力を合わせて
レエナの魔法のおかげで、あっという間に海辺へとやって来た俺達は、そこで倒れてる女性を見つけた。
ただ、見たところ相当やばい状態みたいなんだ。
魔物にやられた? いや、だったら何らかの戦いの痕跡があるはず。
栗色の綺麗なロングヘアのお姉さん。
魔法使い? 神官? みたいな衣服なんだがそんな事より驚いたのは、顔が真っ黒なんだよ。
地球で言う黒人の健康的な黒さじゃなく、明らかに何かの呪いにかけられたかのような……。
いや、顔だけじゃないな。
「手も真っ黒だぞ……」
手に触れようとした時、2人の「触らないで」と言う揃った声に止められる。
「な、なんだよ」
「このお姉たんから物凄い魔素を感じるのです!」
「感じるってもんじゃないわ。漏れ出てる」
「魔素? って言うと……瘴気か!?」
「はいなのです……」
「どうして自分の体に魔素を……。取り込んだの……? どうやって……取り込む……吸収…………」
何かリラが思い当たる事があったのか、難しい顔で考え込んだと思ったら「は!?」っと目が見開く。
「ま、まさか……まさかこの女性……女神の光翼を使えるの!?」
「プリエルド?」
「三女神の1人、癒しの女神ミレイネス様のお力を行使する神術なの。天使でも神術なんて使えるのは階位を持つ天使ぐらい、見習いのあたしでも神術なんて使い熟せないのに……」
「どう言う術なんだ? そのプリエルドって」
周囲の穢れを吸収して、体に取り込んで体内で穢れを癒す術。
だが、人間のマナだけで消すには相当膨大なマナを必要とするってリラが言った。
「……ぁ……………………ぅ……」
「おい、相当やばそうだぞ! 回復魔法とかでなんとか出来ないか?」
「ダメなのよ。治癒術なんかじゃ穢れは癒せない。ここまで穢れが広がってたら……残念だけど……もう……」
「て………………ん………………さま…………?」
「おい! 大丈夫か!? 今助けてやるからな!!」
「ごめんなさいなのです! レエナ……攻撃魔導術しか使えないのです……ごめんなさいなのですぅ!!」
「てん…………し……さま。私のアビ…………ティ…………を」
「くそ! なんて言ってるか分からない!」
「あたしにアビリティを継承するって言ってるのよ。…………多分」
アビリティを? 何でリラに?
そこで思い出した俺は【スキャン】してみる。
ピコ。
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ステータス
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ミュティア・ディア・ラムリース
Lv66
Hp2270
Mp5510
St100
攻撃力75
防御力56
魔力143
精神力255
行動力60
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大聖女
ーーーアクティブーーーー
⚫︎浄化法
⚫︎治癒術
⚫︎神術
ーーーパッシブーーーーー
???
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「大聖女……ミュティア」
「何でもかんでもスキャンは使っちゃダメ……って言ってられないよね。少しでも救える方法があるなら。ごめんなさいね、ちょっと調べさせてね」
リラの目がエメラルド色に光る。
今更だが【スキャン】してる時はあんな風に目がカラコンを嵌めたみたいに変わるんだな。
「…………ミュティア・ディア・ラムリース……もしかして王女?」
「ダメだ。名前とアビリティぐらいしか分からない」
「わ…………た……」
やばい……本当に瀕死の状態だ。このままだと助けられなくなるぞ。
神喰の力じゃ助けられないのか!
「くそ!! 何か方法はないのかよ!!」
「ごめんなさいなのですぅ!! レエナ……レエナ……ぐすん」
ギィィン! ギィィン! ギイイイン!!
なん、なんだ!? レエナから波動が……。
おいおいおい……これって、魔力の封印が!?
こんな時にレエナの魔力が暴走したら……。
「れ、レエナ落ち着け! なっ! 絶対何か手はあるから大丈夫だ! なっ!」
「ぐすん……本当……なのですかぁ?」
よ、よ〜し、意外にも簡単に落ち着いてくれたぁ……。
「……方法、1つだけあるわ…………」
ほら、リラが何か方法を見つけたんだよ。
見ろよレエナ、リラが……ん?
