欲しくないのに、本当は入って来て欲しかったの? あたし。



「苦しんでるなら、それを助けるのが仲間だろ? 大丈夫じゃねぇのはもう分かってんだよ。お前が天使だろうがどうでもいい。俺にとっては大切な」


「もう天使じゃないの」


「……なんだって? 天使じゃない? どう言う事だよ」



 【天命の蘇魂(ラウィルブ)】は、魂を呼び戻す天使の奥義。

 だけどこれは一度きりの技。

 そう、それはつまり……。



「奥義を使った天使は、そのアビリティを失い退化してしまうの。だから今のあたしはただの人間……」



 ううん、人間ですらない。

 天使じゃなくなって、アーディルを失って使えなくなって、翼にアーディルが満たされなくなったから……。


 役に立たない醜い黒に染まった翼を持つ……存在なにか

 何だか急にとてつもない孤独感を感じて……怖い。

 


「人間でも……ないかも…………」


「リラ……」


「あたしって、結局あんたに迷惑かけてばかりよね……。天使であっても…………なくても」



 何がサポートよ。それどころか足手まといじゃない。

 悔しかった。不甲斐ない自分が憎くて涙が出て来た。

 あたし何で泣いてるの? 悔しいから? 憎いから?

 天使じゃなくなって悲しいから?


 ミュティアからもらったアビリティが使い熟せなかったから?


 心臓がキューっと締め付けられる様な痛みを感じる。


 それと同時に小さな2本の手が伸びて来て、あたしの両手と重なった。



 なに……。



「ちょ、ちょっと……何して」


「いいから」


「いいからって、あんたまた何か変な妄想考えてるんでしょう!」


「リラ!」



 余りにも強く、そして真剣なその言葉にびっくりしたあたしは、まるで叱られた子供みたいに黙ってしまったの。

 子供はこいつなのに、なんか凄い違和感。

 だけど温かくて居心地がとても良いんだけど。



「俺がそばにいてやっから。孤独なんて感じさせねぇ」


「な!?」



 ほ、本当にあたしの心を見透かされてるんじゃないわよね!?

 【読心】のスキルは使えないはずよ?

 いや待って! 【スキャン】が使えるんだったらもしかしたら【読心】も!?


 だけどそれは流石にないか。もし使えるならとっくにこれもバレてるし。


 嘘……じゃあ、偶然なの?



「天使でも人間でも何だっていいんだよリラ。俺にとってお前は大切な仲間なんだから」


「大切な……………………仲間……」



 何なのこの複雑でモヤモヤする気持ち。

 何期待してたのよリラフィエル。

 

 そ、そうだわ!

 きっと神喰のスキルで何かしたのよ! きっとそうよ!

 

 そう思ってみたけど、それは嘘だった。

 いつもは手なんて何か理由がないと繋がないのに、それぐらいこいつの事嫌ってる…………はずなのに……。


 小さな子供の手に、超絶ドキドキしてるあたし。

 正直、もっとこの時間を感じていたいって思っちゃったんだけど。


 そんな恥ずかしい事を言えるはずもなく、あたしの方から手を振り解いてしまった。



「い、いいいつまで握ってんのよ! バカ! ヘンタイ!」


「はは……あはは」


「な、なに……笑ってんのよ」


「いつものリラに戻ったなって思ってさ」


「もう! 最初からいつものあたしだってば!」


「はいはい。そんじゃ王宮に行こうぜ」


「王宮に? どうしてよ」


「天使達の事、伝えておいた方がいいだろ? お前の言う通りなら明日だぞ?」


「明日!?」



 天使の人間狩りが始まるまでもうあと1日しかない。






 

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