どうしたリラ? 何でそんなに深刻な顔してるんだよ。
「何か方法見つけたんだろ? どうした?」
「……うん。………………だけど」
「………………ぁ…………ぐ……ぅ……」
「……天使としての…………だから……」
「おいリラ! 何かあるなら早く言えよ! 死んじまうぞ!」
「リラたん? どうしたのですか?」
「……関わった命は全力で救う。ミレイネス様の教えの通りに……あたしの正義を貫いて来たのに……」
「そ……の……こと………………葉…………」
「だけど、あたしじゃ……見習いのあたしじゃ力が足りないのよ……」
そう言いながらミュティアの震える手を掴んだ時、彼女達の体を強く激しい光が埋め尽くしたんだ。
「……え? あたし……が……?」
思わず俺やレエナは目を閉じる。
その中でリラがブツブツと独り言のように喋ってる声が聞こえて来るんだが、何を話してんだ?
光が落ち着いて俺が目を開けた時にはミュティアの命の光も一緒に消えていたんだ。
間に合わなかった……。
「この人、あたしに大聖女のアビリティを……命と引き換えに……」
「くそぉ……!」
「リラたん、さっき方法があると言ってたのです。何か方法があるのですか?」
「うん…………。天命の蘇魂と言う天使の奥義を使えば、この人の魂を呼び戻す事が出来る。だけど足りないの」
「足りないって?」
「あたしのレベルじゃアーディルを保有出来る量が少なすぎる……力不足なのよ……」
「保有出来る量が少ない……?」
つまり、逆に言えばアーディルをもっといっぱい保有出来れば生き返らせる事が出来るって事。
エネルギーを集めれば……あぁもう!!
何とか答えが出て来そうなのにぃ!!
〝【スキルツリー】〟
〝Sp145〟
スキルツリーとスキルポイント?
そうそう、リューエルとの戦いでレベルが一気に100になったんだ。
その時のスキルポイントをまだ振ってなかったわ。
でも何でこのタイミングで…………?
「そうかっ!!」
リラにパワーを渡せる方法をスキルツリーから探せって事なんだ!
毎回ピンチになると俺の視界に表示されるシステムか何なのか知らんが、マジで助かる!
何かに導かれるまま俺はスキルツリーを広げると、視界いっぱいに星座みたいに丸い光が広がった。
パワーを渡せるスキル……。
……違うな…………これも違う……。
「ゼン?」
「ちょっとだけ待っててくれ。直ぐに見つけるから」
「見つける?」
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神喰技〈未修得〉
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【ブラッドリンク】必要SP【100】
⚫︎消費Bp 5
【説明】
共有者AのリソースをBへと繋ぎ、Bが使うリソース消費スキルをAが代わりに消費する術。
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は!?
「閃いたぁぁ!!」
「さ、さっきからゼンたん。1人で一体どうしたのですかぁ!?」
これでレエナとリラを【ブラッドリンク】で繋げばいいんだ!
共有者をレエナにすれば、あいつのマナは確か無限大だから永久に枯渇する事はないはず!
例えアーディルがとんでもない膨大なエネルギーでも、レエナのマナは無限!
よっしゃあ!! いけるぜぃ!!
あ、消費Bp……Bpを消費するのか!?
〝Bp10〟
そう言えばリューエルの魂を【喰らう】で食べた時にBpが増えてたっけ?
多分そうだよな? まあ今は深く考えててもしょうがあるまい。
【ブラッドリンク】が使える状態って事なのだ!
早速俺はスキルツリーから【ブラッドリンク】を修得して、2人を繋いだ。
「2人を繋ぐイメージで……。よ! っと」
【ゼン←神喰技【ブラッドリンク】を発動した】
∟{Bp10→5}
∟{レエナ←共有者}
∟{リラ←リンク済み}
「はわ!? これわぁ〜! 一体何なのですかぁ!!」
「お前達を繋いだんだ。これでレエナの無限大マナをリラが使えるようになったはず!」
赤黒い光の線がちょっと不気味だが……レエナからリラへしっかり流れているし、リンク状態になってる事間違いなし!
「リラ、これで奥義が使えるはずだ! やってみてくれ!」
「わ、分かったわ!」
するとリラは祈るように呪文みたいなものを呟き出した。
大丈夫! これでミュティアを生き返らせれる!
「天命の蘇魂」
その言葉と共に彼女の体が強く輝き出した。